78 / 94
本編
E28 後始末
しおりを挟む
あの悪夢のような日から二か月が過ぎた。
現場で捕らえられたエスピーアがペラペラとしゃべってくれたおかげで月虹教団への捜査は恐ろしいほど順調に進み、奴らの犯罪にかかわりがあった貴族のみならず、商人や口利き屋などの仲介業者も片端から摘発する事ができた。
摘発された商人どもがさっさと口を割ったおかげで、連鎖的に末端の連中まで次々に逮捕されている。
事件当初はマリウス殿下に捜査の陣頭に立っていただいたが、俺もすぐに復帰して検挙された奴らの裁判に必要な法的処理に没頭した。結果的に数多くの家が取り潰しとなり、領主不在となった地域は王家の直轄地となったり、王党派の有力貴族が治めることとなった。教会派はすっかり勢力を失い、王党派に鞍替えする貴族も後を絶たない。
これだけの騒ぎが起きたので、外国からの介入があってもおかしくはなかったが、幸いなことに隣国ダルマチア王妃の従姉が我が国の筆頭公爵であるアハシュロス家に輿入れしてきたばかりだったので事なきを得た。我がシュチパリアだけならともかく、ダルマチアとその宗主国であるオストマルクまで一緒にまとめて喧嘩を売りたがる輩はそう多くはない。
あの事件に関わった者たちがあらかた検挙された頃、パトリツァの傷も癒えて取り調べやある程度の移動にえ耐えられるようになったという。
ちょうど良い区切りなので、医師から病状の説明を受けると共に、そろそろ彼女の処分を最終決定する事にした。
まず、医師からパトリツァが妊娠はできない身体になったが日常生活には全く問題はなく、性交は可能だと説明を受けた。
マシューがこれからも男を咥えこめて良かったな、と皮肉ると、「阿婆擦れ呼ばわりされた」と大げさに嘆きだしたので思わず苦笑してしまった。
私やマリウス殿下にまで皮肉られ、三日とあけず愛人たちと遊び歩いていたことや孤児院で児童買春していたことを指摘されて青褪めてはいたが、「自分が非難されている」という事そのものに対する反応だったように思う。その行為の何が悪いのか、いまだに理解できていないのだろう。
「自分は侯爵夫人にふさわしい羨望と憧憬を集めるよう努力していただけで、何一つ悪い事はしていない」と言い出したのにはさすがに参ったが。
嫡子を産んだ事以外は、侯爵夫人としての務めを何一つ果たさず遊び歩いていただけだと非難され、さらにマシューと殿下から本来侯爵夫人がなすべき仕事をほとんどディディが行っていたと指摘された彼女は、あろうことかディディの事をアバズレ呼ばわりし始めた。
激怒したマシューと殿下にディディが性的な行為ができない身体だと告げられ、自身がふしだらな人間だから他人の事も自分と同類に見えるのだろうと責められると、ついにはエスピーアの名を呼び始めたのだからお話にならない。
他人をアバズレ扱いしておいて、自分は都合が悪くなると情夫に助けを求めるのかと呆れつつ、奴がプルクラともども既に処刑された事を告げると呆然としていた。
児童売春に孤児育成手当の着服、人身売買や麻薬の取引、そして不正摘発の指揮を執っていた法衣貴族の殺害。
いずれも重大な犯罪だ。
尋問官の丁寧な『尋問』によって余罪も多々追及してあるのだ。それだけの罪を犯しておいて、処刑を免れ得ないことなど火を見るよりも明らかなのだが、そんなこともわからないのか。
その上で、裁判で罪を裁かれるか、療養と言う名目で幽閉されるかを選ばせたところ、療養を選んだ。まぁ、常識的に考えて、貴族であればその選択しかないだろう。
……俺としては、裁判で彼女の罪を白日の下に晒しても、その結果俺自身が罪に問われたとしても、全く構わなかったのだが。
パトリツァ自身には最後まで罪の重さがわからない……というよりは、罪の意識そのものがなかったようだ。
自分もエスピーアやプルクラの共犯として、卑劣で悍ましい犯罪の数々について裁かれなければならない存在なのだと言う事は、最後まで理解できなかったのだろう。
最後の日まで、自分はあくまで被害者だと繰り返す姿はあまりに惨めで醜悪だった。
現場で捕らえられたエスピーアがペラペラとしゃべってくれたおかげで月虹教団への捜査は恐ろしいほど順調に進み、奴らの犯罪にかかわりがあった貴族のみならず、商人や口利き屋などの仲介業者も片端から摘発する事ができた。
摘発された商人どもがさっさと口を割ったおかげで、連鎖的に末端の連中まで次々に逮捕されている。
事件当初はマリウス殿下に捜査の陣頭に立っていただいたが、俺もすぐに復帰して検挙された奴らの裁判に必要な法的処理に没頭した。結果的に数多くの家が取り潰しとなり、領主不在となった地域は王家の直轄地となったり、王党派の有力貴族が治めることとなった。教会派はすっかり勢力を失い、王党派に鞍替えする貴族も後を絶たない。
これだけの騒ぎが起きたので、外国からの介入があってもおかしくはなかったが、幸いなことに隣国ダルマチア王妃の従姉が我が国の筆頭公爵であるアハシュロス家に輿入れしてきたばかりだったので事なきを得た。我がシュチパリアだけならともかく、ダルマチアとその宗主国であるオストマルクまで一緒にまとめて喧嘩を売りたがる輩はそう多くはない。
あの事件に関わった者たちがあらかた検挙された頃、パトリツァの傷も癒えて取り調べやある程度の移動にえ耐えられるようになったという。
ちょうど良い区切りなので、医師から病状の説明を受けると共に、そろそろ彼女の処分を最終決定する事にした。
まず、医師からパトリツァが妊娠はできない身体になったが日常生活には全く問題はなく、性交は可能だと説明を受けた。
マシューがこれからも男を咥えこめて良かったな、と皮肉ると、「阿婆擦れ呼ばわりされた」と大げさに嘆きだしたので思わず苦笑してしまった。
私やマリウス殿下にまで皮肉られ、三日とあけず愛人たちと遊び歩いていたことや孤児院で児童買春していたことを指摘されて青褪めてはいたが、「自分が非難されている」という事そのものに対する反応だったように思う。その行為の何が悪いのか、いまだに理解できていないのだろう。
「自分は侯爵夫人にふさわしい羨望と憧憬を集めるよう努力していただけで、何一つ悪い事はしていない」と言い出したのにはさすがに参ったが。
嫡子を産んだ事以外は、侯爵夫人としての務めを何一つ果たさず遊び歩いていただけだと非難され、さらにマシューと殿下から本来侯爵夫人がなすべき仕事をほとんどディディが行っていたと指摘された彼女は、あろうことかディディの事をアバズレ呼ばわりし始めた。
激怒したマシューと殿下にディディが性的な行為ができない身体だと告げられ、自身がふしだらな人間だから他人の事も自分と同類に見えるのだろうと責められると、ついにはエスピーアの名を呼び始めたのだからお話にならない。
他人をアバズレ扱いしておいて、自分は都合が悪くなると情夫に助けを求めるのかと呆れつつ、奴がプルクラともども既に処刑された事を告げると呆然としていた。
児童売春に孤児育成手当の着服、人身売買や麻薬の取引、そして不正摘発の指揮を執っていた法衣貴族の殺害。
いずれも重大な犯罪だ。
尋問官の丁寧な『尋問』によって余罪も多々追及してあるのだ。それだけの罪を犯しておいて、処刑を免れ得ないことなど火を見るよりも明らかなのだが、そんなこともわからないのか。
その上で、裁判で罪を裁かれるか、療養と言う名目で幽閉されるかを選ばせたところ、療養を選んだ。まぁ、常識的に考えて、貴族であればその選択しかないだろう。
……俺としては、裁判で彼女の罪を白日の下に晒しても、その結果俺自身が罪に問われたとしても、全く構わなかったのだが。
パトリツァ自身には最後まで罪の重さがわからない……というよりは、罪の意識そのものがなかったようだ。
自分もエスピーアやプルクラの共犯として、卑劣で悍ましい犯罪の数々について裁かれなければならない存在なのだと言う事は、最後まで理解できなかったのだろう。
最後の日まで、自分はあくまで被害者だと繰り返す姿はあまりに惨めで醜悪だった。
0
あなたにおすすめの小説
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜
恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」
命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。
その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。
私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、
隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。
毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた
その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。
……しかし、その手紙は「裏切り」だった。
夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。
身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。
果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。
子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる