28 / 64
隠されていたエルフ族
しおりを挟む
【この町も随分と変ったっすね……なぁ人間、おいしい岩ないっすか?】
「レンガじゃだめか?」
【おぉ、うまそーっすね】
「道は食うなよ?」
【了解っす。おぉ、うまいっすね。人間いい奴っす。名前なんて言うんすか?】
「ゼンだ……よろしくな」
町を大混乱させながら帰還した私たち。
災厄の竜の襲来により、町は一時騒然となっていたが、流石は冒険者の集まる街……といったところだろうか、空っぽになった街は一時間もたつと元の活気を取り戻し、今まで災厄と恐れていた竜を物珍しがって見に来るものもいるほどになった。
「まさか本当にこんな短時間で最高難易度クエストをクリアしてしまうとはねぇ……満月草は確かにありがたいけど、もう少し静かに帰って来れなかったのかい?」
そんな中、伽藍洞となった冒険者ギルドの応接室にて私たちはルインさんとともに少女の怪我を介抱する。
「エルフ族について話が聞けそうなのがお前だけだったからな、ほかの者には少々退いてもらっただけだ」
「あれだけの騒ぎを起こしておいて、このギルドを空にするのが目的だったってのかい? まったくあきれるね
ぇ、こっちは死ぬ覚悟もしたっていうのに」
「その点は謝罪しよう。だが事態は急を要した」
「わかってるよ、この子の代わりに礼を言わせてくれ」
「その口ぶりだと、お前はあの森にエルフ族がいるってことは知っていたのか?」
「まぁね、だが村の場所までは誰も知らないよ。昔はもっと公然で満月草の取引をしてたんだが。一回隣の国に満
月草目当てでエルフの村が襲われてね、それ以来は村の場所を隠しちまってたんだ。週一で来るエルフの商人との取引それがうちらとエルフ族の今の関りだ。この町じゃ、薬はいくらあっても足りないからね」
「だが一か月商人が来なかった」
「あぁ、エルフ族の村の場所は一部の人間しか知らされていないし、満月草のある場所はエルフ族しか知らない。見つからなくてもどってくるとタカをくくってクエストの受注を許可したけれども、まさか両方とも見つけちまうとわね……悉く私らの度肝を抜いてくれるよあんたは」
あきれたように呟くと、ルインさんは眠る少女に目を落とし。
「しかし、村は滅んでいたんだねぇ」
そう、耳を垂れさせて呟く。
言葉が見つからない。だけどその反応だけで、ルインさんはエルフの人たちとの関りが深かったことがうかがえる。
「暖かいものを入れてこよう。台所を借りるぞ、ギルドマスター」
「あぁ……すまないね」
ナイトさんはその様子に気を使ったのか、席を立つと台所へ消えていく。
静まり返った部屋。
局長も言葉を失っているのか、あの騒々しさが今は恋しい。
「エルフ族とは、どういう関係だったんですか?ルインさんは」
「先代勇者から、代々竜を預かり封印と恩恵を管理する。そんな神聖な種族さ。尊敬をしていたよ」
「クエストを貼りだしたのは最近ですか?」
「あぁ、つい昨日さ。週一で来るといっても、満月草の栽培が不調の時、二週間ぐらい来ないときは何度かあったからね……でもひと月は長すぎるってんで張り出したんだ、タイミングが良かったねぇ」
「そうですか……彼らが襲われた理由に心当たりは?」
「困ったことにありすぎる。過去の例もそうだが、満月草を使った薬学に製薬技術。魔法の力。加えて女も男もみんな総じて容姿がいいし、肉を食らえば不老長寿の薬になると信じているバカも一部いる。となれば引く手はあまただね。殺されてなきゃいいが」
やはり、唯一の手掛かりは目の前で眠る少女だけのようだ。
「争った形跡はありましたが、死体はありませんでした。おそらく連れ去られたのかと」
「せめてもの救いだね、少しは希望が持てる。あとはこの子が目を覚ませば、その希望を追いかけることができる
んだが」
優しく我が子を慈しむかのように頬をなでるルインさん。
と。
「うーん」
小さく唸るような声とともに、少女の瞼が動き、ゆっくりと開く。
「レンガじゃだめか?」
【おぉ、うまそーっすね】
「道は食うなよ?」
【了解っす。おぉ、うまいっすね。人間いい奴っす。名前なんて言うんすか?】
「ゼンだ……よろしくな」
町を大混乱させながら帰還した私たち。
災厄の竜の襲来により、町は一時騒然となっていたが、流石は冒険者の集まる街……といったところだろうか、空っぽになった街は一時間もたつと元の活気を取り戻し、今まで災厄と恐れていた竜を物珍しがって見に来るものもいるほどになった。
「まさか本当にこんな短時間で最高難易度クエストをクリアしてしまうとはねぇ……満月草は確かにありがたいけど、もう少し静かに帰って来れなかったのかい?」
そんな中、伽藍洞となった冒険者ギルドの応接室にて私たちはルインさんとともに少女の怪我を介抱する。
「エルフ族について話が聞けそうなのがお前だけだったからな、ほかの者には少々退いてもらっただけだ」
「あれだけの騒ぎを起こしておいて、このギルドを空にするのが目的だったってのかい? まったくあきれるね
ぇ、こっちは死ぬ覚悟もしたっていうのに」
「その点は謝罪しよう。だが事態は急を要した」
「わかってるよ、この子の代わりに礼を言わせてくれ」
「その口ぶりだと、お前はあの森にエルフ族がいるってことは知っていたのか?」
「まぁね、だが村の場所までは誰も知らないよ。昔はもっと公然で満月草の取引をしてたんだが。一回隣の国に満
月草目当てでエルフの村が襲われてね、それ以来は村の場所を隠しちまってたんだ。週一で来るエルフの商人との取引それがうちらとエルフ族の今の関りだ。この町じゃ、薬はいくらあっても足りないからね」
「だが一か月商人が来なかった」
「あぁ、エルフ族の村の場所は一部の人間しか知らされていないし、満月草のある場所はエルフ族しか知らない。見つからなくてもどってくるとタカをくくってクエストの受注を許可したけれども、まさか両方とも見つけちまうとわね……悉く私らの度肝を抜いてくれるよあんたは」
あきれたように呟くと、ルインさんは眠る少女に目を落とし。
「しかし、村は滅んでいたんだねぇ」
そう、耳を垂れさせて呟く。
言葉が見つからない。だけどその反応だけで、ルインさんはエルフの人たちとの関りが深かったことがうかがえる。
「暖かいものを入れてこよう。台所を借りるぞ、ギルドマスター」
「あぁ……すまないね」
ナイトさんはその様子に気を使ったのか、席を立つと台所へ消えていく。
静まり返った部屋。
局長も言葉を失っているのか、あの騒々しさが今は恋しい。
「エルフ族とは、どういう関係だったんですか?ルインさんは」
「先代勇者から、代々竜を預かり封印と恩恵を管理する。そんな神聖な種族さ。尊敬をしていたよ」
「クエストを貼りだしたのは最近ですか?」
「あぁ、つい昨日さ。週一で来るといっても、満月草の栽培が不調の時、二週間ぐらい来ないときは何度かあったからね……でもひと月は長すぎるってんで張り出したんだ、タイミングが良かったねぇ」
「そうですか……彼らが襲われた理由に心当たりは?」
「困ったことにありすぎる。過去の例もそうだが、満月草を使った薬学に製薬技術。魔法の力。加えて女も男もみんな総じて容姿がいいし、肉を食らえば不老長寿の薬になると信じているバカも一部いる。となれば引く手はあまただね。殺されてなきゃいいが」
やはり、唯一の手掛かりは目の前で眠る少女だけのようだ。
「争った形跡はありましたが、死体はありませんでした。おそらく連れ去られたのかと」
「せめてもの救いだね、少しは希望が持てる。あとはこの子が目を覚ませば、その希望を追いかけることができる
んだが」
優しく我が子を慈しむかのように頬をなでるルインさん。
と。
「うーん」
小さく唸るような声とともに、少女の瞼が動き、ゆっくりと開く。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる