香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

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元宵祭(げんしょうさい)の琵琶の音

爽やかな風

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「私、何度も言いましたよね? そういった態度は嫌いだって!」 

 ぷんすこと、頬を膨らませた。両腰に手を置いて、ぷりぷり怒る。

「……」
 
 青年はにっこりと微笑み、静かに頷いた。そして何を思ったのか、彼女の服のそでを軽く引っ張る。近くにある木を指さし、再び微笑んだ。

「え? ……もしかして、あの木の下に座りたいの?」

 青年に頷かれ、香 麗然コウ レイランは肩をすくませる。それでも不思議と嫌な気持ちにはならなかった。むしろ、どこか心地よい。そんな想いすらあった。
 青年が木に背中をつけて座ると、彼女もそれに習うように腰を降ろす。

 ざあー……

 冬の冷たい風のはずなのに、春のように爽やかで気持ちがいい。山茶花さざんか睡蓮すいれんなどの花びらが舞い、視界を横切った。
 体に当たる少しばかりの風が香 麗然コウ レイランの髪を揺らす。
 
 (気持ちいい風。ああ……ここ最近はバタバタしてて、こんなにゆっくりはできてなかったわね)

 うとうと……と、日差しにつられて眠気が襲ってきた。ふと、そのときだ。隣から力強く、厚みのある音色が聞こえてくる。目を開くと、青年が琵琶びわを弾いていたのだ。
 その音色は周囲にいる人々の足をとめさせる。誰もが青年に注目し、下級妃の抱く赤子が笑顔になるほど。

 (凄く、落ち着く音色。……そう言えば昔、私がいじめられてたとき、助けてくれた人がいたわ。その人も、琵琶びわを弾いていたっけ)

 呼び起こされるのは少しだけ辛くて暖かい過去だった。
 


 昔、香 麗然コウ レイランが幼かった頃、彼女は泣き虫だった。村の中に友だちはおらず、いつも一人でいた。暗い性格ではなかったけれど、ちょっとだけ人見知りな少女だった。
 そんな少女はある日、村の外から訪れた男の子と仲良くなる。男の子について、詳しい理由は聞かされていない。
 その男の子は香 麗然コウ レイランの手を引っぱって遊びに連れていってくれた。

 暖かくて、優しい。けれど夕陽のせいで、どうしても顔が思い出せない。思い出そうとするとモヤがかかり、記憶の中の男の子が歪んで見えてしまった。
 それでも香 麗然コウ レイランは自分から話す勇気をくれた男の子を想っている。そして、密かに探していた。
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