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本編
E28 後始末
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あの悪夢のような日から二か月が過ぎた。
現場で捕らえられたエスピーアがペラペラとしゃべってくれたおかげで月虹教団への捜査は恐ろしいほど順調に進み、奴らの犯罪にかかわりがあった貴族のみならず、商人や口利き屋などの仲介業者も片端から摘発する事ができた。
摘発された商人どもがさっさと口を割ったおかげで、連鎖的に末端の連中まで次々に逮捕されている。
事件当初はマリウス殿下に捜査の陣頭に立っていただいたが、俺もすぐに復帰して検挙された奴らの裁判に必要な法的処理に没頭した。結果的に数多くの家が取り潰しとなり、領主不在となった地域は王家の直轄地となったり、王党派の有力貴族が治めることとなった。教会派はすっかり勢力を失い、王党派に鞍替えする貴族も後を絶たない。
これだけの騒ぎが起きたので、外国からの介入があってもおかしくはなかったが、幸いなことに隣国ダルマチア王妃の従姉が我が国の筆頭公爵であるアハシュロス家に輿入れしてきたばかりだったので事なきを得た。我がシュチパリアだけならともかく、ダルマチアとその宗主国であるオストマルクまで一緒にまとめて喧嘩を売りたがる輩はそう多くはない。
あの事件に関わった者たちがあらかた検挙された頃、パトリツァの傷も癒えて取り調べやある程度の移動にえ耐えられるようになったという。
ちょうど良い区切りなので、医師から病状の説明を受けると共に、そろそろ彼女の処分を最終決定する事にした。
まず、医師からパトリツァが妊娠はできない身体になったが日常生活には全く問題はなく、性交は可能だと説明を受けた。
マシューがこれからも男を咥えこめて良かったな、と皮肉ると、「阿婆擦れ呼ばわりされた」と大げさに嘆きだしたので思わず苦笑してしまった。
私やマリウス殿下にまで皮肉られ、三日とあけず愛人たちと遊び歩いていたことや孤児院で児童買春していたことを指摘されて青褪めてはいたが、「自分が非難されている」という事そのものに対する反応だったように思う。その行為の何が悪いのか、いまだに理解できていないのだろう。
「自分は侯爵夫人にふさわしい羨望と憧憬を集めるよう努力していただけで、何一つ悪い事はしていない」と言い出したのにはさすがに参ったが。
嫡子を産んだ事以外は、侯爵夫人としての務めを何一つ果たさず遊び歩いていただけだと非難され、さらにマシューと殿下から本来侯爵夫人がなすべき仕事をほとんどディディが行っていたと指摘された彼女は、あろうことかディディの事をアバズレ呼ばわりし始めた。
激怒したマシューと殿下にディディが性的な行為ができない身体だと告げられ、自身がふしだらな人間だから他人の事も自分と同類に見えるのだろうと責められると、ついにはエスピーアの名を呼び始めたのだからお話にならない。
他人をアバズレ扱いしておいて、自分は都合が悪くなると情夫に助けを求めるのかと呆れつつ、奴がプルクラともども既に処刑された事を告げると呆然としていた。
児童売春に孤児育成手当の着服、人身売買や麻薬の取引、そして不正摘発の指揮を執っていた法衣貴族の殺害。
いずれも重大な犯罪だ。
尋問官の丁寧な『尋問』によって余罪も多々追及してあるのだ。それだけの罪を犯しておいて、処刑を免れ得ないことなど火を見るよりも明らかなのだが、そんなこともわからないのか。
その上で、裁判で罪を裁かれるか、療養と言う名目で幽閉されるかを選ばせたところ、療養を選んだ。まぁ、常識的に考えて、貴族であればその選択しかないだろう。
……俺としては、裁判で彼女の罪を白日の下に晒しても、その結果俺自身が罪に問われたとしても、全く構わなかったのだが。
パトリツァ自身には最後まで罪の重さがわからない……というよりは、罪の意識そのものがなかったようだ。
自分もエスピーアやプルクラの共犯として、卑劣で悍ましい犯罪の数々について裁かれなければならない存在なのだと言う事は、最後まで理解できなかったのだろう。
最後の日まで、自分はあくまで被害者だと繰り返す姿はあまりに惨めで醜悪だった。
現場で捕らえられたエスピーアがペラペラとしゃべってくれたおかげで月虹教団への捜査は恐ろしいほど順調に進み、奴らの犯罪にかかわりがあった貴族のみならず、商人や口利き屋などの仲介業者も片端から摘発する事ができた。
摘発された商人どもがさっさと口を割ったおかげで、連鎖的に末端の連中まで次々に逮捕されている。
事件当初はマリウス殿下に捜査の陣頭に立っていただいたが、俺もすぐに復帰して検挙された奴らの裁判に必要な法的処理に没頭した。結果的に数多くの家が取り潰しとなり、領主不在となった地域は王家の直轄地となったり、王党派の有力貴族が治めることとなった。教会派はすっかり勢力を失い、王党派に鞍替えする貴族も後を絶たない。
これだけの騒ぎが起きたので、外国からの介入があってもおかしくはなかったが、幸いなことに隣国ダルマチア王妃の従姉が我が国の筆頭公爵であるアハシュロス家に輿入れしてきたばかりだったので事なきを得た。我がシュチパリアだけならともかく、ダルマチアとその宗主国であるオストマルクまで一緒にまとめて喧嘩を売りたがる輩はそう多くはない。
あの事件に関わった者たちがあらかた検挙された頃、パトリツァの傷も癒えて取り調べやある程度の移動にえ耐えられるようになったという。
ちょうど良い区切りなので、医師から病状の説明を受けると共に、そろそろ彼女の処分を最終決定する事にした。
まず、医師からパトリツァが妊娠はできない身体になったが日常生活には全く問題はなく、性交は可能だと説明を受けた。
マシューがこれからも男を咥えこめて良かったな、と皮肉ると、「阿婆擦れ呼ばわりされた」と大げさに嘆きだしたので思わず苦笑してしまった。
私やマリウス殿下にまで皮肉られ、三日とあけず愛人たちと遊び歩いていたことや孤児院で児童買春していたことを指摘されて青褪めてはいたが、「自分が非難されている」という事そのものに対する反応だったように思う。その行為の何が悪いのか、いまだに理解できていないのだろう。
「自分は侯爵夫人にふさわしい羨望と憧憬を集めるよう努力していただけで、何一つ悪い事はしていない」と言い出したのにはさすがに参ったが。
嫡子を産んだ事以外は、侯爵夫人としての務めを何一つ果たさず遊び歩いていただけだと非難され、さらにマシューと殿下から本来侯爵夫人がなすべき仕事をほとんどディディが行っていたと指摘された彼女は、あろうことかディディの事をアバズレ呼ばわりし始めた。
激怒したマシューと殿下にディディが性的な行為ができない身体だと告げられ、自身がふしだらな人間だから他人の事も自分と同類に見えるのだろうと責められると、ついにはエスピーアの名を呼び始めたのだからお話にならない。
他人をアバズレ扱いしておいて、自分は都合が悪くなると情夫に助けを求めるのかと呆れつつ、奴がプルクラともども既に処刑された事を告げると呆然としていた。
児童売春に孤児育成手当の着服、人身売買や麻薬の取引、そして不正摘発の指揮を執っていた法衣貴族の殺害。
いずれも重大な犯罪だ。
尋問官の丁寧な『尋問』によって余罪も多々追及してあるのだ。それだけの罪を犯しておいて、処刑を免れ得ないことなど火を見るよりも明らかなのだが、そんなこともわからないのか。
その上で、裁判で罪を裁かれるか、療養と言う名目で幽閉されるかを選ばせたところ、療養を選んだ。まぁ、常識的に考えて、貴族であればその選択しかないだろう。
……俺としては、裁判で彼女の罪を白日の下に晒しても、その結果俺自身が罪に問われたとしても、全く構わなかったのだが。
パトリツァ自身には最後まで罪の重さがわからない……というよりは、罪の意識そのものがなかったようだ。
自分もエスピーアやプルクラの共犯として、卑劣で悍ましい犯罪の数々について裁かれなければならない存在なのだと言う事は、最後まで理解できなかったのだろう。
最後の日まで、自分はあくまで被害者だと繰り返す姿はあまりに惨めで醜悪だった。
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