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閑話
輝く峰(3)
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大晦日、コルチャオのマーケットに遊びに来た僕たちは、挙動の怪しい男を見つけて後をつけた。
どうやら彼らは王都に硫黄を持ち込んで、何らかの破壊工作をもくろんでいるようだ。
打ち合わせが済んだあと、街中で荷を運んでくれる馬車を手配するらしい男と、指示を出していたローブをかぶった人物、どちらを追跡するか迷った。
荷の詰め替えにはそれなりの時間がかかる上、雪が深いこの季節、山間を通る細い道を夜間に馬車で通過するのは自殺行為に等しい。
この時間から出発するならば、湖沿いに北上してプロドロム伯爵領プレゼジダに向かうしかない。コルチャオからプレゼジダへ向かう道は一つしかないので、早馬か魔法で連絡を取って街道で検問すればそれで済むだろう。
今は組織の幹部とつながりのありそうなローブの人物を追跡してアジトの場所の見当をつけることにしよう。
ローブの人物はどんどん南のモラヴェス山脈に向かっているようだ。標高2000メートル近い最高峰ストランラ山の頂は、エルダとの国境にもなっている。
「やはりエルダ山岳党とみて間違いないようだね。国境の山に向かっている」
「厄介だな。山中に入り込まれたらまともな道がない。あの広大なモラヴェス山脈をくまなく探すなど、イリュリアの砂浜で一本の針を探すようなものだぞ」
気づかれないよう、ひそひそと囁きあいながらも奴からは目を離さない。
一時間近く歩いただろうか?奴は山中に向かう道から森の中へと外れていこうとした。
「どうする?」
「まずいね。ここから先は山が険しくなるけど……僕たち、冬山用の足ごしらえじゃないし」
「さすがにこれ以上は無理か」
遭難したら元も子もない。追跡はあきらめるより仕方がない。
「仕方がないね。あっちの方向には何がある?」
「今は南東のダーダスに向かう道の途中にいるから、右にずれていくということは……南のニコリカに向かっているのか?」
エリィに尋ねると、すらすらと地名が出てくるのは良いが、どこのことやらさっぱりわからない。
「ごめん、こっちの地名はよくわからない」
「ああ、山中の小さな集落ばかりだから知らなくて当然だ。普通にエルダに入るならばこの道を真っすぐ行って、ダーダス経由で国境のヴィドホヴェに向かうんだが……ニコリカはストランラ山の山頂付近の村だ。道があまりにも険しいので周囲の集落との行き来もほとんどない」
「それじゃ、そこからエルダに入れる?」
「ニコリカの向こう側の斜面はほとんど崖だからな。山頂から転がり落ちればエルダにはたどり着くだろうが、着く頃には雪像になっているだろう。もしかすると岩にでもあたって砕けているかも」
なるほど、そこから普通の人間が生きて歩いてエルダ入りするのは難しそうだ。
少なくとも今の僕たちが立ち入ることができる場所ではないらしい。
「しょうがないね。いったんコルチャオに戻って馬車の手配をした奴を探そう。荷づくりにも時間がかかるし、臭いがすごいからそう簡単には引き受け手が見つからないんじゃないかな」
山道を足早に歩いてコルチャオに戻ったころには、もうすっかり夕方になっていた。
冬の陽が落ちるのは早い。漆喰の白壁と薄い岩でふいた黒い屋根が並ぶ街並みは、真っ白な雪化粧をした上から茜色の夕日に照らされて、鮮やかなコーラルピンクに染まっていた。
「若様! 探しましたよ」
街に入ったとたん、タシトゥルヌ家の家臣と思しき郷士たちが駆け寄ってきた。
「どれほどご心配したことか。お前も何のためにお仕えしてると思っているんだ。こんなに遅くなる前に館にお連れしないと」
ちょうど僕たちの父親くらいの年齢のリーダー格の郷士は、顔じゅうに安堵の色を浮かべてエリィに一言物申し、ついで従者にお説教を始めた。
「チョバーン、すまない。不審者を見かけたので後をつけていたんだ。護衛なら彼もいるから大丈夫だろうと」
彼が正騎士顔負けの腕前なのは知っているだろう、と言うエリィにチョバーン氏は渋面になった。
「まったく、若様お一人の御身ではないのですよ。不審者をご自身で追跡するなんて、何かあったらスキエンティア家はどうなると思っているんですか」
それに大切なお友達を危険な目に遭わせたくないでしょう?
そうたしなめられて、エリィも反省した顔を見せる。本当は僕が後をつけようと提案したからなんだけど、口をはさんでよいものか悩んで結局何も言えずじまいだった。
「それは俺が短慮だった。奴らは王都に硫黄を持ち込もうとしていたんだ。つい仲間の後を追ったのだが山深くに入られてしまって」
「何ですって!? それは確かなんですか」
僕につかみかからんばかりの勢いで確認してくるチョバーン氏。
無理もない。硫黄の密輸は重罪だ。
密輸を試みた先は一般参賀などの行事が目白押しになっている王都である。破壊工作が実行されれば、どんな惨事に至るかわかったもんじゃない。
「はい。ダーダスに向かう山道の途中で右に大きく逸れていきました。ご子息のお話ではニコリカと言う村の方角だそうですが」
「ニコリカ……ですか。あの辺りは山が険しすぎて何もないはずですが……」
チョバーン氏が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「逆に山中に潜伏されれば捜索は難しいですね。広すぎるし、険しすぎて山中を探索できる人員が限られる」
おそらく山中深く、常人ではとてもたどり着けないような場所に彼らのアジトがあるのだろう。そんな場所に潜伏できるということは、僕が思っていたよりもずっと厄介な連中が相手だったようだ。
今さらながら、自分たちだけでアジトを突き止めようとした軽挙を反省した。
万が一にも僕が不覚をとってエリィに大怪我させてしまっていたら。そう思うと、雪とは違った理由で背筋が寒くなる。
「奴らの仲間が硫黄を運ぶための馬車を手配しているはずだ。背高茴香の荷に紛れ込ませると言っていたから、大量のスパイスを王都に急いで輸送しようとしている者がいないか調べてみよう」
エリィが言うと、チョバーン氏は軽く頷いて、一緒に来ていた郷士たちに手早く指示を出しす。
「若様はいったん館にお戻りください。あとの捜索は我々でします」
郷士たちがそれぞれ受け持ちの方に散っていくのを確認しながら、厳しい顔でチョバーン氏が言った。
たしかに、例の一味は地元の人でもなかなか立ち入れないような、険しい山中を自由自在にうろついているのだ。どう考えてもただ者ではない。
おそらくあの山中に長年潜伏しているエルダ山岳党の一派だろうと思えば、僕たちのような土地勘もない子供がついて行っても足手まといになるだけだろう。
悔しそうなエリィに目配せをして、「少しだけまたマーケットを冷やかしながら帰ります」と家臣たちには挨拶をした。
「……最後まで自分で捜索したかった?」
「……それは、まぁ……」
まだ納得しきれていない表情のエリィに問いかけると、彼にしては歯切れの悪い答えが返ってきた。
自分の生まれ育った街に現れた不穏分子だ。きっと、次期領主としても自分の手で見つけ出して罰したかったのだろう。
「ごめんね、でも雪は初めてだから、正直に言ってどこまで戦えるか心もとない。万が一にもエリィに何かあったら……」
とても生きてはいられない。そんな重い言葉は唇に乗せる前に飲み込んだ。
それでも僕の表情を見て何か察してくれたのだろう。エリィはふっと表情を和らげると、僕の手を取ってマーケットに向かってくれた。
珊瑚色に染まった街は少しずつ藍の色合いを濃くしている。
相変わらずの良い香りが漂う屋台を見ているうちに、ふと良い考えが浮かんでエリィの袖を軽く引いた。
「ね、あっちのタルハナの屋台に行ってみない?」
「ディディは本当に食い意地が張ってるな。その細い身体のどこにそんなに入るんだ?」
苦笑しながらもエリィは快く付き合ってくれる。
お目当ての屋台でタルハナを買って、店の前に無造作に置かれたベンチに腰掛けて食べると、山道の探索で冷え切った身体がぽかぽかと温まってきた。
「コクがあって美味しいね。それにとってもいい香り。おじさん、もしかして背高茴香使ってる?」
「お、よくわかったな。豆を使う時は少しだけ入れると消化に良くなるんだ。最初に野菜を炒めるときに油と一緒に使うんだよ」
そう、この屋台だけはじっくり炒めた野菜とともに、特徴的な背高茴香の香りを漂わせていたのだ。
「すごい、高いスパイスなのに太っ腹だね。もう一杯ちょうだい」
「良い食べっぷりだね。せっかくの大晦日だからしっかり美味いもん食って栄養つけて、良い気分で新しい年を迎えてほしいから特別さ」
美味しかったし、店のおじさんから聞きたいこともあるのでもう一杯お代わりを買うと、おじさんは得意げに笑った。
「おじさん、いい人だね。けっこう貴重なスパイスだけど、手に入るなんてさすが交易都市コルチャオだ。どこで売ってるの?」
「ああ、カチャバルシュ地区にあるヴラフ商会が一手に商ってる。遠く南方のアクスムから仕入れてくる上物だぞ」
この街は民族や宗派によって住んでいる地区が分かれている。
カチャバルシュ地区はアルムネット人の商人が多く住んでいる街だ。
「アクスム? 旧大陸じゃないか、そんな遠くから!?」
アクスムは遠く南西の旧大陸にある古い王国だ。ここからはいくつもの山と砂漠、海を超えて一年近く旅をしなければたどり着けない。
いったいどんな旅路をたどって来たんだろう。少し想像しただけでもわくわくする。
「観光客相手の小売りもしてくれるから、後で寄ってみると良いよ。他にも南方の珍しいものがたくさんあるぞ」
「おじさん、ありがとう! ごちそうさま」
親切なおじさんはニコニコと小売りをしている支店への行き方まで教えてくれた。ちょうど美味しくタルハナも食べ終わったので、エリィに目配せすると少し苦笑して頷いてくれる。
さあ、悪魔の糞が破壊工作をもくろむ悪魔どもの居所を教えてくれるかどうか、ためしてみようじゃないか。
どうやら彼らは王都に硫黄を持ち込んで、何らかの破壊工作をもくろんでいるようだ。
打ち合わせが済んだあと、街中で荷を運んでくれる馬車を手配するらしい男と、指示を出していたローブをかぶった人物、どちらを追跡するか迷った。
荷の詰め替えにはそれなりの時間がかかる上、雪が深いこの季節、山間を通る細い道を夜間に馬車で通過するのは自殺行為に等しい。
この時間から出発するならば、湖沿いに北上してプロドロム伯爵領プレゼジダに向かうしかない。コルチャオからプレゼジダへ向かう道は一つしかないので、早馬か魔法で連絡を取って街道で検問すればそれで済むだろう。
今は組織の幹部とつながりのありそうなローブの人物を追跡してアジトの場所の見当をつけることにしよう。
ローブの人物はどんどん南のモラヴェス山脈に向かっているようだ。標高2000メートル近い最高峰ストランラ山の頂は、エルダとの国境にもなっている。
「やはりエルダ山岳党とみて間違いないようだね。国境の山に向かっている」
「厄介だな。山中に入り込まれたらまともな道がない。あの広大なモラヴェス山脈をくまなく探すなど、イリュリアの砂浜で一本の針を探すようなものだぞ」
気づかれないよう、ひそひそと囁きあいながらも奴からは目を離さない。
一時間近く歩いただろうか?奴は山中に向かう道から森の中へと外れていこうとした。
「どうする?」
「まずいね。ここから先は山が険しくなるけど……僕たち、冬山用の足ごしらえじゃないし」
「さすがにこれ以上は無理か」
遭難したら元も子もない。追跡はあきらめるより仕方がない。
「仕方がないね。あっちの方向には何がある?」
「今は南東のダーダスに向かう道の途中にいるから、右にずれていくということは……南のニコリカに向かっているのか?」
エリィに尋ねると、すらすらと地名が出てくるのは良いが、どこのことやらさっぱりわからない。
「ごめん、こっちの地名はよくわからない」
「ああ、山中の小さな集落ばかりだから知らなくて当然だ。普通にエルダに入るならばこの道を真っすぐ行って、ダーダス経由で国境のヴィドホヴェに向かうんだが……ニコリカはストランラ山の山頂付近の村だ。道があまりにも険しいので周囲の集落との行き来もほとんどない」
「それじゃ、そこからエルダに入れる?」
「ニコリカの向こう側の斜面はほとんど崖だからな。山頂から転がり落ちればエルダにはたどり着くだろうが、着く頃には雪像になっているだろう。もしかすると岩にでもあたって砕けているかも」
なるほど、そこから普通の人間が生きて歩いてエルダ入りするのは難しそうだ。
少なくとも今の僕たちが立ち入ることができる場所ではないらしい。
「しょうがないね。いったんコルチャオに戻って馬車の手配をした奴を探そう。荷づくりにも時間がかかるし、臭いがすごいからそう簡単には引き受け手が見つからないんじゃないかな」
山道を足早に歩いてコルチャオに戻ったころには、もうすっかり夕方になっていた。
冬の陽が落ちるのは早い。漆喰の白壁と薄い岩でふいた黒い屋根が並ぶ街並みは、真っ白な雪化粧をした上から茜色の夕日に照らされて、鮮やかなコーラルピンクに染まっていた。
「若様! 探しましたよ」
街に入ったとたん、タシトゥルヌ家の家臣と思しき郷士たちが駆け寄ってきた。
「どれほどご心配したことか。お前も何のためにお仕えしてると思っているんだ。こんなに遅くなる前に館にお連れしないと」
ちょうど僕たちの父親くらいの年齢のリーダー格の郷士は、顔じゅうに安堵の色を浮かべてエリィに一言物申し、ついで従者にお説教を始めた。
「チョバーン、すまない。不審者を見かけたので後をつけていたんだ。護衛なら彼もいるから大丈夫だろうと」
彼が正騎士顔負けの腕前なのは知っているだろう、と言うエリィにチョバーン氏は渋面になった。
「まったく、若様お一人の御身ではないのですよ。不審者をご自身で追跡するなんて、何かあったらスキエンティア家はどうなると思っているんですか」
それに大切なお友達を危険な目に遭わせたくないでしょう?
そうたしなめられて、エリィも反省した顔を見せる。本当は僕が後をつけようと提案したからなんだけど、口をはさんでよいものか悩んで結局何も言えずじまいだった。
「それは俺が短慮だった。奴らは王都に硫黄を持ち込もうとしていたんだ。つい仲間の後を追ったのだが山深くに入られてしまって」
「何ですって!? それは確かなんですか」
僕につかみかからんばかりの勢いで確認してくるチョバーン氏。
無理もない。硫黄の密輸は重罪だ。
密輸を試みた先は一般参賀などの行事が目白押しになっている王都である。破壊工作が実行されれば、どんな惨事に至るかわかったもんじゃない。
「はい。ダーダスに向かう山道の途中で右に大きく逸れていきました。ご子息のお話ではニコリカと言う村の方角だそうですが」
「ニコリカ……ですか。あの辺りは山が険しすぎて何もないはずですが……」
チョバーン氏が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「逆に山中に潜伏されれば捜索は難しいですね。広すぎるし、険しすぎて山中を探索できる人員が限られる」
おそらく山中深く、常人ではとてもたどり着けないような場所に彼らのアジトがあるのだろう。そんな場所に潜伏できるということは、僕が思っていたよりもずっと厄介な連中が相手だったようだ。
今さらながら、自分たちだけでアジトを突き止めようとした軽挙を反省した。
万が一にも僕が不覚をとってエリィに大怪我させてしまっていたら。そう思うと、雪とは違った理由で背筋が寒くなる。
「奴らの仲間が硫黄を運ぶための馬車を手配しているはずだ。背高茴香の荷に紛れ込ませると言っていたから、大量のスパイスを王都に急いで輸送しようとしている者がいないか調べてみよう」
エリィが言うと、チョバーン氏は軽く頷いて、一緒に来ていた郷士たちに手早く指示を出しす。
「若様はいったん館にお戻りください。あとの捜索は我々でします」
郷士たちがそれぞれ受け持ちの方に散っていくのを確認しながら、厳しい顔でチョバーン氏が言った。
たしかに、例の一味は地元の人でもなかなか立ち入れないような、険しい山中を自由自在にうろついているのだ。どう考えてもただ者ではない。
おそらくあの山中に長年潜伏しているエルダ山岳党の一派だろうと思えば、僕たちのような土地勘もない子供がついて行っても足手まといになるだけだろう。
悔しそうなエリィに目配せをして、「少しだけまたマーケットを冷やかしながら帰ります」と家臣たちには挨拶をした。
「……最後まで自分で捜索したかった?」
「……それは、まぁ……」
まだ納得しきれていない表情のエリィに問いかけると、彼にしては歯切れの悪い答えが返ってきた。
自分の生まれ育った街に現れた不穏分子だ。きっと、次期領主としても自分の手で見つけ出して罰したかったのだろう。
「ごめんね、でも雪は初めてだから、正直に言ってどこまで戦えるか心もとない。万が一にもエリィに何かあったら……」
とても生きてはいられない。そんな重い言葉は唇に乗せる前に飲み込んだ。
それでも僕の表情を見て何か察してくれたのだろう。エリィはふっと表情を和らげると、僕の手を取ってマーケットに向かってくれた。
珊瑚色に染まった街は少しずつ藍の色合いを濃くしている。
相変わらずの良い香りが漂う屋台を見ているうちに、ふと良い考えが浮かんでエリィの袖を軽く引いた。
「ね、あっちのタルハナの屋台に行ってみない?」
「ディディは本当に食い意地が張ってるな。その細い身体のどこにそんなに入るんだ?」
苦笑しながらもエリィは快く付き合ってくれる。
お目当ての屋台でタルハナを買って、店の前に無造作に置かれたベンチに腰掛けて食べると、山道の探索で冷え切った身体がぽかぽかと温まってきた。
「コクがあって美味しいね。それにとってもいい香り。おじさん、もしかして背高茴香使ってる?」
「お、よくわかったな。豆を使う時は少しだけ入れると消化に良くなるんだ。最初に野菜を炒めるときに油と一緒に使うんだよ」
そう、この屋台だけはじっくり炒めた野菜とともに、特徴的な背高茴香の香りを漂わせていたのだ。
「すごい、高いスパイスなのに太っ腹だね。もう一杯ちょうだい」
「良い食べっぷりだね。せっかくの大晦日だからしっかり美味いもん食って栄養つけて、良い気分で新しい年を迎えてほしいから特別さ」
美味しかったし、店のおじさんから聞きたいこともあるのでもう一杯お代わりを買うと、おじさんは得意げに笑った。
「おじさん、いい人だね。けっこう貴重なスパイスだけど、手に入るなんてさすが交易都市コルチャオだ。どこで売ってるの?」
「ああ、カチャバルシュ地区にあるヴラフ商会が一手に商ってる。遠く南方のアクスムから仕入れてくる上物だぞ」
この街は民族や宗派によって住んでいる地区が分かれている。
カチャバルシュ地区はアルムネット人の商人が多く住んでいる街だ。
「アクスム? 旧大陸じゃないか、そんな遠くから!?」
アクスムは遠く南西の旧大陸にある古い王国だ。ここからはいくつもの山と砂漠、海を超えて一年近く旅をしなければたどり着けない。
いったいどんな旅路をたどって来たんだろう。少し想像しただけでもわくわくする。
「観光客相手の小売りもしてくれるから、後で寄ってみると良いよ。他にも南方の珍しいものがたくさんあるぞ」
「おじさん、ありがとう! ごちそうさま」
親切なおじさんはニコニコと小売りをしている支店への行き方まで教えてくれた。ちょうど美味しくタルハナも食べ終わったので、エリィに目配せすると少し苦笑して頷いてくれる。
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