11 / 15
【11話】暴かないで、募っちゃうから
しおりを挟む
2杯目の白米を、まくまくと食べ進める彼を信じられない気持ちで眺める。
隣人は彼で、つまるところあの夜の雄叫びを聞いたのも彼で…
結局、彼は初めから私の気持ちを知ってて昨日を迎えたって事?
私が好きだって知ってたから、あんなに強気に出てたって事?
いや、あり得ない。
一歩間違えなくても変質者。
顔が良いからって全てが許される訳じゃ無い。
そうか、ベランダでお花ちゃん達に涙ながらに愚痴ってるのを隣で聞いてたから、私が泣き虫なのを知ってたんだ。
なーんだ、そっか、そうよね。
タネも仕掛けもありました。
37歳にもなって、運命の相手かもなんて思って馬鹿みたい。
何が目的なんだろう。やっぱりお金かな。
でも、私より、稀代の天才エンジニアの方がお給料は良いはずなんだけどな。
だとしたら、何だろう。暇を持て余した天才の、崇高なる遊び?
だって、考えてもみてよ
彼って私に一度も「好き」って言ってない。
「やよいさん?………何で泣いてるの?」
それまで喜色満面だった智正くんの顔面が、一瞬にして蒼白になっていく。
ガチャン、と音を立ててお茶碗とお箸を置くと、私の足元に跪く。
「どうしたの?お腹痛い?頭痛い?眠たい?それとも、終業間際に声掛けてきた男の事を思い出して気持ち悪くなっちゃった?」
俯く私を、オロオロと下から見上げる彼は、残酷なくらい美しい。本気で私を心配している顔で、本気で私を愛している声で、本気で私を守りたいと言う態度で、私を優しく包み込んでくる。
「ふぇ…っ」
私を暇潰し相手としか思っていなくても、お金目当てでも、この目の前の綺麗な子を好きになってしまった自分が、どうしても情けなくて、可哀想で、堪えようの無い悲しさが募って嗚咽を漏らしてしまう。
「どうしたらいい?何して欲しい?お薬飲む?抱き締めても良い?」
お願いだから、もう、心配するふりはやめて欲しい。
残酷過ぎるよ。
私は貴方が言う通り、一人で頑張って来たんだから。
でも、もうボロボロで、そんな時に貴方みたいな綺麗な子から甘い言葉を貰ったら、喉が渇いて仕方ないのに、もっと渇くと分かってても、貴方の劇薬みたいな蜂蜜を欲しがるしかなくなるの。
「ふぅぅ…っ」
立ち上がった彼に、覆い被さる様にして肩を抱きすくめられる。彼の心音が心地良かった。
少しの間、ギュッと力強く抱き締めた後、髪を優しく梳き通される。髪にキスしたり、頭を撫でてくれたり、あの手この手であやしてくれる。
「やよいさん、少し落ち着いたね?…どうしちゃったの?何かして欲しい事ある?」
私はスンスンと鼻を啜ってから、ガッチリと抱き止めた彼の腕の中から身を離すと、ゆっくり彼に伝えた。
「帰って欲しい。そして、二度と話しかけないで欲しい」
きっと、数十秒にも満たない沈黙の時間が流れた。私には数時間にも思えた。
「嫌だ。それ以外は何をして欲しい?」
「…っ!?そ、それ以外でして欲しい事はないよ!帰って!とにかく帰って!!」
「嫌だって。僕が聞いてるのは抱き締めて欲しい、とか、キスして欲しい、とか、そう言う事だよ?」
「そんな事しなくて良い。帰って、二度と私に関わらないで」
「本当に?僕に抱き締められたくないの?」
暴く様な瞳を向けられる。
抱き締めて欲しいに決まってるじゃないか。
もう、これ以上暴かないで欲しい。
思いが募って募って胸がつかえて苦しいよ。
「智正くんこそ何がしたいの?私に何をさせたいの?一瞬でも信じた私が馬鹿みたい。ベランダで愚痴る私を嗤ってたの?泣き虫だって気付いて貰えて、運命の相手かもって思った私を馬鹿にしてたの?」
堰き止めたはずの涙が、また大量に出て来る。
あぁ、ほら。
こんな事になるから、乙女心は何重にもバリアを張らなくちゃ。
ついつい気を許しちゃって、バリアを解くから、こんなに痛い目に遭っちゃうんだよ。
37歳にもなってみっともない。
…私、これから何回、自分をみっともないと思わなきゃいけないんだろう。
隣人は彼で、つまるところあの夜の雄叫びを聞いたのも彼で…
結局、彼は初めから私の気持ちを知ってて昨日を迎えたって事?
私が好きだって知ってたから、あんなに強気に出てたって事?
いや、あり得ない。
一歩間違えなくても変質者。
顔が良いからって全てが許される訳じゃ無い。
そうか、ベランダでお花ちゃん達に涙ながらに愚痴ってるのを隣で聞いてたから、私が泣き虫なのを知ってたんだ。
なーんだ、そっか、そうよね。
タネも仕掛けもありました。
37歳にもなって、運命の相手かもなんて思って馬鹿みたい。
何が目的なんだろう。やっぱりお金かな。
でも、私より、稀代の天才エンジニアの方がお給料は良いはずなんだけどな。
だとしたら、何だろう。暇を持て余した天才の、崇高なる遊び?
だって、考えてもみてよ
彼って私に一度も「好き」って言ってない。
「やよいさん?………何で泣いてるの?」
それまで喜色満面だった智正くんの顔面が、一瞬にして蒼白になっていく。
ガチャン、と音を立ててお茶碗とお箸を置くと、私の足元に跪く。
「どうしたの?お腹痛い?頭痛い?眠たい?それとも、終業間際に声掛けてきた男の事を思い出して気持ち悪くなっちゃった?」
俯く私を、オロオロと下から見上げる彼は、残酷なくらい美しい。本気で私を心配している顔で、本気で私を愛している声で、本気で私を守りたいと言う態度で、私を優しく包み込んでくる。
「ふぇ…っ」
私を暇潰し相手としか思っていなくても、お金目当てでも、この目の前の綺麗な子を好きになってしまった自分が、どうしても情けなくて、可哀想で、堪えようの無い悲しさが募って嗚咽を漏らしてしまう。
「どうしたらいい?何して欲しい?お薬飲む?抱き締めても良い?」
お願いだから、もう、心配するふりはやめて欲しい。
残酷過ぎるよ。
私は貴方が言う通り、一人で頑張って来たんだから。
でも、もうボロボロで、そんな時に貴方みたいな綺麗な子から甘い言葉を貰ったら、喉が渇いて仕方ないのに、もっと渇くと分かってても、貴方の劇薬みたいな蜂蜜を欲しがるしかなくなるの。
「ふぅぅ…っ」
立ち上がった彼に、覆い被さる様にして肩を抱きすくめられる。彼の心音が心地良かった。
少しの間、ギュッと力強く抱き締めた後、髪を優しく梳き通される。髪にキスしたり、頭を撫でてくれたり、あの手この手であやしてくれる。
「やよいさん、少し落ち着いたね?…どうしちゃったの?何かして欲しい事ある?」
私はスンスンと鼻を啜ってから、ガッチリと抱き止めた彼の腕の中から身を離すと、ゆっくり彼に伝えた。
「帰って欲しい。そして、二度と話しかけないで欲しい」
きっと、数十秒にも満たない沈黙の時間が流れた。私には数時間にも思えた。
「嫌だ。それ以外は何をして欲しい?」
「…っ!?そ、それ以外でして欲しい事はないよ!帰って!とにかく帰って!!」
「嫌だって。僕が聞いてるのは抱き締めて欲しい、とか、キスして欲しい、とか、そう言う事だよ?」
「そんな事しなくて良い。帰って、二度と私に関わらないで」
「本当に?僕に抱き締められたくないの?」
暴く様な瞳を向けられる。
抱き締めて欲しいに決まってるじゃないか。
もう、これ以上暴かないで欲しい。
思いが募って募って胸がつかえて苦しいよ。
「智正くんこそ何がしたいの?私に何をさせたいの?一瞬でも信じた私が馬鹿みたい。ベランダで愚痴る私を嗤ってたの?泣き虫だって気付いて貰えて、運命の相手かもって思った私を馬鹿にしてたの?」
堰き止めたはずの涙が、また大量に出て来る。
あぁ、ほら。
こんな事になるから、乙女心は何重にもバリアを張らなくちゃ。
ついつい気を許しちゃって、バリアを解くから、こんなに痛い目に遭っちゃうんだよ。
37歳にもなってみっともない。
…私、これから何回、自分をみっともないと思わなきゃいけないんだろう。
0
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
翠月 瑠々奈
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
【完結】あなたに恋愛指南します
夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。
お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。
少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり……
純真女子の片想いストーリー
一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男
ムズキュンです♪
【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢
かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。
12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる