至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

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二人の頂点の激突

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  冠位剣グランドを輝かせ、ナイト=サンは初めて殺気をミコトにたたきつける。

「なんだ……結局あんた頼みじゃない」

「そうかもな、だがその事実を知るものはいない。知る必要もない誰かに助けられていたのだとしても、彼らに必
要なのは自分たちの力で立ち向かい、勝利できたという事実だ」

 超常的なものに頼るのではない、あくまで自分の足で立ち上がるために。

 ナイト=サンは陰ながら力を振るう。

「やっぱり、そんなのまやかしでしかないわ。 下手な希望を持たせて現実を知らされることの絶望がどれほど深いか……理想でしかないあなたにわかるわけがない! 彼らには庇護と時間が必要なの!」

 超常的な力をもって、自分たちの足で立ち上がれるようになるまで見守るために。

 ミコトは人々の前でその力を振るう。

 だが。

「そしてまた自分たちの抱えきれぬ問題が起こったときは~余所者~を頼るのか? 誰かがまた守ってくれる……
救ってくれる……そう教えて同じことを繰り返させるのか! 先代勇者のように!」

「わかった口をきくな!」

 打ち出される魔弾は、詠唱なしに放たれる光の矢。

 低レベルではあるものの、数秒間のスタンを付与するその光の矢は、不意打ちとしては最適な魔法である。
 しかしながら、そのような小手先の技がナイト=サンに通用するはずがない。

「ふっ!」

 盾により振るわれた一振り、それにより光の矢は防がれるのではなく、ミコトへと弾き返される。

  放たれたよりも数倍早い速度で返された光の矢。

 回避のスキルを持たず、肉弾戦を得意としない魔法使いにとって回避は厳しく、スタンを受ければおそらく勝負
は一瞬にしてついてしまう。

 故に、不意打ちに対してナイト=サンの切り替えしはお手本のような手際ではあったが。

 しかし。

「かかったわね!」

 お手本のような最適解であるがゆえに、世界トップに君臨する人間からしてみれば、至極読みやすい一手であったことは間違いない。

「なるほど……しくったな」

 ナイト=サンは初めて、己の判断ミスを呪うような言葉を吐く。

 打ち返した先に、魔法少女の姿はなく、気が付けば盾を振るい無防備となった体めがけて、槍がごとき鋭さを持
った一撃が放たれる。

「殺った!」

  勝利を確信するかのような声。

「いいや! 甘い!」

 しかし、ナイト=サンは一喝すると、刃を振るいその杖を弾き軌道を逸らす。

 喉笛を貫くように放たれた点の軌跡は、刃によりわずかにそれ、ナイト=サンのほほをかすめ取り赤いものを空
中に飛散させる。

 杖とは名ばかり。

 その鋭さは槍にも引けを取らず。

 これまたウイザードとは名ばかり、一撃を外したと見るや飛んで間合いを取るミコトの姿は虎や獅子といった猛
獣の類に近しい。

「ふむ、魔法使いに対しての基本対策は……遠距離戦では騎士には分が悪いため、魔法使いが苦手とする近接戦に
持ち込むのがセオリーだが……どうやら対策は完璧のようだな」

 ナイト=サンの言葉に、ミコトは当然と笑うと、槍を構えるように身の丈ほどもある大きな杖を姿勢を低くして
構える。

 虎が獲物に飛び掛かるような姿勢。

 その構えは紛れもなく、召喚の間でナイト=サンを急襲した槍使いの構えそのままであった。

「……たかだか魔法使いとしてトップに立ったぐらいじゃ、ワールドチャンピオンなんかになれるわけないでしょ
う? 槍操術と魔術双方を極めた、その名も流派・魔槍少女!!蜻蛉に槍の技を仕込んだのも、この私……つまり!」

「!?」

 会話のさなか、ミコトの姿をナイト=サンは見失い。

「あいつと私じゃ……格が違う」

 背後から響くミコトの声と同時に、ナイト=サンの頸椎へと、魔法により鋭く鍛えられた槍の一刺しが走る。

「確かにそうだな」

 振るわれる冠位剣グランドの一閃。

 視界から完全に外れた背後からの一撃であったが、ナイト=サンは的確に刃を背後に振るい、容易にその杖を薙
ぎ払う。

「ちっ……この程度じゃ流石にとらせてはくれないわね」

「やっていることは単純だからな。会話の最中に背後に転移魔法陣を展開……そのまま急所を貫こうとしただけ
だ。手際は見事だったが。視覚など俺にとっては飾りにすぎない。匂い、音、そして気配……どれか一つでもわか
れば見えているのと同じだ」

 懇切丁寧に説明する余裕を見せるナイト=サン。 

「本当、化け物よね……だけど、トリックには弱いみたいね?」

 にやりと笑うミコトは、一瞬視線を剣に向ける。

「これは……接射のスクロール!?」

 それにつられ、ナイト=サンが視線を移すと、剣にはスクロールが張り付けられていた。

 ミコトの一撃は、ナイト=サンを殺害するために放たれたのではなく、このスクロールを仕込むための不意打ち
だったのだ。

「食らいなさい! 第十番代魔法!」

 舌打ちを漏らしながら、ナイト=サンは対抗呪文を唱えようとするが、魔法の頂点に立つ人間の詠唱速度にかな
うはずもなく、その魔法を正面から受け入れる。

【核撃!】

 ゲーム内魔法のトップに君臨する第十番代魔法。

彼女が放ったのはそんな十番代魔法の中で唯一の単体攻撃魔法。

 ゲーム内トップに君臨するその魔法は、防御力無視の炎熱系最強の単体魔法であり、単体攻撃しかできない代わ
りに、与える魔法ダメージではこの魔法を超えるものはない、PVPにて最もプレイヤーを殺害した魔法として名前
があげられる対人戦用魔法。

 そして接射のスクロールとは、対応した魔法を術者からではなく、スクロールが張り付けられた場所から放つこ
とができるようになるマジックアイテムであり。

 ナイト=サンはゼロ距離で爆破を受け入れる。

 初手不意打ちで放たれる最大の魔法。

理想の騎士に対し、ミコトには一片の油断はない。

一度世界の頂点にたった彼女であるが、完全にナイト=サンを格上として戦っている。

 だからこそ。

「知ってるわよ、この程度じゃ死なないんでしょ?」

  ミコトはそう人であればとうてい生きられないほどの炎に向かって声をかける。

「炎熱魔法対策は万全だ。このゲームをやっている人間で核撃をPVPで警戒しない人間はいないだろう?」

「ええ、知ってたわ!」

 ナイト=サンがこの一撃を容易に耐えうることは予想済みであり。

 爆煙の中でミコトは次なる魔法の詠唱を終えていた。

「!?」

「最高の防御力を誇る騎士、ナイトさんの使う戦術は、魔法耐性物理耐性双方に優れているのは知っているわ。だ
けどね」

 ナイト=サンの直感が、その攻撃が自らへの有効打になると告げ、急ぎ冠位剣グランドを振り被るが。

「考えることはみんな同じね……私も、あんたを殺すために同じことを考えていたわ」

 その刃を振り下ろすよりも早く、三つの魔法がナイト=サンの体へと絡みつく。

【悪魔の呪い】

英国首都の毒霧ロンドンスモッグ

【鬼火】

  あたり一面に広がる呪い。

 攻撃魔法ではなく、ナイト=サンにかけられたのは状態異常魔法。

 呪い 毒 火傷の状態異常を付与するだけの、一つ一つはこの世界の人間にも扱えるような低級の魔法。

「この程度……」

「ええ、一つ一つはあなたの言う通り対策だなんて見向きもされないこの程度のものばかり! けどね……スリップダメージは割合ダメージ。三つも重なればえぐいダメージに跳ね上がるわよ!」

「ぐぅっ!?」

 ナイト=サンの体に感じたことのない嫌悪感と痛み、そして息苦しさが同時に襲い掛かる。 理想の騎士であるナイト=サンにとって、状態異常は知識では有しているが、その身で感じたことはない。

 初めて感じる感覚に、ナイト=サンは一度苦悶の表情を浮かべるが。

 しかしそれでも、対策はいくらでも有している。

「だが、状態異常の解除は騎士の十八番! すぐに解除をすればいいだけのこと!」

「させるか!」

 詠唱魔法を唱えようとするナイト=サンのもとに、ミコトはまたも転移と同時に踏み込み喉元に一撃を放つ。

「騎士には、同じ攻撃は何度も通用しない」

 ナイト=サンはそう叫び、敵の攻撃を分析する。

 急所を狙った不意打ちに近い一突き……しかしそれは陽動であり、その手には隠されるように握られた魔法の使
用を一定時間止める【沈黙】の魔法の紋章が描かれたスクロール。

 剣で槍を止めれば、魔法が使えなくなりスリップダメージを食い止める方法を失うという寸法である。

 だが、その種が割れてしまえば対処法も簡単だ。

 はじけなければ、回避をすればいいだけ。

 一撃は点であり、踏み込みは転送によりあり得ぬ速度ではあるが、そこから槍が放たれる一瞬は、避けられぬほ
どではない。

 ゆえに、ナイト=サンはその一撃を今度は体をひねって回避をし、冠位剣グランドをその体に叩きつけようとす
るが。

「やっぱり、引っかかったわね」

 くしゃりとスクロールを握りつぶし、ミコトは笑い魔法を発動する。


【それはもはや手遅れな末期】

「ーーー‼︎?」
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