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マイプティア・ダルビニクス
軽かったのに、ずしりと重く
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マイプティアはわたくしたちの誇りであり、小さな英雄でした。わたくしたちの誰よりも小柄で幼い彼女は、誰よりも勇敢で使命感に溢れており、その小さな胸の裡に抱く救助への情熱は、誰よりも熱く大きなものだったのです。
仲間の戦車が撃破されると、彼女は真っ先にコックピットに飛んで行って、中で負傷している兵士をあっという間に引きずり出しては細い肩に担ぎあげ、動力炉が爆発するまでのわずかな間に安全なところまで救出するのです。その素早さと力強さときたら、わたくしたち衛生兵のみならず、他の部隊の男のひとたちだって誰一人敵う事はありませんでした。
身長百五十センチ、体重五十キロに満たない小さな身体で、自分の倍以上の重さのある男のひとたちを次々と引きずっては、死の淵から救い出すのです。あの小さな身体のどこに、そんな力が秘められていたのか、彼女を見たことのないひとたちにはきっとわかりません。彼女の熱い魂が持つ、限りなく尊いあの力の源は。
わが第二機甲師団の中でも最も小さく、か細く、幼い彼女の勇烈な行動は、部隊みんなの誇りであり憧れであり、心の支えでした。
ある日、他の部隊のひとたちといっしょに糧食をかじりながらとりとめもない話をしている時に、誰かがマイプティアにどうしてそんなにも素早く力強く救助ができるのか尋ねました。
「まだ生きているひとは、たとえ意識がなくても自分から必死でしがみついてくれるからとても軽いのだけど、運んでいる途中でいきなりずしりと重くなる時があるの。人間ってね、死ぬと急に重くなるものなのよ。
だから、そんな時は仕方がないからそのひとを置いて、次に息のある人を探すの」
そう、微笑んで語っていたのを、まるで昨日の事のようによく覚えています。
その日も激しい砲撃戦でした。
わが第二魔導機甲師団所属の魔導戦車第二旅団本部に魔導砲の直撃を受け、幹部将校たちが負傷しました。その様を見ていたマイプティアはすかさず匍匐前進で彼らの元に向かいます。
雨のように砲弾が降り注ぐ中、迷うことなく負傷者にむかってひたむきに進み続けるマイプティアの姿は、惨めに泥の中を這いずっているとは思えぬほど美しく、神々しいものでした。
わたくしたちの小さな英雄が倒れて呻いている旅団長まであと少しというところでした。マイプティアと旅団長のちょうど間くらいのところで砲弾が炸裂したのです。
旅団長は即死だったと思います。なぜ断言できないかといえば、遺体が残っていなかったから。泥や岩と一緒に粉々に吹っ飛ばされて跡形も残らなかったんです。
マイプティアは旅団長のところまでたどり着けませんでした。両足がぐちゃぐちゃに吹っ飛んでしまったから。
キルシャズィアがしゃにむに這って行ってマイプティアを担ぎ上げました。なんとかしてわたくしの待つ塹壕までたどり着けば、治癒魔法を使えます。もちろん、わたくしは自分の持てる魔力も生命力もすべて使い果たしてでも、マイプティアを助けるつもりでした。
マイプティアはわたくしたちの希望であり、勇気でした。決して失う訳にはまいりません。
しかし、マイプティアを担ぎ上げて、猛烈な勢いで走っていたキルシャズィアが、急にがくりと膝をつきました。そして無表情にマイプティアを下ろし、おもむろに近くに倒れていた別の兵士を担ぎ上げたのです。
わたくしたちのもとに駆け戻って来たキルシャズィアはぽつりと言いました。
「あんなに軽かったのに、急にずしりと重たくなった」
意味を悟ったわたくしたちは、心を無にして残る生存者の救助にあたりました。
戦闘が終わり、マイプティアがわたくしたちのもとに帰って来たのは、その日の真夜中になってからでした。
仲間の戦車が撃破されると、彼女は真っ先にコックピットに飛んで行って、中で負傷している兵士をあっという間に引きずり出しては細い肩に担ぎあげ、動力炉が爆発するまでのわずかな間に安全なところまで救出するのです。その素早さと力強さときたら、わたくしたち衛生兵のみならず、他の部隊の男のひとたちだって誰一人敵う事はありませんでした。
身長百五十センチ、体重五十キロに満たない小さな身体で、自分の倍以上の重さのある男のひとたちを次々と引きずっては、死の淵から救い出すのです。あの小さな身体のどこに、そんな力が秘められていたのか、彼女を見たことのないひとたちにはきっとわかりません。彼女の熱い魂が持つ、限りなく尊いあの力の源は。
わが第二機甲師団の中でも最も小さく、か細く、幼い彼女の勇烈な行動は、部隊みんなの誇りであり憧れであり、心の支えでした。
ある日、他の部隊のひとたちといっしょに糧食をかじりながらとりとめもない話をしている時に、誰かがマイプティアにどうしてそんなにも素早く力強く救助ができるのか尋ねました。
「まだ生きているひとは、たとえ意識がなくても自分から必死でしがみついてくれるからとても軽いのだけど、運んでいる途中でいきなりずしりと重くなる時があるの。人間ってね、死ぬと急に重くなるものなのよ。
だから、そんな時は仕方がないからそのひとを置いて、次に息のある人を探すの」
そう、微笑んで語っていたのを、まるで昨日の事のようによく覚えています。
その日も激しい砲撃戦でした。
わが第二魔導機甲師団所属の魔導戦車第二旅団本部に魔導砲の直撃を受け、幹部将校たちが負傷しました。その様を見ていたマイプティアはすかさず匍匐前進で彼らの元に向かいます。
雨のように砲弾が降り注ぐ中、迷うことなく負傷者にむかってひたむきに進み続けるマイプティアの姿は、惨めに泥の中を這いずっているとは思えぬほど美しく、神々しいものでした。
わたくしたちの小さな英雄が倒れて呻いている旅団長まであと少しというところでした。マイプティアと旅団長のちょうど間くらいのところで砲弾が炸裂したのです。
旅団長は即死だったと思います。なぜ断言できないかといえば、遺体が残っていなかったから。泥や岩と一緒に粉々に吹っ飛ばされて跡形も残らなかったんです。
マイプティアは旅団長のところまでたどり着けませんでした。両足がぐちゃぐちゃに吹っ飛んでしまったから。
キルシャズィアがしゃにむに這って行ってマイプティアを担ぎ上げました。なんとかしてわたくしの待つ塹壕までたどり着けば、治癒魔法を使えます。もちろん、わたくしは自分の持てる魔力も生命力もすべて使い果たしてでも、マイプティアを助けるつもりでした。
マイプティアはわたくしたちの希望であり、勇気でした。決して失う訳にはまいりません。
しかし、マイプティアを担ぎ上げて、猛烈な勢いで走っていたキルシャズィアが、急にがくりと膝をつきました。そして無表情にマイプティアを下ろし、おもむろに近くに倒れていた別の兵士を担ぎ上げたのです。
わたくしたちのもとに駆け戻って来たキルシャズィアはぽつりと言いました。
「あんなに軽かったのに、急にずしりと重たくなった」
意味を悟ったわたくしたちは、心を無にして残る生存者の救助にあたりました。
戦闘が終わり、マイプティアがわたくしたちのもとに帰って来たのは、その日の真夜中になってからでした。
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