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お花畑転生娘と大監獄
お花畑転生娘とよみがえる前世の記憶
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落ち穂を積んだ荷車を倒してしまい、貴族の馬車の行く手をふさいでしまったミラたち。
御者にぶたれることを覚悟して身を固くする彼女たちに訪れたのは、ムチによる激しい痛みではなく、凛とした美しい少女の声だった。
「そんな子供にいちいち構うのはおよしなさい。それよりその荷車をどけないと通れませんわ。早くしてちょうだい」
馬車の窓から顔をのぞかせた少女はミラたちにちらりと目をやると、自分の倍以上はあろうかという厳つい大男に臆することなく𠮟責した。年のころは自分たちとさほど変わらぬだろうが、その気品あふれる佇まいや優雅な所作があきらかに違う。何より上から人にものを言い慣れた態度が、自分たちとの立場の違いを物語っていた。
(あたしたちとは生きてる世界が違う……)
「お、お嬢様。はい、すぐどかしますとも」
御者は、慌てて荷車を起こして乱暴に道の端に寄せる。つい先ほどまでの威張り散らした態度とは別人のようだ。
「雑に扱って壊さないでちょうだいね。また帰り道に邪魔されたらたまらないわ」
『お嬢様』はその粗暴な動きに眉をひそめ、ぴしゃりとたしなめた。言葉そのものはいちいちもっともなのだが、その尊大な態度が鼻につく。
「は、かしこまりました」
(あ、せっかく拾った麦が……)
大男が荷車を道の端に寄せる拍子に、辺りに飛び散った麦の穂が踏みにじられて泥に紛れてしまったのだ。
ミラの目線を追った令嬢がかすかに眉を曇らせた。
「そこの人たち、お怪我はなかったかしら?」
「は、はい。その、もうしわけ……」
「いいえ。わたくしの馬車が急ぎすぎただけよ。きちんと手当てしてあげたいところだけれども時間がないの。これでその子をお医者様にお診せなさい」
ミラがあわててひざまずいて謝ろうとすると、きっぱりとした口調でさえぎられた。そのまま何か重いものをくるんだハンカチを投げてよこす。
彼女が視線で指す方を見やれば、幼い子の一人が転んで座り込んでいた。
「え?……でもこんなにたくさん」
受け取ったハンカチの中には金貨がずっしり。これだけで普通の家庭なら二年は遊んで暮らせるだろう。ハンカチからはふわりと良い香り。香水でもしみこませているのだろうか。
あまりの違いに嫉妬する気にすらなれない。泥臭い我が身が、ただひたすらにみじめなだけだ。
「よろしくてよ。もしあまったら、みんなで何か美味しいものでも食べるといいわ」
「そんな。こんなのいただけません」
自分たちは孤児ではあっても物乞いではないのだ。いわれのない大金など受け取れるわけがない。
「そうですよ、オデットお嬢様。こんなガキどもに……」
「いい加減にして。あなたたち、わたくしに恥をかかせる気? これはわたくしのけじめなの。受け取りなさい」
なおも尻込みするミラに御者が言葉をかぶせると、苛立ったように令嬢が遮った。話はもう終わりとばかりに顔を引っ込めると窓をぴしゃりと閉める。
「さあ、いつまでもグズグズしていられないわ。早く馬車を出してちょうだい」
居丈高に命じられた御者は、口の中でぶつくさぼやきながらも慌てて御者台に戻る。
「はい、ただいまお出しします。お前たち、お優しいお嬢様に感謝するんだな」
あの尊大な態度のどこが『お優しい』と言うのだろう? 御者の捨て台詞にむっとしたミラの頭は、続いて耳に入ってきた令嬢の言葉で真っ白になった。
「ええ、急いでちょうだい。ニゲロ様をお待たせするわけにいかないの」
(ニゲロ……どこかで聞いたことが……オデット……そうだ、オデット・メフシィ子爵令嬢……攻略対象者の婚約者で悪役令嬢の一人……)
平民の、しかも孤児の自分がなぜそんなことを知っているのだろう?
そんな疑問は湧きあがる大量の情報にすぐ押し流されてしまった。前世、異世界、女子高生、現代日本……そして乙女ゲーム。全く知らないはずの概念が当たり前のものとして頭に浮かんでは消えて行く。溢れかえる大量の情報を処理しきれず、ミラの意識はついに暗転した。
御者にぶたれることを覚悟して身を固くする彼女たちに訪れたのは、ムチによる激しい痛みではなく、凛とした美しい少女の声だった。
「そんな子供にいちいち構うのはおよしなさい。それよりその荷車をどけないと通れませんわ。早くしてちょうだい」
馬車の窓から顔をのぞかせた少女はミラたちにちらりと目をやると、自分の倍以上はあろうかという厳つい大男に臆することなく𠮟責した。年のころは自分たちとさほど変わらぬだろうが、その気品あふれる佇まいや優雅な所作があきらかに違う。何より上から人にものを言い慣れた態度が、自分たちとの立場の違いを物語っていた。
(あたしたちとは生きてる世界が違う……)
「お、お嬢様。はい、すぐどかしますとも」
御者は、慌てて荷車を起こして乱暴に道の端に寄せる。つい先ほどまでの威張り散らした態度とは別人のようだ。
「雑に扱って壊さないでちょうだいね。また帰り道に邪魔されたらたまらないわ」
『お嬢様』はその粗暴な動きに眉をひそめ、ぴしゃりとたしなめた。言葉そのものはいちいちもっともなのだが、その尊大な態度が鼻につく。
「は、かしこまりました」
(あ、せっかく拾った麦が……)
大男が荷車を道の端に寄せる拍子に、辺りに飛び散った麦の穂が踏みにじられて泥に紛れてしまったのだ。
ミラの目線を追った令嬢がかすかに眉を曇らせた。
「そこの人たち、お怪我はなかったかしら?」
「は、はい。その、もうしわけ……」
「いいえ。わたくしの馬車が急ぎすぎただけよ。きちんと手当てしてあげたいところだけれども時間がないの。これでその子をお医者様にお診せなさい」
ミラがあわててひざまずいて謝ろうとすると、きっぱりとした口調でさえぎられた。そのまま何か重いものをくるんだハンカチを投げてよこす。
彼女が視線で指す方を見やれば、幼い子の一人が転んで座り込んでいた。
「え?……でもこんなにたくさん」
受け取ったハンカチの中には金貨がずっしり。これだけで普通の家庭なら二年は遊んで暮らせるだろう。ハンカチからはふわりと良い香り。香水でもしみこませているのだろうか。
あまりの違いに嫉妬する気にすらなれない。泥臭い我が身が、ただひたすらにみじめなだけだ。
「よろしくてよ。もしあまったら、みんなで何か美味しいものでも食べるといいわ」
「そんな。こんなのいただけません」
自分たちは孤児ではあっても物乞いではないのだ。いわれのない大金など受け取れるわけがない。
「そうですよ、オデットお嬢様。こんなガキどもに……」
「いい加減にして。あなたたち、わたくしに恥をかかせる気? これはわたくしのけじめなの。受け取りなさい」
なおも尻込みするミラに御者が言葉をかぶせると、苛立ったように令嬢が遮った。話はもう終わりとばかりに顔を引っ込めると窓をぴしゃりと閉める。
「さあ、いつまでもグズグズしていられないわ。早く馬車を出してちょうだい」
居丈高に命じられた御者は、口の中でぶつくさぼやきながらも慌てて御者台に戻る。
「はい、ただいまお出しします。お前たち、お優しいお嬢様に感謝するんだな」
あの尊大な態度のどこが『お優しい』と言うのだろう? 御者の捨て台詞にむっとしたミラの頭は、続いて耳に入ってきた令嬢の言葉で真っ白になった。
「ええ、急いでちょうだい。ニゲロ様をお待たせするわけにいかないの」
(ニゲロ……どこかで聞いたことが……オデット……そうだ、オデット・メフシィ子爵令嬢……攻略対象者の婚約者で悪役令嬢の一人……)
平民の、しかも孤児の自分がなぜそんなことを知っているのだろう?
そんな疑問は湧きあがる大量の情報にすぐ押し流されてしまった。前世、異世界、女子高生、現代日本……そして乙女ゲーム。全く知らないはずの概念が当たり前のものとして頭に浮かんでは消えて行く。溢れかえる大量の情報を処理しきれず、ミラの意識はついに暗転した。
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