35 / 44
七本槍
筑前守の覚悟
しおりを挟む
伊賀守内応の知らせを受けてから三日後、徳永石見守、大金藤八、山路将監の三名が山崎にやってきた。安治は筑前守から三名の応対を命じられており、安治が出迎えに上がり、そのまま広間に通した。
しばらくして筑前守が、近習を引き連れ広間に入ってきた。近習たちは、それぞれ刀や金子を手にしていた。
「ご尊顔拝し奉り、恐悦至極に存じ上げ奉ります。」
髭面の山路が慇懃に口上を述べ、平伏した。残りの二人も、山路に合わせるように平伏した。
「山路殿、堅苦しい挨拶は無しじゃ。面を上げられよ。時に、伊賀守殿は息災かな?」
筑前守は、満面の笑みで山路に問いかけた。
「畏れながら、必ずしも芳しいとは申し上げかねますが、柴田家の惣領として、持てる力の限り、織田家を盤石なものとせん、と常日頃申しております。」
山路が、その無骨な容貌に反して、立て板に水のごとく、答えた。筑前守は、一々頷きつつ山路の話に耳を傾けていた。
「織田家の行く末にとって、伊賀守殿のお力が是非とも必要じゃ。わしの思いを汲み取っていただき、誠に痛み入る。わしのせめてもの気持ちとして、是非受け取っていただきたい」
筑前守はそう言うと、近習に目くばせした。近習が刀七振りと金子を山路達の前に差し出した。
「これは、ほんの挨拶代わりじゃ。忠勤に励んでいただければ、褒美はお望みどおりとなろう。そうそう、伊賀守殿には追って銘国実の刀、黄金三百両 を差し上げる。左様、お伝えいただきたい。」
「ありがたき幸せ!羽柴様のご厚情、生涯忘れませぬ。我ら一同、伊賀守を盛り立て、更なる忠勤に励む所存でございます。」
山路は、畳に頭をこすりつけるように平伏した。あの手この手で伊賀守様を言いくるめたのであろうな…。平伏する山路をみた安治は、心の中でため息をついた。安治の見立てでは、伊賀守は筑前守に与するつもりはなかった。一方で、修理と確執がある伊賀守の下では、いくら功を上げたところでたかが知れている。まして、修理と筑前守の中は険悪で、いつ戦が始まるか分からない。であれば、いっそ羽柴方についた方が栄達は望める。山路他、伊賀守の重臣たちがそう考えたとしても不思議はない。重臣たちは揃って伊賀守に決断を迫ったのであろう。いくら伊賀守とて、手足となるべき重臣に背かれてはいかんともしがたい。まして、伊賀守自身、修理からよく思われていないことは身に染みて分かっている。こうして、筑前守の意向に従うことになったのだろう。ところで、殿は山路達の性根をどう踏んでおられるのだろうか…。
安治が思索に沈んでいる間、山路と筑前守は和気藹々と語らっていた。ひとしきり語り合った後、山路達は揚々と帰っていった。
「甚内、此度は大儀であった。」
山路達が去り、近習達を下がらせた後、筑前守は安治に声をかけた。
「恐れ入りましてございます。」
安治は、深々と頭を下げた。
「よう大風呂敷を広げたものじゃ。いや、皮肉ではない。正直、驚いておるのじゃ。言うまでも無いが、此度のことでお主に咎はない。改めてお主の力が分かった。嫌でも働いてもらわねばならぬ。」
「は、身命を賭して、お仕え申し上げます。」
「頼もしいな。お主ような者がわしの配下にいる限り、わしも行きつくところまで走り続けねばなるまい。甚内よ、次は槍働きを期待しておるぞ。お主の働きで、機は熟した。急ぎ出陣の準備をせよ。」
筑前守は、きっぱりと言い切った。
しばらくして筑前守が、近習を引き連れ広間に入ってきた。近習たちは、それぞれ刀や金子を手にしていた。
「ご尊顔拝し奉り、恐悦至極に存じ上げ奉ります。」
髭面の山路が慇懃に口上を述べ、平伏した。残りの二人も、山路に合わせるように平伏した。
「山路殿、堅苦しい挨拶は無しじゃ。面を上げられよ。時に、伊賀守殿は息災かな?」
筑前守は、満面の笑みで山路に問いかけた。
「畏れながら、必ずしも芳しいとは申し上げかねますが、柴田家の惣領として、持てる力の限り、織田家を盤石なものとせん、と常日頃申しております。」
山路が、その無骨な容貌に反して、立て板に水のごとく、答えた。筑前守は、一々頷きつつ山路の話に耳を傾けていた。
「織田家の行く末にとって、伊賀守殿のお力が是非とも必要じゃ。わしの思いを汲み取っていただき、誠に痛み入る。わしのせめてもの気持ちとして、是非受け取っていただきたい」
筑前守はそう言うと、近習に目くばせした。近習が刀七振りと金子を山路達の前に差し出した。
「これは、ほんの挨拶代わりじゃ。忠勤に励んでいただければ、褒美はお望みどおりとなろう。そうそう、伊賀守殿には追って銘国実の刀、黄金三百両 を差し上げる。左様、お伝えいただきたい。」
「ありがたき幸せ!羽柴様のご厚情、生涯忘れませぬ。我ら一同、伊賀守を盛り立て、更なる忠勤に励む所存でございます。」
山路は、畳に頭をこすりつけるように平伏した。あの手この手で伊賀守様を言いくるめたのであろうな…。平伏する山路をみた安治は、心の中でため息をついた。安治の見立てでは、伊賀守は筑前守に与するつもりはなかった。一方で、修理と確執がある伊賀守の下では、いくら功を上げたところでたかが知れている。まして、修理と筑前守の中は険悪で、いつ戦が始まるか分からない。であれば、いっそ羽柴方についた方が栄達は望める。山路他、伊賀守の重臣たちがそう考えたとしても不思議はない。重臣たちは揃って伊賀守に決断を迫ったのであろう。いくら伊賀守とて、手足となるべき重臣に背かれてはいかんともしがたい。まして、伊賀守自身、修理からよく思われていないことは身に染みて分かっている。こうして、筑前守の意向に従うことになったのだろう。ところで、殿は山路達の性根をどう踏んでおられるのだろうか…。
安治が思索に沈んでいる間、山路と筑前守は和気藹々と語らっていた。ひとしきり語り合った後、山路達は揚々と帰っていった。
「甚内、此度は大儀であった。」
山路達が去り、近習達を下がらせた後、筑前守は安治に声をかけた。
「恐れ入りましてございます。」
安治は、深々と頭を下げた。
「よう大風呂敷を広げたものじゃ。いや、皮肉ではない。正直、驚いておるのじゃ。言うまでも無いが、此度のことでお主に咎はない。改めてお主の力が分かった。嫌でも働いてもらわねばならぬ。」
「は、身命を賭して、お仕え申し上げます。」
「頼もしいな。お主ような者がわしの配下にいる限り、わしも行きつくところまで走り続けねばなるまい。甚内よ、次は槍働きを期待しておるぞ。お主の働きで、機は熟した。急ぎ出陣の準備をせよ。」
筑前守は、きっぱりと言い切った。
0
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴
もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。
潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。
空母伊吹大戦録
ypaaaaaaa
歴史・時代
1940年に行われた図上演習において、対米戦の際にはどれだけ少なく見積もっても”8隻”の空母を喪失することが判明した。これを受けて、海軍は計画していた④計画を凍結し、急遽マル急計画を策定。2年以内に大小合わせて8隻の空母を揃えることが目標とされた本計画によって、軽空母である伊吹が建造された。この物語はそんな伊吹の生涯の物語である。
離反艦隊 奮戦す
みにみ
歴史・時代
1944年 トラック諸島空襲において無謀な囮作戦を命じられた
パターソン提督率いる第四打撃群は突如米国に反旗を翻し
空母1隻、戦艦2隻を含む艦隊は日本側へと寝返る
彼が目指したのはただの寝返りか、それとも栄えある大義か
怒り狂うハルゼーが差し向ける掃討部隊との激闘 ご覧あれ
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる