至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

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交渉決裂

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こくりと少女の喉が鳴り、注がれた琥珀色の酒は姿を消す。

その後、小さく息を漏らすと、静かな声で語り始めた。

「転生者になる奴らって、ほとんど世捨て人みたいなやつらばっかなのよ。私もそう。あんたに言っても分からないかもしれないけど、現実世界では苛められててね、本当の体は肌色の部分なんてないぐらいボロボロで、きっと
見たら幻滅するわ」

ミコトは自らの袖をまくり、見とれてしまうほど細く白い手首を、痛みを堪えるように優しくなでる。

「今でも痛むのか?」

「そうね。今はもうあるはずのない傷がつけられた時と同じように痛むわ。忘れたくても、こうして生まれ変わっ
ても……きっとあの記憶だけは、幻肢痛のように痛み続ける」

 生まれ変わっても、心の傷だけはどこまでもついてくる。

「だがそれでもお前は耐えぬいた」

「そんな大層なものじゃないわ。ゲームに私は救われたのよ」

「随分と飛躍したな」

「そうでもないのよ? 私だってあなたに憧れた人間の一人なんだもの」

「ほう?」

「出会いは偶然。たまたまネットの掲示板を見てた時にあなたを見つけた。誹謗中傷汚い言葉を何度も何度も書き連ねられても、貴方は自分の理想の騎士像を決して曲げなかった。それどころか最終的にはみんなを見返して、誰からも認められる存在になった……そんな姿に憧れて私はこのゲームを始めたの」

「それは厳密には俺ではないがな」

「そうね。貴方は掲示板の書き込みそのものではない。あくまでそれに最も近い存在。でも存在しないものなのだから、その体現であるあなたにお礼を言うのはおかしなことではないはずでしょう? だからお礼を言わせて、ありがとうって」

 ミコトはそういうと、注がれた蒸留酒を今度は一口含み、悪戯っぽくナイトさんに笑いかける。

 ナイト=サンは優しく微笑むと、つられるように蒸留酒を口に運んだ。

「それでお前は救われたのか?」

「ええもうばっちり。ゲームの中の人々はとっても優しかったわ。もちろんNPCもだけど、ゲームをプレイしてい
る人たちも」

「プレイヤーの民度はそこまで高くなかったと記録にあるが」

「その点に関しては運が良かったのね……あと私には才能もあった。そうやってどんどんのめりこんでいるうち
に、気が付いたらワールドチャンピオンの一人になってたんだもの」

「なるほどな、道理で名前に聞き覚えがあるはずだ」

 ナイト=サンはその名前に心当たりがある様に呟くと、少女は今までの妖艶な笑みとは異なり、子供のような満面の笑みをナイト=サンに向ける。

「息吹 ミコト。それが私のプレイヤーネーム。黒魔導士、白魔導士、そして召喚師三つの職業内プレイヤーランキングの1位にいるプレイヤーよ。もっとも、第三期~九期までの間の話だけどね」

 にんまりと笑う姿は何処か蠱惑的。

 少女の笑顔の前では、酒に酔うはずのない理想でさえもその姿が華やいで見える。

「お前のランキングポイントは、結局最終日まで更新されることはなかったと、公式記録には残されているな」

「そう、それはうれしいわ。でも、もうそんなのには興味ないわ。私はもうこの世界の人間なんだから」

 ナイト=サンが騎士の頂点であるならば、彼女は全ての魔法使いの頂点に立つ存在。

 だというのに彼女はそれを誇るでも、自慢するでもなくどうでもいいと切り捨てた。

「やはりお前は聡明だ」

「そんなことない。ほかの人より少しだけ冷静だっただけ」

「お前が召喚されたのは?」

「魔王が復活した直後だった。きっとこれは運命なんだと思ったわ。私はあなたに救われた。だったら今度は、私が誰かを救う番なんだって」

「そうか……十年前、魔王を倒した転生者とは」

  ナイトさんの言葉に「ええ」とミコトはその長い髪を耳にかけなおしてそう返答をし、酒の入った別のボトルを持ち上げて中身を確認すると、グラスに注いで話を続ける。

「魔王を倒してほしいと頼まれたときも二つ返事で了承したわ、今まで仮想だった私の力は全て現実のものになって、その力でみんなが幸せになった。ありがとうって言葉なんて面と向かって言われたのは初めてだし、私がみんなを愛したら、みんなも私を愛してくれた。死んだ人間を蘇生すれば神様みたいに崇められるし、そこら辺の雑魚モンスターを駆逐したらみんな口々に私を褒めてくれた。昔は口汚く罵られ続けてたのにこんな簡単なことをするだけでみんな褒めてくれるんだもの。この世界が好きになって当然でしょう?」

「だが、それならばなぜ国崩しを? なぜ、魔王を倒したのちに国を一つ滅ぼした?」

「国崩しはあくまで名前……本当に滅ぼすつもりはないわ。それに、十年前に国を滅ぼしたのは私じゃない、一緒
に魔王を討伐した仲間たちよ。私はもう二度とあんなことを繰り返さないために、国崩しを行うの」

「どういうことだ?」

「ねえ貴方、転生者ってどういう風に生まれるか知ってるかしら?」

「考えたこともないな」

「そうでしょうね……普通転生と言えば、現実世界の人間がこちら側に来ることを指すけど、私たちのはそんな高尚なものじゃない。ゲームをプレイしている私たちの人格、そしてゲームキャラクターの複製をこの世界に召喚するの。誰も行方不明なんかになってないし、現実世界の私はアウグスティヌスを失って、きっとみじめな生活を続けているわ」

「複製……」

「魔王を倒した後、私たちはそのことを知った。私たちは行方不明になったわけじゃなくてただのコピーで、現実世界に帰る方法はないんだって。でも私はそれを聞いて嬉しかった。だって、もう帰らなくていいんだもの、不幸は現実のもう一人が全部背負ってくれて、私は自分の新しい人生を迎えていいって言われたんだもの。これ以上素晴らしいことってないじゃない? 何の気兼ねなく私は異世界転生できたの。だけど、ほかのメンバーは違ったみたい」

「絶望した?」

「ええ、私を除いた全員がおかしくなったわ。彼らにとっては、期間限定の勇者ごっこのつもりだったみたい」

「そして、国が一つ消えた」

「絶望からの八つ当たりよあんなの。さんざん正義の味方ぶってたのに、気が付けば守ってきたものを仲間たちは皆殺しにしてた。私は守れなかったの」

  後悔するようにミコトはそういい、こぶしを握り締める。

「その仲間たちはどうなった?」

「殺したわ、一人一人」

 何でもないという様に少女は語るが、その手は小刻みに震えている。

「だけど知っての通り、転生者は国が滅んでも次々とこの世界に召喚され続けて、この世界に絶望を与えている。結局みんなの希望になるはずが、私が絶望になっていた」

「それは、お前のせいではないだろう」

「いいえ、私の罪はみんなを守ってあげられなかったこと。だから今度は完璧に守って見せる。転生者から、この世界を壊そうとする全てのやつらから。私じゃ無理だった、でも私を救った、多くの人たちの理想となった貴方な
らみんなの希望になれるはず」

「ではお前の言う国崩しとは」

「絶望は絶望らしく希望に滅ぼされるわ。それが私の償いよ」

 さみしそうに、だけどどこか誇らしげにミコトは嗤う。

 彼女はこの世界を救うために、すべてを敵に回すことに決めた。

 自分の世界の人間からも、そして守りたかったこの世界の人間からも。

「自分自身が魔王となるつもりか」

「すべてを支配し、この世界から転生者を殲滅するわ。国を滅ぼし、転生者を滅ぼし……そしてあなたに滅ぼされ
る」

「壊した後はどうする」

「あとはあなたが引き継ぐの。政治、倫理、経済、宗教、技術……そのすべてを貴方は持つ理想の騎士。あなたが導き、あなたが教え、あなたが救い、あなたが諫める……そしてあなたという守護者に守られながら、この世界は永遠の発展を約束される。その世界を見れないのは残念だけど。それでも私は胸を張って誰かの役にたったって、言えると思うの」

 満足げに語るミコト。

 それはこの世界を慈しむ母のよう。

 だが。

「なるほど、つまりお前はこの世界の人間を家畜にするつもりなんだな?」

 だからこそナイト=サンは、絞り出すようにミコトを否定した。

「どういうことよ? そんな風に聞こえた?」

 ミコトはその言葉に眉を顰め声を荒げる。

「確かにお前たちの世界に比べればこの世界は遅れた文明なのだろう。先を知る者が手助けをしようと考えるのも不思議な思考ではない」

「それがいけないことだって言いたいの? 私たちが止められる戦争がある。私たち変えることで助けられる命が、流さなくて済む涙がある。なくすことができる悲劇がある。転生者ってそのためにいるんでしょう?」

  しかし。

「それは驕りだ、息吹ミコト。正しく変えることなどできるはずがない……どこまで行っても俺たちは、食い荒らすことしかできない外来種でしかないのだから」

 ナイト=サンは刃をミコトへと突きつける。

 引き抜かれた冠位剣グランド……その切っ先は黄金に光り輝き、暴風に近い剣気と殺気がミコトに襲い掛かりその長い髪を大きく揺らすが。

「何が気に食わないのかが、私にはさっぱりわからないんだけど」

 ミコトはそんな殺気程度には臆することもなく、そう首を傾げて問いかける。

 だが、ナイトさんはため息を漏らし。

「それがわからないのであれば、お前はソニックムーブと何も変わらない」

 その言葉は彼女の逆鱗に触れる。

「一緒に……するなあぁ!」

「!?」

  瞬間、ミコトの足元より大杖が召喚され。

「吹き飛べ!」

 ナイト=サンの
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