至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

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三日前

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 時をさかのぼること三日前……。

「き、キングフェンリルを毒殺する!?」

 ナイト=サンがイリーラスの花を取り出して提案をしたのは、そんな突拍子もない答えであり、サクヤは声を上
げる。

「ど、毒殺って……効くの?」

 果たしてあの巨大な化け物に毒が効くのか……そんな当然のような質問をサクヤは投げかけるが、ナイト=サン
は椅子に腰を掛けて片手をあげ、落ち着けと無言で語る。

 その様子に、サクヤに続くようにざわついていた冒険者ギルドはしんと静まり返る。

 よほど大事な話をするのだろう。 

  誰もが緊張した表情で口を閉じ、それに満足そうにうなずくとナイト=サンは。

「基本、キングフェンリルには毒は効かないな……唯一それだけには耐性を持っている」


 そういった。

「だめじゃないですか!?」

 全員が詰め寄る様にナイト=サンへと声を上げるが。

「だが問題はない。それはあくまで俺たちの世界の毒の話だ」

 ナイト=サンはそう呟く。

「……どういう、意味ですか?」

「答えはこの花だ」

「その花は……確かエルフの里に咲いていた華ですよね」

「エルフの里に咲いていた白い花……名前は分からないが、この花の持つ毒は魔物に有害であるらしい」

「でも、ただの魔物除けの花じゃないですか」

「ただの魔物除けではない……言ったはずだ。最高位の魔物であり、全属性の魔法。状態異常に絶対に近い耐性を
持つメタルドラゴンが……近寄れないと豪語した花だぞ?」

「……あっ」

 その言葉に私は声を漏らす。

 イワンコフさんは匂いが苦手だと騒いではいたが……私たちはまったく匂いを感じなかった。

 あの時はドラゴンが私たちよりも匂いに敏感だからだとも思っていたが。

「おそらく……この花の危険性を匂いという形で察知したのだろうな。先も言った通り、魔物の格、状態異常耐性
という意味では、キングフェンリルはメタルドラゴンよりも劣る」

「だけどよ、それはあくまで毒で殺しきれればの話だろう? その猛毒でも奴を殺しきれないかもしれないじゃな
いか」

「いいや、問題はない。 毒というのはスリップダメージ……その魔物のHPを割合で奪っていく。だからこそ、
毒にだけ耐性があるのだが。毒が効く以上は、体力がいくらあっても関係はない。普通の人間と同じ速度で死に至
る」

 その言葉に、周りの冒険者さんたちが息をのむ音が聞こえる。

 だがそれも無理のない話だ。

 淡々と、だれもが恐怖した化け物の殺害方法を語るナイトさんの言葉には迷いがない。

  まるで狩人がウサギの狩り方を話すように……さも当然のことのように私たちに、転生者でも敵わないよう化け
物の殺し方を伝授する。

  自分達にも、当然倒せるのだと思ってしまうほど。

「……ほかに質問は?」

 その言葉に、しばし反論をする物はいなかったが。

「その毒はどうやって作り出すんだい?」

 ルインさんの言葉に、私たちはまたも現実に引き戻される。

 確かに、基本的な魔物用の毒の精製くらいなら冒険者でもできるだろうが、見たこともない花で毒を……しかも
三日で作り出せとなると無理な話である。

 しかし。

「その花は、イリ―ラスの花という花というのよ。あの森で暮らす私たちを魔物から守り、厄災の竜を鎮める薬と
しても使ってきたの……もちろん、それから薬も毒も作り出せるわ。あの森で暮らしていた私たちなら」

 不意に冒険者ギルドの扉が開き、一人の少女が顔をのぞかせる。

「ミアちゃん?」

「ごきげんよう! ナイトさま、局長さん、サクヤお姉ちゃん、アッガス叔父様!」

 昨日の戦いの疲労はどこに行ったのか? 弱っていたとはいえ、転生者を倒したという偉業をなした翌日だとい
うにも関わらず、ミアは行儀よくギルドの人間に挨拶をすると、すぐさまナイト=サンの元まで駆け寄り飛びつ
く。

  その様子からは、昨日の疲労などは微塵も感じられない。

「おいおい嬢ちゃん……あんだけの大立ち回りしておいて、体はもう大丈夫なのかよ?」

「ええ、もうすっかり元気よ!」

 細い腕で力こぶを作るような動作をするミア。 当然のこと力こぶなどできるはずもないが、そのしぐさだけで
彼女が十分すぎるほど健康であることは容易に理解ができる。

「若いっていいねえ……」

 そんな少女に、今年28となる局長アーリーはうらやましそうなため息を漏らした。

「なに老け込んでるんですよ局長」

「いやはや……何分デスクワークがかさむと体が傷むのが早くてねえ」

「じゃあ、帰ったらナイトさんに軽く死ぬほどつらい組手でもしてもらいましょうね局長」

「任せろマスター! 泣いたり笑ったりできなくしてやろう!」

「だからお願いやめて!?」

「冗談を言う元気が出てきたのはいいことだけどよ、問題はまだ残ってる。毒と言ってもあの巨体だ、それ相応の
量の毒が必要になるだろう。お嬢ちゃんだけじゃいくら何でも間に合わないんじゃないか?……毒を矢じりにつけ
るだけだとしても、相当の量の毒が必要になるぞ?」

「それは大丈夫です……今回はみんなが一緒ですから!」

 そういうと、ミアちゃんはドアの方へ視線を送ると……ぞろぞろと教会で治療を受けていたはずのエルフ族の
人々が冒険者ギルドへと入ってきた。

「う……あっう……」

 石化の影響か、まだ声はうまく出せないものの、その瞳は死んではおらず、怒りとそして戦う意思に満ち溢れている。

「……みんなが、助けてもらった恩を返したいって言ってくれたの。みんな薬づくりのスペシャリストよ……もち
ろん、毒の扱いにだって長けてるわ」

 その数およそ五百人。

 三日かけて、弓矢一万本に仕込む毒を作り上げるには……十分すぎるほどの人数であった。

「いける、いけるぞ! いけるぞみんな!」

 その時、ルインさんは初めて声を上げて吠え。

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」

 それに続くように、雄たけびと共に割れんばかりの歓声がアルムハーンの町に響き渡る。
                     ◇
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