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はじまりの灰かぶり
皇太子殿下との出逢い1/3
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さて、ここでこの帝国について説明しよう。ーーーー失礼、大帝国だ。
この国の名前は【ディバリオーセン帝国】
先ほど『大帝国』と称した理由はその広さにある。
その領土はこの世界の陸地の約80%を占め、その領土の隅々まで広く開拓しているのだ。他国の王はこの帝国を『御伽の国』と呼ぶものもいる。まるで御伽噺のように国力が強く、住まう民の人種も様々で突飛な人物が多いからかもしれない。
そんな帝国を統べる皇帝閣下の嫡男がこの舞踏会の主催者であるジークシュトルヴィウス・エッセ・トール・ディバリオーセンだ。
名前が長いほどその者の位の高さを表す。
ジークは濡羽色の綺麗な黒髪に、金に輝く瞳が印象的な美男子だ。今年21歳を迎えた正真正銘の皇太子である。……で、あるのだ…が!現在、彼は非常に困難な問題に直面している。
婚約者探しだ。彼は見目も麗しく、次期皇帝としての才覚も持っており、支持基盤も盤石である。本来なら産まれた時からでも婚約者候補なりが存在すべきなのだが、現在の皇帝陛下の信念によってジークには婚約者が存在しない。
現皇帝陛下、つまりジークの父親の信念とは『己の番は己の力で見つけるべし』…。
そう、ジークの父親は皇帝の技量は高いものの、少し頭が弱いのだ。
幼い頃から他人に対しての興味が人一倍薄かったジークは、21歳を迎えるまで恋愛をしたことがない。
とは言え世継ぎ問題もあることから、帝国内で選りすぐりの教師たちから恋愛指南は受けている。しかし、悲しいまでに興味がないのだ。このままでは継承権も危ういと、現皇帝は自分の息子に今年中に婚約者を見つけ出すよう命令を出した。
そのような理由で、首都近辺に住まう伯爵家以上のご令嬢を一堂に集めた舞踏会を開いたのだ。
「ジーク殿下、せっかくの舞踏会でございます。誰でも良いので早くダンスでも踊って来てください」
口元をヒクヒクさせながら、ジークの側近であるアドラメレク・ココ・アストルオーセンが何とか笑みを作る。彼はこの舞踏会を開いた立役者だ。父親に命を出されたジークは「よろしく」の一言で彼に丸投げしてしまったのである。いつものことだ。
「今はダンスって気分じゃない」
「………では、あちらのお嬢様方とお話など…」
「あとで気が向いたら行く」
「……っとに!分かってんのか、ジーク!!お前の為にどれだけ苦労してこの舞踏会を開いたと思ってんだ!今夜こそ婚約者候補の一人や二人くらい見つけて貰わなきゃ困るんだぞ!!!!」
「アド、口調が戻ってるぞ」
取り乱してしまった自分の側近に、ニッコリと笑顔を向けるジークは一見すると優しい人間である。しかしその笑みは黒い。ジークは飄々と我を通してしまう人間だ。「こう」と決めたら「こう」で、逆に言えば決めなかったら何もしない。
そのしわ寄せは側近であり、親戚筋の幼馴染であるアドが全て請け負うことになるのだ。
アドは今後の展開を予想して既に胃の痛みを感じ始めている。これだけの規模の舞踏会を開いておいて、何の成果もあげられないとなると皇帝陛下からの叱責は如何ほどだろう。
(誰でも良い、誰か…!この哀れな下僕をお救いください…!!!)
アドはそう思いながら空を掴む。顔を上げていないと涙が落ちそうだった。
「はー…、…まぁ、挨拶くらいはしておかないとな」
「!」
早速祈りが通じたのだろうか。ジークがノロノロと腰を上げる。アドは思わずガッツポーズをしてしまいそうになるのを何とか堪えた。
「……やっぱり、気が乗らない」
立ち上がり会場が見渡せるところまで歩み出て、ご令嬢の面々を一通り見渡してからジークが呟く。
参加しているご令嬢はもちろん、その後ろで権力に対してギラギラとした狩人の目をしている保護者に吐き気がしたのだ。それでも一度席を立ってしまったのだから、一言でも挨拶をしないと次期覇者として面目が立たない。
「はぁーーーー…。アド、俺の興を立てる話をしろ」
いつもの無茶振りである。ここでジークの興味を惹けなければこの舞踏会は終わりだ。
アドはその知識を総動員して、この場に相応しい話題を探した。探して、探して、探して、探して…。
なんとか手繰り寄せた希望の光を、恐る恐る口に出す。
「我が大帝国の東の東に、ジャンパングと言う国がございます。その国の独自の恋愛観が殿下にピッタリかもしれません」
ジークの眉がピクリと動くのを察知して、アドは一筋の汗をたらりと流した。
この国の名前は【ディバリオーセン帝国】
先ほど『大帝国』と称した理由はその広さにある。
その領土はこの世界の陸地の約80%を占め、その領土の隅々まで広く開拓しているのだ。他国の王はこの帝国を『御伽の国』と呼ぶものもいる。まるで御伽噺のように国力が強く、住まう民の人種も様々で突飛な人物が多いからかもしれない。
そんな帝国を統べる皇帝閣下の嫡男がこの舞踏会の主催者であるジークシュトルヴィウス・エッセ・トール・ディバリオーセンだ。
名前が長いほどその者の位の高さを表す。
ジークは濡羽色の綺麗な黒髪に、金に輝く瞳が印象的な美男子だ。今年21歳を迎えた正真正銘の皇太子である。……で、あるのだ…が!現在、彼は非常に困難な問題に直面している。
婚約者探しだ。彼は見目も麗しく、次期皇帝としての才覚も持っており、支持基盤も盤石である。本来なら産まれた時からでも婚約者候補なりが存在すべきなのだが、現在の皇帝陛下の信念によってジークには婚約者が存在しない。
現皇帝陛下、つまりジークの父親の信念とは『己の番は己の力で見つけるべし』…。
そう、ジークの父親は皇帝の技量は高いものの、少し頭が弱いのだ。
幼い頃から他人に対しての興味が人一倍薄かったジークは、21歳を迎えるまで恋愛をしたことがない。
とは言え世継ぎ問題もあることから、帝国内で選りすぐりの教師たちから恋愛指南は受けている。しかし、悲しいまでに興味がないのだ。このままでは継承権も危ういと、現皇帝は自分の息子に今年中に婚約者を見つけ出すよう命令を出した。
そのような理由で、首都近辺に住まう伯爵家以上のご令嬢を一堂に集めた舞踏会を開いたのだ。
「ジーク殿下、せっかくの舞踏会でございます。誰でも良いので早くダンスでも踊って来てください」
口元をヒクヒクさせながら、ジークの側近であるアドラメレク・ココ・アストルオーセンが何とか笑みを作る。彼はこの舞踏会を開いた立役者だ。父親に命を出されたジークは「よろしく」の一言で彼に丸投げしてしまったのである。いつものことだ。
「今はダンスって気分じゃない」
「………では、あちらのお嬢様方とお話など…」
「あとで気が向いたら行く」
「……っとに!分かってんのか、ジーク!!お前の為にどれだけ苦労してこの舞踏会を開いたと思ってんだ!今夜こそ婚約者候補の一人や二人くらい見つけて貰わなきゃ困るんだぞ!!!!」
「アド、口調が戻ってるぞ」
取り乱してしまった自分の側近に、ニッコリと笑顔を向けるジークは一見すると優しい人間である。しかしその笑みは黒い。ジークは飄々と我を通してしまう人間だ。「こう」と決めたら「こう」で、逆に言えば決めなかったら何もしない。
そのしわ寄せは側近であり、親戚筋の幼馴染であるアドが全て請け負うことになるのだ。
アドは今後の展開を予想して既に胃の痛みを感じ始めている。これだけの規模の舞踏会を開いておいて、何の成果もあげられないとなると皇帝陛下からの叱責は如何ほどだろう。
(誰でも良い、誰か…!この哀れな下僕をお救いください…!!!)
アドはそう思いながら空を掴む。顔を上げていないと涙が落ちそうだった。
「はー…、…まぁ、挨拶くらいはしておかないとな」
「!」
早速祈りが通じたのだろうか。ジークがノロノロと腰を上げる。アドは思わずガッツポーズをしてしまいそうになるのを何とか堪えた。
「……やっぱり、気が乗らない」
立ち上がり会場が見渡せるところまで歩み出て、ご令嬢の面々を一通り見渡してからジークが呟く。
参加しているご令嬢はもちろん、その後ろで権力に対してギラギラとした狩人の目をしている保護者に吐き気がしたのだ。それでも一度席を立ってしまったのだから、一言でも挨拶をしないと次期覇者として面目が立たない。
「はぁーーーー…。アド、俺の興を立てる話をしろ」
いつもの無茶振りである。ここでジークの興味を惹けなければこの舞踏会は終わりだ。
アドはその知識を総動員して、この場に相応しい話題を探した。探して、探して、探して、探して…。
なんとか手繰り寄せた希望の光を、恐る恐る口に出す。
「我が大帝国の東の東に、ジャンパングと言う国がございます。その国の独自の恋愛観が殿下にピッタリかもしれません」
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