香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

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誘拐事件勃発

金明《ジンミン》妃の勇気

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 掬い上げた髪を力強く引っぱった。すると髪はパサリと音をたてて、丸ごと床に落ちてしまう。

「……なっ! あ、あんた……」

 香 麗然コウ レイラン、そして金明ジンミン妃ですら、驚きを隠せなかった。それもそのはず。髪を落としたはずなのに、女の頭にはしっかりと別のそれがついていたからだ。しかも黒髪ではなく、真っ白。
 同時に侍女頭だった女は、みるみる内に顔の輪郭りんかくを変えていく。女性らしい丸くて柔らかそうな肌は消え、骨ばってはいるけれど、しっかりと筋肉がついた顔だ。

 (侍女頭のときと香りは同じ。でも、顔の輪郭りんかくを変えることなんて、できるものなの!?)

「男、だったの!?」
 
「ん? ああ、まあな。ところで、どうだ? 俺様の演技は? 立派に侍女をやっていただろう? あ、言っておくけど妃を苛めていたのは、命令だったからだ」 

 大笑いをする。女性のような顔立ちの男は、中性的な声で小馬鹿にしてきた。わざとらしく靴音をたたせながら香 麗然コウ レイランに近づき、彼女の両頬を片手で掴む。

「……へえ。やっぱりお前、いい女だな?」

 ゲラゲラと笑いながら遊んでいる片手で、香 麗然コウ レイランの胸を触ろうとした。

 香 麗然コウ レイランは「やだっ!」と、涙目で拒否する。

 (怖い。怖いよ)

 抵抗しよようとも相は男。力ではどうしても負けてしまう。それでも全力で嫌がった。

「……ま、待って!」

「ああ?」

 後少しというところまで迫っていた手は、金明ジンミン妃の声によってとまる。
 
 金明ジンミン妃は青ざめた表情になりながらも、必死に震える足を立たせていた。ガクガクと、膝から崩れ落ちそうになっても頑張って立つ。大きな瞳から涙を溢し、嗚咽おえつを混じらせて叫んだ。

「あなたたちの目的は、わたしでしょう!? その人は、関係ないわ。今すぐ離して!」

 ふらふらと、気力だけで立つ。お願いしますと泣きながら彼らに懇願こんがんしていた。けれど……

「おいおい。何か、勘違いしてねー? この女が関係ないだぁ? んなわけあるか。ここまで俺らを追いつめた癖に、今さら関係ないは通用しねーだろ!」

「……?」

 金明ジンミン妃も、そして香 麗然コウ レイラン本人ですら、彼の言葉の意味がわからなかった。

 (追いつめた? いつ私が、あんたらを追いつめたの? そんな記憶、まったくないんだけど!?)

 もしや勘違いなのか。もしそうならこのような仕打ち、納得できない。
 香 麗然コウ レイランは隙ができた男の手に噛みついた。
 
 男は痛みから彼女を離してしまう。

「……この女、本当にじゃじゃ馬だな」

「そりゃ、どうも……と言うか。私、あんたらを追いつめた覚えないんだけど!?」

 動けない状態で、その場に尻もちをついた。金明ジンミン妃がかけより、彼女の上半身だけを起こしてくれる。
 
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