14 / 64
異世界についての情報
しおりを挟む
「ふむ、どこまでというよりかは、失った記憶は自我、つまりは人としての記憶のみだ。 騎士としての在り方、
剣術、魔法……騎士として必要なものは全て覚えている。当然お前たちが異世界と呼ぶ世界のこともな」
確かにそこにいて、歩んでいた世界。その世界のことを覚えているのに、自分がそこにいた記憶がないというのは
一体どういう感覚なのだろう。
考えただけで私は胸が苦しくなったが、ナイトさんは気にする様子もなく続きを始める。
「そうか、じゃあ聞きたいんだけど、君や転生者が出てきたあの施設……あれはいったい何だったんだい?」
「あれは拠点(ポータル)だ……プレイヤーは広大な世界を旅する際に、【転移】の魔法を利用する。 拠点はすべて黒曜石という魔力を生み出す石から作られ、その拠点自体が大きな魔力だまりとなる。その魔力だまりを目印に、俺たちは転移魔法で世界を移動しているのだが、どうにもあれは手が加えられているようだ」
「手が加えられている?」
「拠点があんなに迷宮のように入り組んでいたら意味がないだろう。文字通りあの建物自体は転移の目印程度……
中もショップだったり宿泊施設だったりと冒険者のためになる構造のものしか存在しない」
「確かに、拠点と呼ぶにはあの施設は少しばかり気難しいね」
「おそらくはあの召喚陣を作るためにわざと迷宮化させたのだろう。本来黒曜石は魔力を外に放出する。だがあの
施設は中心……つまりはあの召喚陣に魔力が集まるように作られていた、あれでは拠点の意味をなさない。おそらくは転生者を召喚するために作られた施設ということだろう……俺たちを襲った転生者もあの拠点に一枚かんでいると考えるのが自然だな」
「襲った?」
その言葉に、局長は首を傾げ、私はその時の状況を局長に説明する。
「実は召喚された転生者以外にも、ダンジョンに潜入してきたランサーの転生者と交戦になったんです……確か、蜻蛉切と名乗っていました」
「に、二度も転生者の襲撃にあったのかい? 本当によく生きてたねサクヤ君……ちなみに、それも召喚された転生者なのかい?」
「いいや、新たに召喚されたものではない。何者かの依頼であの拠点に来たと語っていた」
「ありえない、この前の地揺れで遺跡が発掘された際に戒厳令は敷いたはず。情報が国外に漏れ出すことはあり得ない、知っている人間も限られているはず……」
「であれば、内部に転生者が潜り込んでいるのかもしれないな」
「ばかな、それこそ……」
ありえないという言葉を局長は飲み込み、私も言葉を失う。
「ありえない話ではないだろう。奴らも化け物ではない、人との関りが多かれ少なかれ必要になる。それなりの知識があれば、その力を隠して人に溶け込むのが一番効率的だ……この世界に友好的ではなくてもな」
そう、ありえない話ではないのだ。
実際転生者のほとんどは見た目だけでは人間と区別がつかない。
町に潜伏しても、その強大な力を振るわなければ誰も見分けることなどできない。
「それは、どれぐらいあり得る話なんだい?」
まだ信じられないのか、局長はそうナイトさんに問いかけるが。
「落ち着け局長。あくまで可能性の話だ。だが、お前たちの敵はそういう存在だということは忘れないでおけ……」
「っ」
ナイトさんの言葉に私でさえも姿勢を正してしまう。
知っているつもりだったが……私たちは転生者のことを何一つ識ってはいない。
そのことを再認識させられた。
「あ、ああ……肝に銘じておくよ。とりあえずどうしてこのことが漏れたのかは保留にして、こちらで調査をする。今は、その蜻蛉切に襲われたのち、どうなったのかを教えてくれ」
局長も同じことを考えていたのか、語気に少しばかり力がこもっている。
「蜻蛉切との戦闘にナイトさんは応戦、追い詰めたのですが」
「とどめの際に蜻蛉切は転移魔法を起動させ、ここに飛ばされた」
「ここに?」
「あぁ、理由は分からないが、あらかじめ転移魔法は準備されていた節があった。さらにはご丁寧に正門前に転移をされていたところを見ると、何か意味があると考えたほうが無難だろう。その後は転移の衝撃で気を失ったマスターを宿泊施設へと運んだ後、隣の教会で死んだ冒険者三人を蘇生した。教会が運営している宿泊施設があって助かったぞ、流石に普通の宿泊施設に死体を担いで上がりこむのは、騎士の矜持に反するからな」
騎士の矜持それ以前の問題のような気もするが、私はあえて突っ込むことはせずに。
「あ、アッガスさんたち……本当に生き返ったんですか?」
「もうしばらくしたら目を覚ますだろう。先も言った通り、レベルが低いせいでまだ歩ける状態ではない……これ
から治療が必要になるだろうが、命に別状はない」
「え、悪い冗談じゃないよね?」
「ナイトは無駄な嘘はつかない」
「いや、疑ってるわけじゃないんだけど、うち二人は両断されてたよね……」
「至高の騎士に不可能はない……」
ナイトさんはそう言うともう一つのカップにも紅茶を入れ、静かに飲み始める。
「あの、ありがとうございます。ナイトさん」
「気にすることではない。この程度のことは騎士としては当然のことだ」
人を三人も生き返らせて、二人もの転生者から私を守ってもなお、当然のこととあっけらかんと言い放つ謙虚なナイトさん。
私はそんな騎士に感謝の気持ちを覚えるが……。。
「ってちょっとまってナイトさん、教会で蘇生したって、一体どこで蘇生したんですか!?」
当然、胴体が両断された死体をもって教会に行けば案内されるところは決まっている。
「あぁ、彼らを安眠できる場所に案内してくれと言ったら快く蘇生用の祭壇まで案内してくれたな……最後の別れだとか……祈りがどうとか言っていたが、とりあえず蘇生を済ませてマスターの様子を見に来た次第だ」
「ちょっそれ!? 遺体安置し……」
つまりは今頃、教会の神父さんが最後の別れを済ませた後のお祈りをしている最中で。
【ぎゃああああああああぁ!?】
不意に、宿泊施設の外から叫び声が響き渡り、私は慌ててベッドから飛び降りると、ナイトさんを連れて教会へと向かうのであった。
剣術、魔法……騎士として必要なものは全て覚えている。当然お前たちが異世界と呼ぶ世界のこともな」
確かにそこにいて、歩んでいた世界。その世界のことを覚えているのに、自分がそこにいた記憶がないというのは
一体どういう感覚なのだろう。
考えただけで私は胸が苦しくなったが、ナイトさんは気にする様子もなく続きを始める。
「そうか、じゃあ聞きたいんだけど、君や転生者が出てきたあの施設……あれはいったい何だったんだい?」
「あれは拠点(ポータル)だ……プレイヤーは広大な世界を旅する際に、【転移】の魔法を利用する。 拠点はすべて黒曜石という魔力を生み出す石から作られ、その拠点自体が大きな魔力だまりとなる。その魔力だまりを目印に、俺たちは転移魔法で世界を移動しているのだが、どうにもあれは手が加えられているようだ」
「手が加えられている?」
「拠点があんなに迷宮のように入り組んでいたら意味がないだろう。文字通りあの建物自体は転移の目印程度……
中もショップだったり宿泊施設だったりと冒険者のためになる構造のものしか存在しない」
「確かに、拠点と呼ぶにはあの施設は少しばかり気難しいね」
「おそらくはあの召喚陣を作るためにわざと迷宮化させたのだろう。本来黒曜石は魔力を外に放出する。だがあの
施設は中心……つまりはあの召喚陣に魔力が集まるように作られていた、あれでは拠点の意味をなさない。おそらくは転生者を召喚するために作られた施設ということだろう……俺たちを襲った転生者もあの拠点に一枚かんでいると考えるのが自然だな」
「襲った?」
その言葉に、局長は首を傾げ、私はその時の状況を局長に説明する。
「実は召喚された転生者以外にも、ダンジョンに潜入してきたランサーの転生者と交戦になったんです……確か、蜻蛉切と名乗っていました」
「に、二度も転生者の襲撃にあったのかい? 本当によく生きてたねサクヤ君……ちなみに、それも召喚された転生者なのかい?」
「いいや、新たに召喚されたものではない。何者かの依頼であの拠点に来たと語っていた」
「ありえない、この前の地揺れで遺跡が発掘された際に戒厳令は敷いたはず。情報が国外に漏れ出すことはあり得ない、知っている人間も限られているはず……」
「であれば、内部に転生者が潜り込んでいるのかもしれないな」
「ばかな、それこそ……」
ありえないという言葉を局長は飲み込み、私も言葉を失う。
「ありえない話ではないだろう。奴らも化け物ではない、人との関りが多かれ少なかれ必要になる。それなりの知識があれば、その力を隠して人に溶け込むのが一番効率的だ……この世界に友好的ではなくてもな」
そう、ありえない話ではないのだ。
実際転生者のほとんどは見た目だけでは人間と区別がつかない。
町に潜伏しても、その強大な力を振るわなければ誰も見分けることなどできない。
「それは、どれぐらいあり得る話なんだい?」
まだ信じられないのか、局長はそうナイトさんに問いかけるが。
「落ち着け局長。あくまで可能性の話だ。だが、お前たちの敵はそういう存在だということは忘れないでおけ……」
「っ」
ナイトさんの言葉に私でさえも姿勢を正してしまう。
知っているつもりだったが……私たちは転生者のことを何一つ識ってはいない。
そのことを再認識させられた。
「あ、ああ……肝に銘じておくよ。とりあえずどうしてこのことが漏れたのかは保留にして、こちらで調査をする。今は、その蜻蛉切に襲われたのち、どうなったのかを教えてくれ」
局長も同じことを考えていたのか、語気に少しばかり力がこもっている。
「蜻蛉切との戦闘にナイトさんは応戦、追い詰めたのですが」
「とどめの際に蜻蛉切は転移魔法を起動させ、ここに飛ばされた」
「ここに?」
「あぁ、理由は分からないが、あらかじめ転移魔法は準備されていた節があった。さらにはご丁寧に正門前に転移をされていたところを見ると、何か意味があると考えたほうが無難だろう。その後は転移の衝撃で気を失ったマスターを宿泊施設へと運んだ後、隣の教会で死んだ冒険者三人を蘇生した。教会が運営している宿泊施設があって助かったぞ、流石に普通の宿泊施設に死体を担いで上がりこむのは、騎士の矜持に反するからな」
騎士の矜持それ以前の問題のような気もするが、私はあえて突っ込むことはせずに。
「あ、アッガスさんたち……本当に生き返ったんですか?」
「もうしばらくしたら目を覚ますだろう。先も言った通り、レベルが低いせいでまだ歩ける状態ではない……これ
から治療が必要になるだろうが、命に別状はない」
「え、悪い冗談じゃないよね?」
「ナイトは無駄な嘘はつかない」
「いや、疑ってるわけじゃないんだけど、うち二人は両断されてたよね……」
「至高の騎士に不可能はない……」
ナイトさんはそう言うともう一つのカップにも紅茶を入れ、静かに飲み始める。
「あの、ありがとうございます。ナイトさん」
「気にすることではない。この程度のことは騎士としては当然のことだ」
人を三人も生き返らせて、二人もの転生者から私を守ってもなお、当然のこととあっけらかんと言い放つ謙虚なナイトさん。
私はそんな騎士に感謝の気持ちを覚えるが……。。
「ってちょっとまってナイトさん、教会で蘇生したって、一体どこで蘇生したんですか!?」
当然、胴体が両断された死体をもって教会に行けば案内されるところは決まっている。
「あぁ、彼らを安眠できる場所に案内してくれと言ったら快く蘇生用の祭壇まで案内してくれたな……最後の別れだとか……祈りがどうとか言っていたが、とりあえず蘇生を済ませてマスターの様子を見に来た次第だ」
「ちょっそれ!? 遺体安置し……」
つまりは今頃、教会の神父さんが最後の別れを済ませた後のお祈りをしている最中で。
【ぎゃああああああああぁ!?】
不意に、宿泊施設の外から叫び声が響き渡り、私は慌ててベッドから飛び降りると、ナイトさんを連れて教会へと向かうのであった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる