香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫

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最終章 我愛你(ウォーアイニー) すべての謎を解くために

緑の宮の妃──玄塵《シュェンチェン》──の正体

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「おいおい。その言い方だと、まるて俺が緑の宮の妃、玄塵シュェンチェンみたいじゃねーか」

 人を食った笑みを浮かべた。鉄格子をガタガタと揺らし、精神的に壊れた人を演じているよう。

 香 麗然コウ レイラン嘆息たんそくした。そして部屋の入り口へと向かう。扉に手を伸ばし、背中を男に見せた。

「みたいじゃなくて、そうなのよ。あんたの正体は、緑の宮の妃、玄塵シュェンチェンよ──」

 彼女声とともに扉が開かれた。そこから現れたのは二匹のシマエナガ、そして、黒い漢服を着ている美しい青年──眠曹ミエンツァオ──だった。
 シマエナガは香 麗然コウ レイランの元へと飛んでいくと、彼女の頬に触れたり、でられたりしている。

 皇帝の姿を見た侍女たちは一斉に拱手した。香 麗然コウ レイランも拱手し、顔をあげる。

「お待ちしておりました陛下、あらかたのことはお話ししております」

 香 麗然コウ レイランは妃らしい、気品のある振る舞いをした。

 眠曹ミエンツァオは軽く頷く。そして男の元へと向かい、牢屋を見下ろした。

「──香死妃かしひが先ほど伝えたことに、相違そういはないな?」

 突き刺すほどにするどい視線が男を射貫いぬく。冷めた眼差しはくにの頂点に立つ皇帝そのものだ。




 そんな彼を少し離れた場所で見守る香 麗然コウ レイランは、肩に乗るシマエナガをでる。ふわふわとした羽毛が心地よさを覚えた。
 
「……ねえ【やきとり】、あんた雪山で、玄塵シュェンチェン妃を食べたわよね? その後は、どうなったの?」

『ああ、あれ? 正直に言うと、雪山で食べたのは玄塵シュェンチェンじゃないわ』

「え? そうなの?」

 喋る【やきとり】を手のひらに乗せ、侍女たちとともに囲う。
 あの雪山の出来事に遭遇そうぐうした侍女は金明ジンミン玄偽シエンイだけ。二人は事情が飲みこめていない楊鈴ヤンリンユェに説明をしていた。


『──あれは一見すると、普通の人間に見えるわ。でも実を言うと、ただの影だったのよ』

「影?」

『ええ、影。本人が造り出した幻……というか、術で作った偽物、みたいなものかしら?』

 【やきとり】と【もち】は、普通のシマエナガではない。けれど、例えそうだったとしても、人間を食べれるというわけでなかった。
 
『要は、偽物……ただの影だったから、飲みこむことができたのよ。いくらあたしだって、人間は食べれないわよ』

 エッヘンと、小さなお腹を張る。ゴマのように愛らしい眼をパチクリさせ、ジュリリと鳴いた。

「なーんだ。やっぱり、そうだったんだ。あー、串焼きにしなくてよかったぁ」

『……あんたが言うと冗談に聞こえないから、やめてくれない?』

「ふふ。ごめん、ごめん。それよりも【やきとり】、教えてほしいことがあるの」

 【やきとり】の機嫌をとるように、香 麗然コウ レイランは頬ずりする。

『ちょっ!? 本当にあんたは、現金な子ね? で? 何が知りたいの?』

 はあーと、ため息をついた。それでも彼女の叶えたいことを実行してあげようとするあたり、このシマエナガは香 麗然コウ レイランを気に入っているのかもしれない。
 【やきとり】は翼を羽ばたかせ、【もち】と一緒に部家の中をぐるぐる回った。

「……この男は、顔を変えていたわ。変装とは違う。文字どおり、変えていたのよ。そんなこと、できたりするの?」

 彼女の声は、男と話している眠曹ミエンツァオを振り向かせる。彼もそれが気になっているらしく「我も知りたい」と、二匹のシマエナガを見つめた。

 注目を浴びた【やきとり】は少しだけたじろぐ。それでも咳払いだけで済ませ、ゴマのように愛らしい瞳を パチクリさせた。

『──できるわ。だってこいつは、あんたと同じなんだもの』

「……?」

 香 麗然コウ レイランは首を傾げる。同じとは、どういう意味なだろうか。

 (知りたい。でも聞いてしまうと、深い闇に落ちそうな気がする)

 考えあぐねいていると、眠曹ミエンツァオに手を握られた。そして四人の侍女たちもまた香 麗然コウ レイランの手を軽く握り、笑顔で頷く。

 香 麗然コウ レイランの目頭は少しずつ熱くなっていった。泣きたくなる気持ちをグッとこらえ、涙を拭く。そして二匹のシマエナガへと向き直り、決意を瞳に乗せた。

 シマエナガは一瞬だけ目を丸くする。そしてふっと微笑みわ翼を羽ばたかせた。

『いいわ。教えてあげる。あんたが知りたがっていること。それは──』
 
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