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七本槍
敵対
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右府の葬儀の日取りは中々決まらず、ようやく天正十年十月十日に大徳寺にて執り行われた。喪主は、右府の遺子で筑前守の養子となった、羽柴於次丸。主だった参列者は、細川幽斎 、池田三左衛門 、五郎左の名代として青山修理亮。三七、修理は言うに及ばず、三介さえも列席しない、異例の葬儀となった。そもそも、喪主が於次丸ということからして前代未聞である。本来は、三法師が喪主になるはずであった。ところが、岐阜から出ていこうとしない三七が三法師を匿ったのだ。清州での会談の折り、三法師は安土に移すことになっていた。三七はこれを反故にしたのだ。
このような顛末があったので、葬儀の挙行が遅れたのだ。というより、しびれを切らした筑前守が葬儀を断行したのだ。修理は待ってましたとばかりに、これは織田家簒奪の始まりと筑前守を糾弾した。筑前守も手をこまぬいているわけにもいかない。修理に対して、弁明を試みた。こうして、筑前守と修理の対立は決定的となった。
修理は、己の立場を強化すべく、三七と手を組んだ。惟任討伐において総大将の地位を筑前守に譲りはしたものの、織田家中において筑前守の地位がこれ以上上がることに、三七もまた我慢がならなかった。修理と利害が一致しているのだ。両者がてを結ぶのは自然な流れであった。これに、滝川将監も加わった。滝川は、清州での会談の折りは蚊帳の外に置かれ、また北条家との戦いで失った領地の替え地も与えられず、右府亡きあとは不遇をかこっていた。己が修理側につけば、筑前守を劣勢に追い込める。捲土重来を図るべく、修理に加担したのだ。
山崎城の普請を終えた安治に筑前守から呼び出しがかかったのは、修理、三七、滝川が手を組み筑前守を追い落とすという噂が耳に入ってきた頃であった。
「甚内。周りが大分騒がしくなってきたのう。」
筑前守は呑気に話かけてきた。慌てふためく素振りは微塵もなかった。
「畏れながら、何か手を打たねばなりますまい。」
「そのとおりじゃ。甚内、立て続けの普請となるが、今度は安土の普請を頼む。」
「安土の普請でございますか!?仰せとあらば否も応もありませぬが、あのような絢爛豪華な天守閣となると…。」
「早合点するでない。さすがに今のわしとて、あのような天守閣は築けぬ。そうではない。焼失を免れた二の丸の普請じゃ。若君にお入りいただくためのな。」
「若君にお入りいただく…?畏れながら、若君は三七様が手放そうとしないのではありませなんだか?ましてや、名代がいない今、三七様に名を下す方がおりますまい。」
「名代には、三介殿になっていただく。若君には安土にご入場いただき、若君が十五になるまで、三介殿が若君の後見となるのじゃ。」
「畏れながら、先の会談で名代は置かぬことになったはず。そのようなことを強行すれば、殿が謀叛人の烙印を押されませぬか?」
「尤もな懸念じゃ。じゃがな、先の会談で、若君が速やかに安土にお入りになることは決まっておったのじゃ。それを破ったのは、三七殿と修理の方じゃ。謀叛人と言うなら、やつらこそ謀叛人じゃ。織田家を守るためには、これしかない。」
安治は、筑前守の狙いを悟った。柴田様とは、見ている先が違う。これからの戦は、文字どおり食うか食われるかとなる。もちろん、殿の意向に異存はないが、これからはまさに全身全霊を賭けねばならぬ。安治は、冷たいものが背を伝わるのを感じていた。
「この甚内、身命を賭して安土の普請に当たります。」
安治は、腹を決めて、平伏した。
「甚内、大げさじゃ。安土の普請に身命を賭してもらっては困る。身命を賭してもらう場所は他にある。頼りにしておるぞ。」
筑前守は莞爾として笑った。
このような顛末があったので、葬儀の挙行が遅れたのだ。というより、しびれを切らした筑前守が葬儀を断行したのだ。修理は待ってましたとばかりに、これは織田家簒奪の始まりと筑前守を糾弾した。筑前守も手をこまぬいているわけにもいかない。修理に対して、弁明を試みた。こうして、筑前守と修理の対立は決定的となった。
修理は、己の立場を強化すべく、三七と手を組んだ。惟任討伐において総大将の地位を筑前守に譲りはしたものの、織田家中において筑前守の地位がこれ以上上がることに、三七もまた我慢がならなかった。修理と利害が一致しているのだ。両者がてを結ぶのは自然な流れであった。これに、滝川将監も加わった。滝川は、清州での会談の折りは蚊帳の外に置かれ、また北条家との戦いで失った領地の替え地も与えられず、右府亡きあとは不遇をかこっていた。己が修理側につけば、筑前守を劣勢に追い込める。捲土重来を図るべく、修理に加担したのだ。
山崎城の普請を終えた安治に筑前守から呼び出しがかかったのは、修理、三七、滝川が手を組み筑前守を追い落とすという噂が耳に入ってきた頃であった。
「甚内。周りが大分騒がしくなってきたのう。」
筑前守は呑気に話かけてきた。慌てふためく素振りは微塵もなかった。
「畏れながら、何か手を打たねばなりますまい。」
「そのとおりじゃ。甚内、立て続けの普請となるが、今度は安土の普請を頼む。」
「安土の普請でございますか!?仰せとあらば否も応もありませぬが、あのような絢爛豪華な天守閣となると…。」
「早合点するでない。さすがに今のわしとて、あのような天守閣は築けぬ。そうではない。焼失を免れた二の丸の普請じゃ。若君にお入りいただくためのな。」
「若君にお入りいただく…?畏れながら、若君は三七様が手放そうとしないのではありませなんだか?ましてや、名代がいない今、三七様に名を下す方がおりますまい。」
「名代には、三介殿になっていただく。若君には安土にご入場いただき、若君が十五になるまで、三介殿が若君の後見となるのじゃ。」
「畏れながら、先の会談で名代は置かぬことになったはず。そのようなことを強行すれば、殿が謀叛人の烙印を押されませぬか?」
「尤もな懸念じゃ。じゃがな、先の会談で、若君が速やかに安土にお入りになることは決まっておったのじゃ。それを破ったのは、三七殿と修理の方じゃ。謀叛人と言うなら、やつらこそ謀叛人じゃ。織田家を守るためには、これしかない。」
安治は、筑前守の狙いを悟った。柴田様とは、見ている先が違う。これからの戦は、文字どおり食うか食われるかとなる。もちろん、殿の意向に異存はないが、これからはまさに全身全霊を賭けねばならぬ。安治は、冷たいものが背を伝わるのを感じていた。
「この甚内、身命を賭して安土の普請に当たります。」
安治は、腹を決めて、平伏した。
「甚内、大げさじゃ。安土の普請に身命を賭してもらっては困る。身命を賭してもらう場所は他にある。頼りにしておるぞ。」
筑前守は莞爾として笑った。
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