至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
27 / 64

誇りの失墜した街、アルムハーン

しおりを挟む
~アルムハーンギルド本部ルインの酒場~  街サイド

「大変です! マスター!」

 そう、息も切れ切れに伝令の男がギルド本部に駆け込んだのが事の発端。

 そこから情報は火のように町全体に広まり……同時に町を恐怖の底へと叩き落す。

 内容は単純。

 先代勇者が封印をした竜が……このアルムハーンへと向かっている。

 そんな短く単純な報告であったが。

 恐らくこの街の人々にとっては、どのような精神魔法よりも効果のある絶望を植え付けられたことだろう。
 
 なぜならそれはこの街に住まうものにとって、考えうる最悪の災厄だからだ。

 槍も、剣も魔法も何もかもを跳ね返し、町を破壊しつくした異界の竜。

 その体は金剛石でできており、魔王を屠った勇者の力をも耐えきり、勇者をしても封印という形をとらざるを得なかったとされる伝承上最硬の異名を持つ神竜。 

 それがなんの前触れもなく、冒険者たちの目の前に現れたのだ。

 当然のことながら町は騒然となり、いくつもの戦場を渡り、幾千万の刃の中であろうともひるむことなく突き進み
ギルドマスターにまで上り詰めたルインでさえも、言葉を失ったほどである。

「ど、どうなってんだ……勇者様の封印が解かれたってのか!」

「そんなはずはない! 勇者様の封印は絶対だ‼︎? たとえ転生者であってもあのお方の封印が解かれるわけがない‼︎」

「じゃあどうして……」
 
 慌てふためく冒険者たち。

 酔いはさめ、先ほどまでの赤ら顔はまな板の上の魚のように青ざめている。

 しかし。

「なに下らねえこと論議してんだいお前たち! 論議がしたいなら学者になりな、ここは冒険者ギルドだよ。ドラゴン退治さ野郎ども!」

 言葉を失ったものの、己の立場が、勇者の意志を継ぐ自負がルインを正気に戻し。

 その怒号により絶望に染まった冒険者たちを奮い立たせる。

「お……おぅ……そうだな、みんな剣をとれ! 戦うぞ!町を守るんだ!」

 勝ち目はない。

 されど住民が避難するまでの時間稼ぎをすることはできる。

 どよめきのような覚悟は、浸透するように冒険者たちの間に広まっていき、冒険者たちは戸惑いを見せながらもそ
れぞれが武器を取り立ち上がる。

 盾の紋章と竜の紋章をこの町が掲げるのは、来るべき日に人々の盾になるため。

 戸惑いはやがて猛火となり、先代勇者の所属した冒険者ギルドの誇りにかけて、ギルドの全精力をもって、迫りくる災厄に立ち向かう。

 当然、そうなるのであろうと……自分が見守り、育ててきた冒険者たちはきっとそう剣を掲げてくれるのだろうとルインは思い、自らもまた剣を取った。

 だが。

「冗談じゃない……俺は逃げるぞ」

「俺も」

「俺もだ……」

 理想も、誇りも……二つに割れた音がする。

「お前たち……町を放って逃げるのかい?」

 戦うために武器を取るものもいれば、半数以上は逃走の為に武器を取り荷物をまとめる。

「冒険者ギルドはほかにもいくらでもある。なんでわざわざ勝ち目のない戦いをするんだ」

「そうだそうだ、こんな日のためにご立派な外壁を立ててんだろうこの町は! だったら、住民の避難も間に合うさ! こんなところで死んでたまるか」

  恐怖に染まった顔で声をあげる冒険者たち。
 
 その姿にルインは一度全身の毛を逆だてるも、唇を噛んでその激昂を押し込める。

「っ……そうかい、だったら早く避難しな! 逃げるんならちゃんと助かりなよ! 犬死なんてしたら許さないからね!」

 怒声一喝。

 引き留めることも、逃げるものを罵倒をすることもなく、そうルインは逃げたいと思う者の逃走を許した。

「いいんですか?」

 額に絆創膏を貼ったゼンが怪訝そうな問いを投げかけるが、ルインは静かにうなずく。

「足手まといは必要ないよ……戦う意思のあるやつはを正門前に集めておくれゼン」

「分かりましたギルドマスター……ですが」

 もし誰も集まらなかったらとゼンは問いかけようとするが、ルインはその言葉を手で静止する。

「大丈夫……きっと、逃げた者たちはほんの一部さ」

 ルインの言葉はまるで自分に言い聞かせるかのよう。                          

「ギルドマスター……」

「辛気臭い顔するんじゃないよ。さっさと正門前に人を集めな、竜は待ってくれないよ!」

「はっ!」

 力強くうなずき、ゼンはすぐさま冒険者を集め正門へと向かう。

 逃げるもの、戦う者、どちらも足並みは早く。 

 気が付けばあれだけごった返していた冒険者ギルドは十分を待たずして空になる。
 
「転生者……あんたらは私たちから誇りまで奪っていくんだね」

 ルインの言葉に答えるものはなく、呟きはギルドに寂しく響いて消えた。
                     ◇

「これだけか?」

 それから数分……正門前に集まり陣を敷いたのはわずかな冒険者のみ。

 ギルドにいた者たちの半数にも満たない勇気ある冒険者たち。

 当然のことながら、軍と呼ぶにはあまりにも数が少なく……とてもじゃないが陣を引けるほどの人数はそろってい
ないが、ゼンの指揮のもと無理やりに形にしたといった様子だ。

「ほかの奴らは?」

 そんな光景にルインはそう呟くが、誰もが首を左右に振る。

 答えは聞くまでもない……逃走だ。

「ただただ、むなしいね」

「っ……」

 ルインは目前に広がる状況に舌打ちを漏らすと、時の流れに恨み言を漏らす。

 だがしかし、仕方がないのだろう。

 このアルムハーンにはもう竜を狩るものはおらず、圧倒的な力に反抗をする勇気あるものはもういない。

 いつからだろうか、転生者討伐クエストが、最高難易度のクエストボードから剥がされなくなったのは。

 いつからだろうか、その状況に……仕方がないと諦めるようになっていたのは。

 だが、悲しみはすれど……怒りを覚えることはない。

 冒険者は自由を約束されたものたち。ならばこの地を捨てる選択も自由だ。

 この街の信念に背こうとも、彼らの意志を否定することはできない。

 だが。

「こんな時、アッガスのやつがいてくれればねぇ……」

 きっと彼がいたら何かが変わっていたのかもしれない。

 そんな感想を抱きながら、ルインは剣を取り。

 「行くよぉ!! 野郎ども!!」 

 地竜を迎撃するために……少ない仲間たちとともに走る。

 それは命を諦めた特攻。

 もう自分たちにできることは、できるだけ町から遠いところで可能な限り竜の気を引くことだけ。

 そんな自分たちの現状にギルドマスターは絶望をしながらも、雄たけびを上げてルインは竜へと牙をむく。

 が。

【……ここが限界っすね】

 竜はそう人語を話したかと思うと、自分たちが切り込むよりもはやくにその場にうずくまり、動かなくなる。

「えっ?」

 突然の停止。

そして敵意はないというように急に丸くなる竜の謎の行動に、ルインも、ほかの冒険者たちも馬を止めて茫然とする。

 助かったのか、それとも自分たちは夢でも見ているのか。

 そんな困惑を抱きながら、冒険者たちは引くこともできずに立ち尽くしていると。

「ふぅむ、まさか本当に正面から突撃してくるとはな、その勇気は認めるがなるほど、事態は深刻のようだ。まぁいい、そのほうがやりがいはある」

 そんな評価を言いながら……竜の背中からひょっこりと、ナイトが現れる。

「あんたは……」

「最高難易度を頼んだはずなんだがな、簡単すぎたぞギルドマスター」

 高らかに笑うナイト。

 その言葉に災厄と恐れられた竜は傅き、背中に生えた満月草を揺らすのであった。
                   ◇
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...