13 / 15
【13話】まるで予言者のように
しおりを挟む
全身の神経が、自分の耳に集中しているんじゃないか、って位、彼の言葉に全霊を傾けていた。
私は、ただ、一言
「好きだ」と言って欲しかった。
そしたら、きっと、彼の言葉を信じられる。
そしたら、きっと、彼に言葉を伝えられる。
「僕は、やよいさんを愛してるから」
目の前で火花が弾けたのかと思った。
チカチカとして、クラクラとして、彼の言葉はまるで稲妻だ。
「だから」
彼は言葉を続けた。
「だから、やよいさんには僕を好きになって貰いたい。馬鹿になんてしてないよ。忘年会の日の雄叫びは、僕を最高に有頂天にさせてくれた。アイロンをフローリングに落として、床に傷がついたよ。今度見せる。それで、また信じてもらえるかは分からないけど、信じてもらえるまで何だってするよ」
早鐘を打っていた私の心音は落ち着き、逆に速さを増す彼の心音がうるさいくらいに伝わってくる。
こんなにドキドキしてくれていたの?
私に気持ちを伝えるのに、こんなに心拍数を上げているの?
「お願いだから、僕の事を好きになって。何でもするよ。何でもしたい。もう、ベランダ越しに泣き顔を想像するだけじゃ嫌なんだ。頭を撫でて、抱き締めて、涙が乾くまで側に居させて」
懇願する様に、俯く私の首筋に顔を埋めて来る彼は、微かに震えている様だった。
「私は37歳のおばさんだから…」
ポツリと絞り出した声に、智正くんはピクリと反応する。
でも、最後まで聞いてくれる様だ。思えば彼は、人の話を最後まで聞いてくれる性分だ。
「だから、恋愛には臆病で…。いきなり、愛してると言われても、同じ分量は返せない」
智正くんは拳をギュッと握りしめる。
私の言葉を待ってくれている。
「今は、智正くんが好きだって事しか自分でも分からない。……けど」
不思議と穏やかな気持ちだった。
伝えるべきことを伝えるべき人に伝える。
ただ、それだけだ。
「きっと、この恋は、いつか愛に変わると思う」
まるで予言者のように、静かにそう言葉にした。
彼の腕に、そっと手を添わせてみる。
それから、首筋に埋められた彼の顔に頭をそっと寄せてみる。
首筋に、温かい雫が流れる。
手探りで彼の頭を探し当て、ポンポンと優しく叩く。
そして、背中を撫でてあげると、強固な腕が解かれた。
俯く彼を、今度は私が抱き締める。
赤ちゃんを寝かしつけるみたいに、子守唄をハミングしてみた。
ようやく顔を上げた彼を見て、思わず泣き笑いをしてしまう。
智正くんは、それはそれは綺麗な
見惚れる様な泣き顔をしていた。
私は、ただ、一言
「好きだ」と言って欲しかった。
そしたら、きっと、彼の言葉を信じられる。
そしたら、きっと、彼に言葉を伝えられる。
「僕は、やよいさんを愛してるから」
目の前で火花が弾けたのかと思った。
チカチカとして、クラクラとして、彼の言葉はまるで稲妻だ。
「だから」
彼は言葉を続けた。
「だから、やよいさんには僕を好きになって貰いたい。馬鹿になんてしてないよ。忘年会の日の雄叫びは、僕を最高に有頂天にさせてくれた。アイロンをフローリングに落として、床に傷がついたよ。今度見せる。それで、また信じてもらえるかは分からないけど、信じてもらえるまで何だってするよ」
早鐘を打っていた私の心音は落ち着き、逆に速さを増す彼の心音がうるさいくらいに伝わってくる。
こんなにドキドキしてくれていたの?
私に気持ちを伝えるのに、こんなに心拍数を上げているの?
「お願いだから、僕の事を好きになって。何でもするよ。何でもしたい。もう、ベランダ越しに泣き顔を想像するだけじゃ嫌なんだ。頭を撫でて、抱き締めて、涙が乾くまで側に居させて」
懇願する様に、俯く私の首筋に顔を埋めて来る彼は、微かに震えている様だった。
「私は37歳のおばさんだから…」
ポツリと絞り出した声に、智正くんはピクリと反応する。
でも、最後まで聞いてくれる様だ。思えば彼は、人の話を最後まで聞いてくれる性分だ。
「だから、恋愛には臆病で…。いきなり、愛してると言われても、同じ分量は返せない」
智正くんは拳をギュッと握りしめる。
私の言葉を待ってくれている。
「今は、智正くんが好きだって事しか自分でも分からない。……けど」
不思議と穏やかな気持ちだった。
伝えるべきことを伝えるべき人に伝える。
ただ、それだけだ。
「きっと、この恋は、いつか愛に変わると思う」
まるで予言者のように、静かにそう言葉にした。
彼の腕に、そっと手を添わせてみる。
それから、首筋に埋められた彼の顔に頭をそっと寄せてみる。
首筋に、温かい雫が流れる。
手探りで彼の頭を探し当て、ポンポンと優しく叩く。
そして、背中を撫でてあげると、強固な腕が解かれた。
俯く彼を、今度は私が抱き締める。
赤ちゃんを寝かしつけるみたいに、子守唄をハミングしてみた。
ようやく顔を上げた彼を見て、思わず泣き笑いをしてしまう。
智正くんは、それはそれは綺麗な
見惚れる様な泣き顔をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
おばあちゃんの秘密
波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。
小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。
きっと、あなたは知らない
mahiro
恋愛
高嶺の花と呼ばれている後輩に叶わぬ恋をした。
普通科と選抜クラス。
それだけでも壁があるのに、顔も頭も平凡な私なんかが後輩に好かれるわけがない。
そう思っていたのだけれど。
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる