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記憶喪失の至高の騎士
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「……ナイトさん……」
「申しわけないマスター……話を盗み聞きするつもりはなかったのだが、あまりにも通信が駄々洩れすぎてな、意図せず拾ってしまった。あぁ、紅茶はのめるか?」
「え、ええまぁ」
「それはよかった、話の前に紅茶をいれよう。テレポーターの影響で体温が低下しているはずだからな」
姿がないと思ったら、どうやら朝食につける紅茶を取りに席を外していただけらしく、慣れた手つきで紅茶を入れ始める。
「えっと……あれ? おかしいな、その人が君を助けてくれた人?」
いきなり現れたかと思ったら急に紅茶を入れ始めた人間に、局長はきょとんとした表情で私に確認を取る。
「ええ、驚くとは思いますが」
「えと、本当にその騎士は人間なのかい? 魔力計でこちらから見える情報だと、台風が君の部屋で紅茶を入れているように見えてるんだけど」
それは面白い光景だな……なんて私は想像してしまう。
「ええ、まぁ……確かに嵐のような人ですけど」
「ありえない、人間に許される貯蔵魔力量をはるかに超えているよ。こんな魔力最古のエルダードラゴンだって持ちえない。こんな魔力を持てるとしたら、それこそ転生者ぐらいしか」
ありえない……。そう局長が言葉を漏らそうとすると。
ナイトさんは紅茶を私に手渡し。
「俺は夜の太陽、ナイト=サン。この世界の人間でもなければ転生者ではない、理想の騎士だ」
そう局長に自己紹介をする。
「この世の人間ではないし、転生者でもない?」
局長は意味が分からないといったトーンでそう問い返す。
「簡単な話だ……俺はマスターによって召喚された、名前すらない至高の騎士だ」
意味が分からない。名前すらないのに自分のことは至高の騎士というし、召喚されてやってきた存在なのに転生者ではないと言い張る。
「名前すらないというのはどういうことかな?」
しかし局長はその矛盾を突くわけでもなく、ナイトさんに対してそうさらに問いを重ねていく。
「言葉の通りだ。召喚された際、俺という存在の個としての記憶は全て抹消された……ゆえに自らの名前すら存在はしていない」
そんな重要なことをさらっと述べた。
「えぇっ!?」
「むっ? どうしたマスター……紅茶に何か入っていたか?」
その発言に私は素っ頓狂な声をあげてしまうが、そんな驚愕の真実を述べた張本人は首をかしげている。
「き、き、記憶がない!? な、な、ナイトさん……それはいつから?」
「いったはずだが?マスター……召喚されたときからだ」
「は……はにゃぁ……」
ナイトさんの言葉に、私は全身の血の気が引いていき今更になって眩暈を覚える。
「じゃ、じゃあ今までナイトさんは……記憶もないのに転生者と交戦をしていたっていうんですか?」
「……もちろんそうなるな」
よくもまあ、自分のことを至高の騎士だとかなんだとか言えたものだ……。
実際強かったからよかったものの、そうでなかったらと思うと私は身震いをする。
「記憶がないのに自分を至高の騎士というのはどういう意味なんだい?」
その疑問は、流石に局長も突っ込みを入れざるを得なかったのか、乾いた笑いを漏らしながらナイトさんに問いかけるが。
「個としての記憶は失ったが、俺が至高の騎士であるという記憶と、そうあるべしという使命は残っている。ならば自らを至高の騎士と名乗るのは自然だろう」
「随分と自分に都合のいい記憶喪失ですね……」
「こればかりは仕方ないだろう、俺だって好きで記憶喪失になったわけではない」
それはそうなのだろうが……しかし通常記憶喪失の人間は記憶のない不安から明るい人でも少し大人しい性格になるはずなのだが。
この人に限ってはその限りではないらしい……。
「君が至高の騎士かどうかは置いておくとして、転生者ではないといったけれど、記憶喪失だというのにどうして君は自分を転生者ではないと言い切れるんだい?」
「彼女と契約を結んだ。転生者とはお前たちに敵対している異世界の人間をさすと先ほど本で学んだ。ならばマスターの従者である俺は、転生者という区分には入らないはずだ」
「随分と言い訳じみた発言だ。そもそも契約の証はあくまで契約書のようなもの、絶対命令権を持つが、油断した召喚主を召喚された人間が殺すことだって可能なはずさ。君が敵対していない証拠は?」
いつになく、局長はナイトさんに対しとげのある言い方で絡む。
その口調も攻撃的で、初めて見る局長の一面に私は緊張で鼓動が早くなるが。
「ふむ、彼女を転生者の手から救い出していることがその理由になると思うのだが」
ナイトさんは動じることなく、椅子に腰かけて堂々とそう返答をする。
「彼女に取り入って王都に侵入をする魂胆かもしれない」
「それはあり得ない」
「なぜ? 勇者を呼び出した国は勇者の裏切りで滅んだ……ありえないと断ずるには……」
「騎士はそんなことしない……」
己の存在にかけて……とそのあとに続けて言い放つナイトさん。
窓の閉め切った部屋に一つの風が吹く。
ナイトさんは詮索をする騎士団に対して、威嚇を込めて魔力を放出したのだ。
迷宮の中の吐き気を催すほどの魔力ではなかったが……。
魔力計でこちらを見ている本部にとっては天変地異にも似た映像が映し出されているのだろう。
誰もが息をのみ、静寂が訪れる。
ナイトさんはこちらに視線を向けてなんとも言えない表情をする。
どうやら、どうするかは私が決めろということらしい。
「局長。不安な気持ちもわかりますし、彼の素性は確かにうさん臭い人間でしょう」
「おいマスター……この至高の騎士のどこがうさん臭いというのだ」
何やらたわ言をナイトさんは呟いているが、無視しよう。
「ですが局長。私は転生者を圧倒するナイトさんの姿をこの目で見ました……確かに危険はあるかもしれません、ですが彼が私を主と呼ぶ以上……彼の力は、転生者に対抗するための大きな戦力になります」
「……そ、それはそうだけど」
「私は彼を信じます」
「…………~~~~~っ」
苦渋の決断を迫られた人間独特の声にならない声が通信越しから聞こえ。
しばしその声を響かせたのち……局長は短く。
「わかった……君を信じるよ」
そうつぶやいた。
「……ありがとうございます」
「礼を言われるほどのことじゃない……危険なのは、今のところは君だからね……」
「局長……」
呆れるように局長はそう言い放つと、大きなため息をわざとらしくつき。
「ちなみにナイト君、半端に記憶があるみたいだけど、いったい何を覚えているんだい?」
そう問いかけた。
「申しわけないマスター……話を盗み聞きするつもりはなかったのだが、あまりにも通信が駄々洩れすぎてな、意図せず拾ってしまった。あぁ、紅茶はのめるか?」
「え、ええまぁ」
「それはよかった、話の前に紅茶をいれよう。テレポーターの影響で体温が低下しているはずだからな」
姿がないと思ったら、どうやら朝食につける紅茶を取りに席を外していただけらしく、慣れた手つきで紅茶を入れ始める。
「えっと……あれ? おかしいな、その人が君を助けてくれた人?」
いきなり現れたかと思ったら急に紅茶を入れ始めた人間に、局長はきょとんとした表情で私に確認を取る。
「ええ、驚くとは思いますが」
「えと、本当にその騎士は人間なのかい? 魔力計でこちらから見える情報だと、台風が君の部屋で紅茶を入れているように見えてるんだけど」
それは面白い光景だな……なんて私は想像してしまう。
「ええ、まぁ……確かに嵐のような人ですけど」
「ありえない、人間に許される貯蔵魔力量をはるかに超えているよ。こんな魔力最古のエルダードラゴンだって持ちえない。こんな魔力を持てるとしたら、それこそ転生者ぐらいしか」
ありえない……。そう局長が言葉を漏らそうとすると。
ナイトさんは紅茶を私に手渡し。
「俺は夜の太陽、ナイト=サン。この世界の人間でもなければ転生者ではない、理想の騎士だ」
そう局長に自己紹介をする。
「この世の人間ではないし、転生者でもない?」
局長は意味が分からないといったトーンでそう問い返す。
「簡単な話だ……俺はマスターによって召喚された、名前すらない至高の騎士だ」
意味が分からない。名前すらないのに自分のことは至高の騎士というし、召喚されてやってきた存在なのに転生者ではないと言い張る。
「名前すらないというのはどういうことかな?」
しかし局長はその矛盾を突くわけでもなく、ナイトさんに対してそうさらに問いを重ねていく。
「言葉の通りだ。召喚された際、俺という存在の個としての記憶は全て抹消された……ゆえに自らの名前すら存在はしていない」
そんな重要なことをさらっと述べた。
「えぇっ!?」
「むっ? どうしたマスター……紅茶に何か入っていたか?」
その発言に私は素っ頓狂な声をあげてしまうが、そんな驚愕の真実を述べた張本人は首をかしげている。
「き、き、記憶がない!? な、な、ナイトさん……それはいつから?」
「いったはずだが?マスター……召喚されたときからだ」
「は……はにゃぁ……」
ナイトさんの言葉に、私は全身の血の気が引いていき今更になって眩暈を覚える。
「じゃ、じゃあ今までナイトさんは……記憶もないのに転生者と交戦をしていたっていうんですか?」
「……もちろんそうなるな」
よくもまあ、自分のことを至高の騎士だとかなんだとか言えたものだ……。
実際強かったからよかったものの、そうでなかったらと思うと私は身震いをする。
「記憶がないのに自分を至高の騎士というのはどういう意味なんだい?」
その疑問は、流石に局長も突っ込みを入れざるを得なかったのか、乾いた笑いを漏らしながらナイトさんに問いかけるが。
「個としての記憶は失ったが、俺が至高の騎士であるという記憶と、そうあるべしという使命は残っている。ならば自らを至高の騎士と名乗るのは自然だろう」
「随分と自分に都合のいい記憶喪失ですね……」
「こればかりは仕方ないだろう、俺だって好きで記憶喪失になったわけではない」
それはそうなのだろうが……しかし通常記憶喪失の人間は記憶のない不安から明るい人でも少し大人しい性格になるはずなのだが。
この人に限ってはその限りではないらしい……。
「君が至高の騎士かどうかは置いておくとして、転生者ではないといったけれど、記憶喪失だというのにどうして君は自分を転生者ではないと言い切れるんだい?」
「彼女と契約を結んだ。転生者とはお前たちに敵対している異世界の人間をさすと先ほど本で学んだ。ならばマスターの従者である俺は、転生者という区分には入らないはずだ」
「随分と言い訳じみた発言だ。そもそも契約の証はあくまで契約書のようなもの、絶対命令権を持つが、油断した召喚主を召喚された人間が殺すことだって可能なはずさ。君が敵対していない証拠は?」
いつになく、局長はナイトさんに対しとげのある言い方で絡む。
その口調も攻撃的で、初めて見る局長の一面に私は緊張で鼓動が早くなるが。
「ふむ、彼女を転生者の手から救い出していることがその理由になると思うのだが」
ナイトさんは動じることなく、椅子に腰かけて堂々とそう返答をする。
「彼女に取り入って王都に侵入をする魂胆かもしれない」
「それはあり得ない」
「なぜ? 勇者を呼び出した国は勇者の裏切りで滅んだ……ありえないと断ずるには……」
「騎士はそんなことしない……」
己の存在にかけて……とそのあとに続けて言い放つナイトさん。
窓の閉め切った部屋に一つの風が吹く。
ナイトさんは詮索をする騎士団に対して、威嚇を込めて魔力を放出したのだ。
迷宮の中の吐き気を催すほどの魔力ではなかったが……。
魔力計でこちらを見ている本部にとっては天変地異にも似た映像が映し出されているのだろう。
誰もが息をのみ、静寂が訪れる。
ナイトさんはこちらに視線を向けてなんとも言えない表情をする。
どうやら、どうするかは私が決めろということらしい。
「局長。不安な気持ちもわかりますし、彼の素性は確かにうさん臭い人間でしょう」
「おいマスター……この至高の騎士のどこがうさん臭いというのだ」
何やらたわ言をナイトさんは呟いているが、無視しよう。
「ですが局長。私は転生者を圧倒するナイトさんの姿をこの目で見ました……確かに危険はあるかもしれません、ですが彼が私を主と呼ぶ以上……彼の力は、転生者に対抗するための大きな戦力になります」
「……そ、それはそうだけど」
「私は彼を信じます」
「…………~~~~~っ」
苦渋の決断を迫られた人間独特の声にならない声が通信越しから聞こえ。
しばしその声を響かせたのち……局長は短く。
「わかった……君を信じるよ」
そうつぶやいた。
「……ありがとうございます」
「礼を言われるほどのことじゃない……危険なのは、今のところは君だからね……」
「局長……」
呆れるように局長はそう言い放つと、大きなため息をわざとらしくつき。
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