香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

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誘拐事件勃発

まるで姉妹のように

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 山茶花さざんか睡蓮スイレンといった、色とりどりの花びらが舞う。皇帝の住む宮殿がある城下町は、いつもの賑わいを見せていた。
 串焼きが美味しい屋台、昼間から男衆がいびりたつ酒屋、陽が落ちたら始まる楼閣ろうかくなど。大きな道を挟んで、数多の店が並んでいた。

「……懐かしいなぁ。あ、お姉様! あのお店は昼から開いていて、いつも男性で店内が埋まっているんですよ」

 まだ幼さが残る顔立ちの少女は、妃というしがらみを忘れるかのように町を楽しむ。いつもは窮屈きゅうくつな後宮で暮らしていて、自由などありはしなかった。侍女たちは冷たく、少女を苛めては楽しんでいる。兵や宦官かんがん。彼らも侍女たちと同罪で、曹朱ツァオジュが止めに入らなければ、ひたすらこの少女を苛めていた。
 そんな後宮の闇を一心に受けとめている少女──金明ジンミン妃──は、香 麗然コウ レイランに連れられて町に出かけている。

 連れ出した香 麗然コウ レイランは少女の笑顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした。

 (よかった。町へとお忍びで出かけた甲斐があったわね。ずっとあんな酷い場所にいたら、この子の心はすさんでしまうし)

 ただ、帰ったら曹朱ツァオジュによる説教が待っているだろう。それを思うと、手放しに喜べはしなかった。けれど金明ジンミン妃の後宮では見せない無邪気な笑顔に、香 麗然コウ レイランは叱られることもやぶさかではないなと意を固める。
 
「さて。金明ジンミン妃、目的の金物屋まで参りましょうか」

「はい!」

 端から見れば二人は仲のよい姉妹だ。どちらもかわいらしい顔立ちのおかげか陰口ではなく、美人姉妹として、行く先々で噂される。
 けれど二人はそんな噂などお構い無し。一緒にいることが楽しくて仕方ないようだ。
 
「あ、見てください。これ、きれいな絹でできてます!」

 金明ジンミン妃は服やくしなどの衣類を。

「あ。金明ジンミン妃、あれ、すっごく美味しそうじゃない?」

 香 麗然コウ レイラン饅頭マントゥや焼きとうもろこしなどの食べ物を。

 どちらもが、わかりやすいまでの欲求を興味として語った。両極端な二人だけれど、それでも喧嘩はしない。どちらかの行きたい場所へおもむき、終わったらもう一人の好きなところへ。
 喧嘩などすることなく、お互いの求める欲を好きなだけ堪能した。
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