至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

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王の死

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【ぐらああああああああああ!!】

 大きさはキングフェンリルの四分の一ほど。しかしながら足もとに食らいついた岩のような龍は、けたたましい咆哮を挙げてキングフェンリルの前足へと絡みつき、その膝に食らいつく。

 踏みつぶせてしまいそうなほど小さく、獣の王を傷つけることができるほどの力も感じない一匹の龍。

 しかし、その力は凄まじく、キングフェンリルの巨体をもってしても左前足に絡みついた龍を振りほどくことが
できない。

 踏みつぶし、爪を立て、引きちぎろうと獣の王は龍をその短時間で考えうるすべての方法を用いて振りほどこう
とするが、命を奪うは愚か、その外皮に傷一つ付けることすらもかなわず、龍は足に張り付いたまま離れない。

 いいやそれどころか、あろうことか絡みつきかみついた状態で、体をひねってフェンリルの足をねじ切ろうと試
みたのだ。

「!?!!」

 走る激痛にキングフェンリルは遠吠えとも悲鳴にもならない苦悶のうなり声をあげ、その場に倒れる。

 ズシリと地響きが起き、あたり一面の大地が裂ける。

 だが、空から迫り降り注ぐ弓矢には関係のない話であり。

  フェンリルの体に次々に弓矢が突き刺さる。

 薄皮を裂き、チクリチクリと全身にかゆみに近い痛みが走る。

 弱点部位である腹部に刺さったからだろう、勢いがついてフェンリルへと届いた矢の中には、フェンリルを出血
させることに成功した物もあった。

 ジワリと一滴の血が、フェンリルの腹部から滲み出し、同時に足に足に食らいついていた龍は逃げ出すようにフ
ェンリルのもとから離れ、逃げていく。

 弱きものの最後の抵抗は成功をした。

 キングフェンリルにもその矢は届いた。

 しかし……何が起こったわけでもない。

 夢想した直感は杞憂だったのか……そうキングフェンリルは考えを改めるほど、放たれた弓矢には何の力もな
く、こぼれた血液はダメージにもならないほどのかすり傷。

 足の痛みはなく、フェンリルは起き上がり身震いをすると、突き刺さった矢は簡単に落ちた。

 ……チクリとした痛みは腹部にあるが、しかしおおよそ傷を負ったというには大げさすぎるほど、取るに足らな
い傷である。

  あきれるように、キングフェンリルは身震いをし。 

 その後すぐに、このような攻撃に惑わされた自分へ怒りをあらわにするように牙をむき出しにする。

  しかし、ひるむことなく第二波が、フェンリルの頭上に降り注ぐ。

 もはやキングフェンリルは回避も防ごうともせずに、その弓矢を体に受け入れる。

 自らの死は見えない。

 キングフェンリルはそう確信を得ると、再度命令通りに城壁へと牙をむき一歩踏み出す。

 いや、踏み出そうとした。

「?」

 力が入らない。

 それどころか、踏み出した前足がぐにゃりと曲がり、その場に再度倒れ伏す。

「??????」

 気が付けば呼吸は乱れ、感じたことのない不快感が全身を覆う。

「がふ……」

 うちにたまる違和感を吐き出すと、獣の王の口からこぼれ出たのは黒い塊。

 それが自らの血であることににおいで気づいたキングフェンリルは。

 みずからが死にかけていることにようやくここで気が付いた。

 死の未来が見えなかったのではない……すでにその未来は訪れていたのだ。

 ───逃げなければ……ここから早く逃げなければ───

 悲鳴に近いうなり声があたりに響き、犬かきをするように前足をばたつかせて獣の王は逃走を図る。

 しかし、体は動かず無情にも矢の第三波がフェンリルの前身に降り注ぐ。

 今度は、ぐらりと世界が揺れ、正気に戻る。

 気が付けば獣の王は自らが横倒しになっていることにも気が付かずに、前足を必死に動かし逃走を図っていた。

 鼻から、口から、黒い塊は依然出続ける。

 視界はやがて黒く染まり始め……獣の王はここにきてようやくその正体を知るが。

 もはやその時には何もかもが手遅れ……神々の終末を迎えることなく……キングフェンリルは最後を迎えたので
あった。
                      ◇
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