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新たなる妃
皇帝との対面
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その価値観の中に、どれほどの正義が詰まっているのか。香 麗然自身もわかってはいなかった。それでも彼女は幼い子が泣く姿を見たくはなかったので、最善を尽くしただけにすぎない。
裏表のない、素直な気持ちでそう答えた。
「……そうか。ところで香 麗然、もう怪我はよいのか?」
「あ、はい。一週間ほど寝こみましたが、陛下の妹君……金明様の看病のおかげで、なんとか熱は下がりました」
「ふっ。それは、よかった」
皇帝の声が少しだけ和らぐ。
香 麗然は顔を上げようとしてしまった。けれど皇帝の名がない限り、頭を上げることが許されない。 それでも皇帝の顔を見たいと、うずうずした。
(一体、どんな顔をしてるのかしら? というか……どこかで嗅いだような匂いなのよね)
覚えがある。けれど思い出せない。そんなもどかしい気持ちを抱えながら、床だけをじっと見ていた。ふと、そのときだ。誰かが近づいてくる足音が聞こえる。そして……
「香 麗然、顔を上げよ」
「…………」
許しは得た瞬間、彼女はふっと、相手を見上げた。そこには冕冠という冠を被った男がいる。すだれのような長い棒が何本もあり、それが顔を見えにくくしてしまっていた。
黒い漢服に身を包んだ男は、じっと彼女を見つめていた。
「……? え? あ、あの?」
(何? 何でそんなにジロジロ見るわけ? 私この人と、知り合いなわけじゃないと思うんだけど……)
いくら皇帝とて、女性の顔をジロジロと見るのは失礼に当たる。何気なく、そう呟いてしまった。
すると……
「ぷっ」
なんと、皇帝が吹き出してしまう。これには彼女だけでなく、その場にいた者たちが皆、驚いてしまった。それでも皇帝は、笑いを堪えるのに必死な様子。
けれど少し離れた場所にいる金明が強めの咳払いをすると、皇帝は我に帰ったように真剣な面持ちになる。そして腰を曲げ、香 麗然の耳元に唇を近づけた。
「その櫛、売らずにいてくれたんだな? 俺はてっきり、もう売ってしまったのかと思ったぞ」
「え?」
直前までの、高貴ない雰囲気を漂わせていた皇帝とは思えない軽口が飛んでくる。香 麗然は思わず彼の顔を凝視した。
皇帝は非常に端麗な顔立ちをしている。彼の顔を知らない女がいたら、さぞや、黄色い声を浴びせられるだろうと思えるほどに整っていた。そして漢服の上からでもわかるほどに体格がいい。
裏表のない、素直な気持ちでそう答えた。
「……そうか。ところで香 麗然、もう怪我はよいのか?」
「あ、はい。一週間ほど寝こみましたが、陛下の妹君……金明様の看病のおかげで、なんとか熱は下がりました」
「ふっ。それは、よかった」
皇帝の声が少しだけ和らぐ。
香 麗然は顔を上げようとしてしまった。けれど皇帝の名がない限り、頭を上げることが許されない。 それでも皇帝の顔を見たいと、うずうずした。
(一体、どんな顔をしてるのかしら? というか……どこかで嗅いだような匂いなのよね)
覚えがある。けれど思い出せない。そんなもどかしい気持ちを抱えながら、床だけをじっと見ていた。ふと、そのときだ。誰かが近づいてくる足音が聞こえる。そして……
「香 麗然、顔を上げよ」
「…………」
許しは得た瞬間、彼女はふっと、相手を見上げた。そこには冕冠という冠を被った男がいる。すだれのような長い棒が何本もあり、それが顔を見えにくくしてしまっていた。
黒い漢服に身を包んだ男は、じっと彼女を見つめていた。
「……? え? あ、あの?」
(何? 何でそんなにジロジロ見るわけ? 私この人と、知り合いなわけじゃないと思うんだけど……)
いくら皇帝とて、女性の顔をジロジロと見るのは失礼に当たる。何気なく、そう呟いてしまった。
すると……
「ぷっ」
なんと、皇帝が吹き出してしまう。これには彼女だけでなく、その場にいた者たちが皆、驚いてしまった。それでも皇帝は、笑いを堪えるのに必死な様子。
けれど少し離れた場所にいる金明が強めの咳払いをすると、皇帝は我に帰ったように真剣な面持ちになる。そして腰を曲げ、香 麗然の耳元に唇を近づけた。
「その櫛、売らずにいてくれたんだな? 俺はてっきり、もう売ってしまったのかと思ったぞ」
「え?」
直前までの、高貴ない雰囲気を漂わせていた皇帝とは思えない軽口が飛んでくる。香 麗然は思わず彼の顔を凝視した。
皇帝は非常に端麗な顔立ちをしている。彼の顔を知らない女がいたら、さぞや、黄色い声を浴びせられるだろうと思えるほどに整っていた。そして漢服の上からでもわかるほどに体格がいい。
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