香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫

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一族の謎

青と緑

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 香 麗然コウ レイランこそが本物の皇族であり、くにはじめし者の末裔まつえいだった。
 曹朱ツァオジュ金明ジンミンのご先祖はコウ一族を支える従者じゅうしゃであった。

 このことに一番驚いたのは香 麗然コウ レイランだ。両目を丸くさせ、小首を傾げている。周囲の空気などお構いなしに、両腰に手を置いて微笑む。

「よし! よくわからないけど、わかったわ」

「……」 

 これには二匹のシマエナガも、曹朱ツァオジュたちですらほうけてしまった。曹朱ツァオジュと【やきとり】にいたっては頭痛を覚えたようで、こめかみを抑えている。

「君は本当に、何と言うか……」

「え? だって、あなたが皇帝であることには、変わりはないでしょ?」

「……いや。話を聞いていたか? 俺の先祖せんぞは……」

「それは先祖の話でしょ? 今のあなたじゃないじゃない。いい? 時代が流れていくと同時に、人の心も、地位も変わっていくの。ずっと同じ! なんてことはないわ」

 季節が移り変わり、新しい年を超えれば、また違う何かが生まれる。それは皇族、しいては王制度にも言えることだった。

「その証拠にあなたは、四夫人という制度の廃止はいしを決定したでしょ? だったら、それと同じよ。時代が、少しずつ新しく変わっていくだけ」

 何を悩む必要があるのか。彼に顔を近づけ、右手の人差し指をフリフリさせた。
 大きな瞳でにっこりと微笑み、彼の手をそっと握る。

曹朱ツァオジュ……ううん。眠曹ミエンツァオ様は國のために、一生懸命頑張ってきたんだもの。それは、あなた自身がつちった勲章くんしょうそのものなの」

 ざあー……と、風にあおられた二人の髪がなびいた。

 香 麗然コウ レイランは美しくもはかない、優しい笑顔で。
 曹朱ツァオジュは彼女の言葉、そして見目みめに心がうばわれていった。




 そんな二人を外野としてながめる【やきとり】は金明ジンミンの肩に乗る。つぶらで愛らしい瞳をジト目に変え、ボソボソと少女に問いかけた。

『……ねえ。前から思ってたんだけど、あの二人って実は、両想いなんじゃないのかしら?』

 香 麗然コウ レイランたちは今や、完全に二人だけの世界に入ってしまっている。それを見ながら、それとなく聞いた。

 金明ジンミンは苦笑いし、大好きな二人を見つめる。

「それは、まあ……でも、お兄様は素直ではないですし。それにほら……お姉様はそのぉ」

『あー……』

 鈍いから。
 
 シマエナガは納得した。納得できるような材料しか揃っていないからだ。
 恋心を自覚している曹朱ツァオジュはともかく、香 麗然コウ レイランは、それに気づいてはいないのかもしれない。例え気づいていたとしても、それが恋というものかどうかまではわからないのだろう。
 
『これは、前途多難ぜんとたなんね?』

「ふふ。そうですね。でもわたしは、そんなお二人だからこそ、幸せになってほしいって願っているんです」

 鳥と少女という、かわいらしい光景が空気を柔らかくしていった。
 一緒にいる玄偽シエンイの頬も緩んでいる。

「…………」

 口が利けないけれど、それでも玄偽シエンイは今の光景に満足していたようだ。けれどその刹那──

「……っ!?」

『……っ!?』 

 二匹のシマエナガ、そして玄偽シエンイは何かを感じる。それは穏やかなものではなく、ざわつくような気配だ。
 【やきもり】は香 麗然コウ レイランたちの元へ。玄偽シエンイ金明ジンミンを背中に隠すように、立ったままこといた。

 ビィィ……ンという、糸だけをはじくような音が飛び出す。
 それは波のように形を変え、彼らが集まる場所から離れた森の中へと向かっていった。木々を倒すことなく、森の中を走っているよう。

「…………」
 
 玄偽シエンイは近くに来た香 麗然コウ レイランの手を握った。そして彼女の手のひらに文字を書いていく。【あの林の中に、誰かいます】と書き、香 麗然コウ レイランの答えを待った。

「……誰か? それはあまりよくない人、ってことでいいのよね?」

「…………」

 香 麗然コウ レイランの神妙な面持ちを受け、玄偽シエンイは何度も頷く。




 香 麗然コウ レイラン玄偽シエンイの手を優しく握り、金明ジンミンと一緒に下がるように命じた。大きく深呼吸し、隣に立つ曹朱ツァオジュと顔を見合せた。
 そして視線を森へと向ける。

「誰!? そこにいるのは、誰なの!?」

 林の入り口付近にある木々に降り積もっている雪が、ドサリと地面へと落下した。
 そしてそこから、数人の兵が現れる。彼らは眠曹ミエンツァオが治めるくにの兵だ。

「……!? どういうことだ!? あれは、俺たちと一緒に来た兵たちではないぞ!」

 曹朱ツァオジュは驚きのあまりに声を荒げる。

「──当たり前ですわ陛下、ここにいる兵たちは皆、わたくしの配下に下った者たちですもの」

 林の奥からつやのある声がした。その声は近づいてくると、木々がガサッと大きく動く。

「彼らはこのわたくしを、新たなる主として認めた方々ですわ」

 声とともに、青い布が見えてきた。そして、林の中から一人の女性が姿を現す。

 その女性は青い華服を着ていた。そして顔立ちは……

「……え!? る、海羅ハイルゥォ様!? え!? でもあなは、後宮を去ったんじゃ……」

 香 麗然コウ レイランは混乱してしまう。それも仕方のないこと。
 彼女の言うように、海羅ハイルゥォは後宮を去ったのだ。元は四夫人の一人ではあった。けれど子を産めない体になってしまう。そのため自ら後宮を去る決意をし、数日前に妃の座を降りたはずだった。
 後悔こうかいも、くやしさもない、晴れやかな表情だったのを、香 麗然コウ レイランは覚えている。
 そんな彼女がなぜ、このような謀反むほんなどを起こすのか。そもそも、起こす理由がないように思えた。

 (あのときの海羅ハイルゥォ様は、心の底から幸せそうだった。それは、私の線香が証明してくれたわ。私たち一族が使う線香は、使った者の心残りがなければ、消えてしまう。そういう仕組みだわ)

 間違ってはいないはず。それを確認するために、【やきとり】へ目配せした。
 【やきとり】は彼女の言いたいことを理解したようで、強く頷く。

 (金明ジンミンの線香も、海羅ハイルゥォ様の線香も、確かに私たちの前で消えた。それは絶体に、間違ってないわ)

 ではなぜ、再びこのような場に現れたのか。海羅ハイルゥォの真意が読めず、香 麗然コウ レイランは眉をよせた。

海羅ハイルゥォ様、どうしてなの!?」

 あれはすべて演技だったというのか。そう問おうとした直後、曹朱ツァオジュに肩をたたかれた。
 彼に視線を走らせると、曹朱ツァオジュは一歩前に出る。

「お前は緑の宮の妃、玄塵シュェンチェンだな?」

「え!?」

 まさかの答えに、その場は凍りついた。
 香 麗然コウ レイラン金明ジンミンは、玄塵シュェンチェンへ視線を向ける。玄偽シエンイことをギリッと強く握りしめていた。
 二匹のシマエナガたちは一瞬だけ、眼を丸くさせる。
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