至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
32 / 64

アッガス合流

しおりを挟む
「俺が寝てる間にそんなことがあったとはなぁ……」

 ぼりぼりと少し伸びた顎髭をうっとうしそうに掻きながら、妖精の森、エルフの里の奥をアッガスさんはのそりのそりと先導をするように歩いていく。

 森を歩くその姿は熊そのもので、生い茂る木々を剣ではなく腕で引きちぎり進んでいく様は、つい二時間ほど前ま
でベッドの上に横たわっていた人間とは到底思えない。

「すみません……病み上がりだというのに……」 

「なに、ナイトにもらったエリクサーのおかげで、ぴんぴんしてやがるぜ! 今ならドラゴンの一匹二匹はぶった切れそうだ!」

 快活に笑うアッガスさん。

 その様子を見る限り、怪我は本当に全快しているようで、休むことなくバリバリと邪魔になる枝を引きちぎっていく。

「どうやら襲撃者は痕跡を隠すつもりもなかったみたいだね。無理やりに道を作った形跡が一直線に続いてる……」

 木々でできた厚い壁を貫くかのように作られた不自然な空洞。そして地面には巨大な車輪の跡。木々も、枝も、まるでその場所だけをごっそりと抜き取ったかのように作られたその不自然な通路は何を調べる必要もなく襲撃者のもとに続いていることを物語っている。

「どうだかな、一か月でこれだけ枝が伸びてんだ……三か月もあったらこんな小さな傷口なんて自然に閉じちまうだろうよ、それぐらいは見つからないって踏んでたのかもな」

 アッガスさんはそういうと、まだ若々しさの残る緑色の枝を掴み、引きちぎりながらそう呟き、さらに奥へと進んでいく。

【―――――!】

 森は、自らの体内にできた傷口を塞ごうと必死に枝を伸ばしているようだが、先を急ぐ私たちは無遠慮にその枝を引きちぎっては先へと進んでいる。

 森は身を揺らし、抗議するように木の実や葉を落としてくるが。

 イワンコフさんを迂回させただけ気を使ったと思ってほしいものだ。

「ほかの二人も、直してあげられたらよかったんですけれど」

「しゃーねーだろ、あのバカ二人はいまだにぴーこら花提灯垂らしてんだから。 無理に起こしてやってもよかっ
たが、そこのナイトがやめろっていうんだからな」

「当然だ。 ナイトは安眠を守るものであっても安眠を妨げるものであってはならない。それに、目が覚めないと
いうことは魂が体に定着をしていないということだ。無理に起こしても有益なことは何もない」

「薬を飲ませてもだめなのかい?」

「エリクサーは万能薬だが全能ではない。 治せるのは体の傷だけだ」

「そういう物なんですか……私たちから見たら、似たようなものなんですけれどもね」

「大違いだがよくあるミスでもある。往々にしてエリクサーなどの貴重な回復薬を大量に保有していると、気が付
くと肝心な蘇生アイテムがなくて困ることになる。貴重さ、レア度だけが重要なのではない。必要なものを必要な
だけ、その取捨選択が冒険では命運を分ける」

「ほう、騎士様の癖に随分と冒険者みたいなことを言うなアンタ」

「そうだな、俺の世界での騎士は、どちらかというと冒険者に近いだろう」

アッガスさんは関心示したようにほぅとうなずき、さらに枝を引きちぎると。

「あ、森を抜けるわ」

 案内されるがまま、私たちが到着をしたのは国境を越えた先にあるのは切り立った崖。

 そしてその眼下には草木のようにびっしりと大地に根付き、きらびやかに輝く水晶と、ごつごつした岩肌が支配する宝石の国。

 土と鉄……そして宝石、ドワーフの国である【ロットガルド】によくみられる水晶渓谷地帯である。

「この先、渓谷を降りた先の、鉱脈に採掘施設があって、そこにみんなつかまっているわ」
ミアちゃんは当時の様子を思い出し、少し体を震わせるが、私はそっと手をつないでその震えを収まらせる。

「鉱脈地帯には、ドワーフの反応はここからだと感じられない。ただ、ミアちゃんの言う通りナイトくんみたいなとんでもない魔力の嵐が谷の下から感じられるね。間違いない、この反応は転生者だろう。しかも、召喚されたあの転生者とは規模も質も全く違う何倍もの魔力嵐だ」

 局長の言葉に、ミアちゃんとアッガスさんは息をのむ。

「ナイトよぉ、俺を殺した転生者もなかなかでたらめな強さだったっが……本当に勝てんのか?」

 アッガスさんの戸惑うような、疑うような言葉に、もはや見慣れた得意げな笑みを浮かべ。

「無論だ。至高にして最強の騎士であるこの俺に敗北はない」

 ナイトさんは聞きなれた言葉で私たちに念を押す。

 自信満々。

 自らが敗北するイメージなど微塵もないといった様子のその言葉。

 だが、ミアちゃんもアッガスさんもその断言に不安そうに表情をゆがめて見つめあう。

「本当に、いい奴だし事実しか言ってないんだろうけど、君ってうさん臭いんだよねぇ、ナイトくん」

「なぜだ!?」

 局長の突っ込みに、ナイトさんは納得いかないといわんばかりに声を上げ、私はどんまいと心の中でナイトさんを
励ました。

【ふいー……回り道すると結構距離あるっすねえ。でも全力ダッシュで何とか合流できたっす】

 そんなやり取りをしていると、切り立った壁の下から声が響く。

 眼下を見下ろすと、迂回してきたイワンコフさんが崖を上ってきているのが見える。

 ドワーフの国境付近。
 
 ミアちゃん曰く、その生い茂る木々はドワーフ族からの侵攻を妨げる役目も担っているらしく。

 無駄な破壊は避けるようにとお願いされたため、イワンコフさんを迂回させたのだ。

 しかし、迂回しろとは言ったがまさか崖を這ってくるとは。

「竜というよりトカゲだな」

【ちょっ、竜生初めてのロッククライミングにしては頑張ったほうだと思うんですけど!ひどくないっすかご主人! こちとらあの狭い空間に千年も封印されてたんすよ! もっと労いの、労いの言葉をプリーズっす!】

「そ、そうですよね。 ごめんなさいイワンコフさん。見た目はあれとして、貴方のおかげでこの崖を迂回しないで降りられそうですよ! さすがは伝説のドラゴンさんです!」

【そうっすよそうなんすよ!! 流石マスターっす! さて、やる気も取り戻したところでみなさん俺っちに掴まってくださいっす】

 そういうとイワンコフさんは、ごつごつした自分の岩が伸びる背中でも、比較的捕まりやすそうな部分を差し出す
ように体を私たちに近づけ、私たちはその言葉に甘えて背中に掴まり崖を降りる。

 私たちを振り落とさないようにか、イワンコフさんはゆっくり慎重に崖を降りた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...