泣き虫姫と変態王子の恋物語

山田 ぽち太郎

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【12話】告白

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感情的に吐き出すと、両手で顔面を覆い、子供の様に声をあげて泣いた。

可哀想だった。自分が。
自分のことをみっともないと思う自分が。
だって人を好きになっただけなのに。
恋をしてしまっただけなのに。

もう、何もかも無かった事にして欲しい。
この一週間の出来事を綺麗さっぱり忘れ去りたい。
手に入らなかった現実なんて、忘れ去ってしまった虚無と同等だ。
むしろ忘れてしまった方が、傷が残らないだけマシだ。

また、智正くんに抱き締められる。
私はイヤイヤをする子供の様に身を捩る。
けれど、彼は絶対に振り解いてはくれなかった。
与えるつもりもないのに、その腕の温もりを簡単に差し出さないで欲しい。
暫く抵抗した後、観念して大人しく抱かれる事にした。

「不用意な事を言って、不安にさせてごめん。…確かに、やよいさんの泣き虫の秘密は隣に越してきてから知った事だよ」

私は黙って耳を傾ける。

「僕がやよいさんを知った切っ掛けは、僕が入社して2年目の夏だよ。悪質なクレーマーの対応をする、やよいさんを見たのが最初」

そのクレーマーなら覚えている。どう見ても我が社の製品ではない下着を持ち込み『この下着のせいで恥をかいた。土下座をしろ。誠意を込めて謝れ』とエントランスを阿鼻叫喚の海に沈めた輩だ。

「やよいさんは決して怯まず、でも懇切丁寧に対応してた。僕は、どうして男性職員が誰も応援に向かわないんだろうって遠巻きに見てた。その内、ヒートアップしたクレーマーの手がやよいさんの顔面に当たって、やよいさん怪我してた。結局、警備員がクレーマーを連行して、漸く出てきた男性上司もやよいさんへの労いもお座なりに去って行って…」

確か「でかした!傷害罪で連行でもしないと、クレーマーに打つ手はないからな!20代ならまだしも30代の顔面は面の皮が厚くて痛くもないだろう」と言われたっけ。

「僕はその時、やよいさんは何て強い人なんだろうって思った。怪我して辛いはずなのに気丈に振る舞って。逆に新人の子が泣いてるのを慰めて、優しいなって思った」

エリカちゃんが、怒りを通り越して泣いちゃって「落とし前つけさせます!」って言ったのを何とか宥めたのよね…。

「それから、やよいさんの事を気にする様になって、色んな場面を見たよ。アポイントを忘れて外出した社員の代わりに頭を下げる所、出来の悪い報告書を持って八つ当たりで喚き散らす外注に怒鳴られる所、下品な上司に理不尽になじられる所」

良い場面が一つもない。年に一回位は褒められているんだけどなぁ。恥ずかしい。

「頭を下げても、怒鳴られても、詰られていても、やよいさんはいつも綺麗で美しかった。やっぱり強くて優しくて、仕事に矜持を持ってる人なんだなって思った」

綺麗で美しいのは貴方ですよ。
私は受付嬢としての容姿は辛うじて保っていても、37歳のおばさんだもの。

「どんどんと、やよいさんが気になって、運良くやよいさんの隣人になれて、ひょんな事でやよいさんの秘密を知った。それまで見てきた会社でのやよいさんは、本当に一部だったんだなって思ったよ。ベランダで花に向かって辛かった事、悲しかった事を報告するやよいさんを、何度抱き締めたいと思ったか」

ギュッと私を抱き締める腕に力が入る。

「僕が見てきた強さは、やよいさんの我慢の結果のものだった。理不尽な刃は、やよいさんを確実に傷付けていた。それに気付かずに、やよいさんの強さや優しさに惹かれた自分を恥じたよ。そして改めて、やよいさんにそれまで以上に強く惹かれた」

今では彼の腕が苦しいくらいに私を抱き締めている。
余りにも力強く抱き締めるものだから、混ざり合う心音が自分のものか彼のものか分からなくなる。
どちらの鼓動も速いから、何だか笑えてしまった。

「…何で笑ってるの?やよいさんの辛さに気付けなかった僕に呆れてるの?」

泣きそうな声を出す彼に、違うよ、大丈夫だよ、と声を掛けたかったけれど、痛いくらいに抱き締めるものだから何も言えなくなってしまう。

「やよいさんが隠したかった本音を、ズルして聞いたりしてごめんね。でも、どうしても、やよいさんに僕を好きになって貰いたかったから、ズルでも何でも利用したかった。作られた運命の相手でも、その存在に縋るしかなかった…」

消え入りそうな彼の言葉を、耳元で何とか聞き留める。

確かに聞いた。
彼の言葉で。彼の声で。彼の心を。

「僕は、やよいさんを愛しているから」
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