至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

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悪逆到来

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「ぐうぅおっ!?」

 その速度は、神風を保有したソニック・ムーブを……そして召喚の間で戦った槍使いの一撃を凌駕する。

 重くすばやい横なぎ。

 その一撃にナイト=サンは反応することができず、小手で直撃は防いだものの店の外まで弾き飛ばされる。

 地面を転がりつつも、ナイトさんは地面に手を突き立ち上がる。

「なるほど、接近戦でもこれだけの体術……これがワールドチャンピオンか」

 称賛をしつつも、殴打された顔面には傷一つ残っておらず。

 砂煙の中から怒りをあらわにしたミコトが現れる。

 その背後には幾重にも展開された魔法陣。指先一つでその魔法すべてがナイト=サンを射抜く準備は出来ている
と告げていた。

「撤回しなさい」

 殺気を込めるミコト。

「嫌だな」

 しかしナイトさんはそれを拒絶し。

「痛いわよ」

 その一言と同時に、詠唱なしに雷の矢が無数にナイト=サンへと走る。

 その嵐は、ガトリングガンの掃射に近く。

 その一つ一つの威力は、本物の雷をはるかにしのぐ魔法の矢。

 だが。

「ふん!」

 ナイト=サンはそのすべてを大楯にて受け止め。

「っ!」

「返すぞ!」

 そのすべてをはじき返す。

「夢は覚め、虚構は霧散する──魔力霧散──!」 

 だがはじき返された雷の矢は、放った主へと到着するよりも早く、まるで幻想のように霧散し虚空へと消える。

「対抗呪文……詠唱の速度が化け物じみている。なるほど、最強の魔法使いは伊達ではないということか」

「そっくりそのままお返しするわ。第六番魔法の一斉掃射を大楯の一つではじき返すなんて。これ、防具破壊戦術の十八番だったんだけど」

 驚くように語るミコトであるが、怒りの表情はいまだ消えていない。

「期待に応えられたようでなによりだ」

「ええ、期待以上。だからこそ不思議でしょうがないわ。あなたならこの世界を正しく導けるのに、何が不満なの?」

 再度魔法陣を展開し、そう問いかけるミコト。

 しかしながらナイト=サンは大楯を構えたまま笑みをこぼし。

「簡単だ、庇護などこの世界に必要ないからさ」

  ナイトさんはそう言い放つ。

「必要ない? 転生者がどれだけこの世界に脅威になっているかわかってないのかしら?」

「いいや十分に理解したさ。そしてだからこそあえてもう一度言おう。この世界に庇護など必要はない、転生者に戦いを挑むのは俺たちではない、この世界であるべきだ」

「転生者に、戦いを挑ませるって言うの? 無理よ、勝てるわけない」

「いいや勝てる、この世界はそんなにやわではない」

 ナイト=サンの言葉にミコトは一拍置き。

「……だったら証明して見せなさい……」

  第三番代魔法クレイドルを解き、皆の目を覚まさせる。

「いったい何をするつもりだ?」

 いぶかし気に問いかけるナイト=サンの言葉に、ミコトは口元を緩め。

「見せてあげるわ、私のゴッズスキル。もしこれを退けられれば、あなたの妄言を信じてあげる」

  星きらめき月輝く空は、ミコトは杖を掲げると人々が目を覚ますよりも早く曇天の雲に覆われる。


悪逆レイドボス到来】


 天空に現れるのは巨大な魔法陣。

 空を、そして空間をいびつに捻じ曲げるかのようにできたその召喚陣に、天空は驚くかのように顔色を黒く染め上げ、同時に雷をかき鳴らして威嚇をするようにその魔法陣に対して紫電を放つ。

 静寂に包まれた町に突如として鳴り響く轟音……雨も風もない中で、響き渡る雷の音に、魔法が解けた町の住人
はその様子を伺いに窓から顔をのぞかせる。

 ただの雷ならば気にも留めなかったであろうことであるが。

 空から降り注ぐ邪悪にして陰鬱な空気と春だというのに真冬の山卸かのような冷気は、魔王の到来の時と同じ怖
気と、潜在的な恐怖を人々に思い起こし、そんな悪寒におびき寄せられるかのように人々はその光景を見てしまう。

 魔王よりも禍々しく、転生者でさえも単体では倒すことが不可能な究極の存在。

「まさか、あの魔法陣は」

  プレイヤーたちの苦い記録が、ナイトさんの頭の中に呼び起される。

 ゲームの中であれば、笑い話で済んだ魔物。

 しかしそれが、現実の世界に今ここに限界する。

「レイドボス。複数のプレイヤーでフルボッコにしても、ワントライじゃ勝つことは出来ない化け物! その召喚が私のゴッズスキル。正直、MP半分くらい持ってかれて一日にそう何度も連発できるもんじゃないんだけど! HPもMPも全回復させてくれるエリクサーを量産できれば、エリクサーがぶ飲みしてレイドボスぶつけて圧勝って寸法よ! どんな転生者だろうが、レイドボスに一つの命で勝てるわけがないんだから。だからこの町がこいつを倒すことができたら、あなたの言葉を信じてあげる」

「なるほどレイドボスか。確かにこれなら転生者だろうが国だろうが関係なく蹂躙できる」

 突然の雷雨に、様子を見に来た町の人々に怖気が走る。

 まだ何も表れていないというのに、よからぬものの到来に恐怖した。

「来なさい」

  ミコトは指を鳴らし、魔法陣から山の如き体躯を持つオオカミのような形をした化け物を、産み落とすように空から放ち……冒険者都市アルムハーンの外壁のそばに落とす。

 それは、かつての古の邪竜をも超える禍々しさを誇る黒毛の狼。

「キング……フェンリル」

 第五期につくられ、何度も復刻をした人気のレイドボスキングフェンリル。

 体力、力、そして相手を恐怖状態にし一時行動を封じる状態異常を持つという、レイドボスとしてはそこそこの手ごたえがあるデザインにより、長くプレイヤーに愛された黒毛の狼であり……ドロップする素材も経験値もおいしいために人々に最も愛されたイベントボスである。

  その知名度は、一度も戦ったことすらないナイト=サンですら懐かしさを覚えるほどであり、時間がかかり面倒と忌避されやすいレイドバトルがこのゲームでの一定の人気を誇っていた理由の一つでもある。

 だがそれはあくまで何度もリトライでき、必ず最後には勝てるように設定をされた魔物である場合だ。

 少なくともワールドチャンピオンであろうが、理想の騎士であろうが、レイドボスを単体で撃破できる人間など存在しない。

 単体で撃破をされないように細心の注意を払って作られた凶悪なボス。

 それこそがレイドボスであり、そんな悪夢をこの世界に召喚する能力こそ、息吹ミコトが有するゴッズスキル
「悪逆到来」なのである。

【おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!】

 雷の音すらもかき消すような名状しがたきいびつな遠吠えにより、人々は狂乱。するかのように息をのむ。

 叫び声をあげ逃げ出せればまだ心が楽であっただろう。

 しかし、その声を聴いた人間の大半は、冒険者ギルドのオーナー、ルインを含めて皆が皆、絶望にその場に力なく倒れこむ。

「あ……あああぁ……あへ……あへへ」

 気絶ではない、意識のしっかりと残ったまま……しかしすべての希望という希望を抜き取られたかのように、石造りの道に、家の床に……みずからの頬をこすりつけ、けたけたと笑い始める。

 こんな化け物相手に、勝利をしようとしていた自分がおかしくて。

「ミコト」

 町はこれだけでもはや半壊状態。

「私は三日後、こいつでここを急襲するわ。 それが終わり次第予定通り国崩しを実行する。止められればあんた
の勝ち。あんたの言う通りにする。だけど私が勝ったら……私に協力をしてもらう」

 圧倒的な存在、レイドボスという規格外の存在の登場。

 一見理不尽な取引に見えなくはないが、しかしそこには騎士の太陽のゴッズスキルはこれをはるかに凌駕するものであるとミコトは暗に伝えていた。

 見ただけで狂ってしまうほど脆弱な存在が、どうやったら勝てるのか……。

 下手に町の人を怯えさせるぐらいなら、今ここで間違いを認めなさい。

 そうミコトはナイト=サンに対して言おうかと口を開きかけるが。

「……いいだろう」

 ここにきてもなお……ナイト=サンの瞳には光は消えておらず。

 必ず勝てると確信をしていた。

「っせいぜい足掻くといいわ!」

 人々に絶望を与えて楽しんでいるとも見て取れる光景に、ミコトは苛立ちながらもナイト=サンに背を向けて去っていく。

  町の人のことを考えたのか、召喚されたフェンリルは一度遠吠えを終え大気をいたずらにふるわせると……まるで幻影であったかのようにアルムハーンの空にうっすらと消えていく。

  キングフェンリルがこの町に現れたのは時間にしてほんの数秒。
しかしその数秒で町は落とされた。

 この町の人間が、レイドボスであるキングフェンリルを打倒することなど到底不可能だ。

 そう考え、一人自らのすむアジトへと苛立ちながら歩くミコトであったが。

 憤りの心の奥の底深くでは……町の人々がキングフェンリルを打倒する姿を、理想として思い描いてしまったのであった。                     
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