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まだよ、まだ終わってない
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騎士は詠唱される言葉に戦慄する……。
ゲームシステムのデータより与えられた知識は、その魔法はいたって特殊であり、それ単体では脅威になりえない魔法だと語る。
使用頻度も低く【PVP】では決して見ることのできない魔法。
種類は殺傷能力はないに等しい補助系魔法。
しかし、至高の騎士としての直感が、そんな何でもない魔法が最悪の状況を作り出すことを告げる。
回避は失敗であった……。
正面からミコトが槍を放った理由。 それは、攻撃をあてるためではなく、ナイト=サンを魔法の射程内に入れ
るため。
確かにスリップダメージを一定時間受け続けることは危険である。
しかし、スリップダメ―ジも【沈黙】も、一定時間を過ぎれば自然回復をしてしまう状態異常だ。
重ねがけされたスリップダメージは確かに大ダメージではあるが、せいぜい同時にかけられたとしてもナイト=
サンの体力の半分も削り取ることは出来ないだろう。
PVPという戦いは識っていても、ルール無用の【殺し合い】に対しての経験のなさが、ナイト=サンを窮地へと陥れる。
【定着と侵食】
放たれた魔法は、ゼロ距離射程でのみ放つことができる、状態異常に対する補助魔法。
その効果はシンプルで、本来数十秒で立ち消えてしまう状態異常を、【永続】させることと、【治癒】をさせない
という効果の二つである。
もっとも、永続という言葉はバトルフィールドのみでの話であり、ゲームシステム内での【戦闘状態が解除】さ
れるかもしくは【安全エリアへの侵入】が果たされればゲームシステムにより強制的に状態異常も【定着と侵食】
も解除されるのだが。
「ちっ……そういうことか」
「ええ、貴方ならわかるでしょう? この世界はゲームじゃない。私があなたを敵だと認識している限り戦闘状態
は解除されることはないし、この世界に安全エリアなんて場所は存在しない」
ナイト=サンにかけられた呪いは、消えることのない永遠の呪い。
ゲーム内では、魔法使いにとって最も苦手な分野である接近戦を強要される挙句、敵に一定の距離を離されてしまうと効果が消えてしまうこの魔法は効果だけは強力に見えるが実際は役に立たない魔法だ。
だが、もともと槍使いの頂点である彼女の近接戦の力と、この世界の仕組みが合わさったとき、もっとも恐ろし
い呪いとして変貌を遂げた。
そして何よりもナイト=サンにとって恐ろしい点は。
「スリップダメージは割合性だって言ったわよね。 私はそんなあなたにわざわざ戦ってあげる必要もない……こ
のまま転移魔法で世界の反対側くらいまで逃げてしまえば、貴方に勝利はなくなるわ……皮肉よね、貴方が編み出
した作戦で死ぬなんて」
騎士の職業は、転移の魔法を習得できないという点である。
「うぐっ……なるほどな。これは確かに、はぁ……どうしようも……なさそうだ」
転移魔法に対処する術をナイト=サンは持たず、切りかかろうともミコトの転移魔法の発動のほうが先に終了す
る現状はまさに詰み状態のまま、ナイト=サンは膝をつく。
「勝負ありといったところね。町の方も、そろそろかたがついてるころじゃないかしら?」
ミコトの言葉に、ナイト=サンは疑問符を浮かべる。
キングフェンリルはすでに倒された、レイドボスの再召喚はいまだに行われていない。
だというのに、彼女の言い草はまるでいまだに町への襲撃が続いているかのようだ。
想定外の言葉に、ナイト=サンは声にならない声でミコトを見つめる。
その様子にミコトは悪辣な笑みを浮かべ。
「私がいつ、一人であの町を襲うなんて言ったのかしら?」
「まさか!」
悲鳴が上がる。
それは人のではなく、龍のいななき。
キングフェンリルにさえも傷つけることは叶わず、先代勇者でさえも殺しきることのできなかった災厄の龍。
初めてナイト=サンは振り返る。
そこには、巨大な一本の槍。
光り輝くその槍は、魔法で編まれたものだろう、特段驚くほどの物でもない。
驚くべきは、その槍はやすやすと、メタルドラゴンを貫いていたという点だ。
この世界に、そのような真似ができる人間はまだいない。
ゆえに、いるとしたらそれは転生者に他ならない。
「まだよ、まだ終わっていない」
ネットリとした黒い影がナイト=サンを包み込む。
ナイト=サンはその言葉に、ただただうつむくことしかできなかった。
◇
ゲームシステムのデータより与えられた知識は、その魔法はいたって特殊であり、それ単体では脅威になりえない魔法だと語る。
使用頻度も低く【PVP】では決して見ることのできない魔法。
種類は殺傷能力はないに等しい補助系魔法。
しかし、至高の騎士としての直感が、そんな何でもない魔法が最悪の状況を作り出すことを告げる。
回避は失敗であった……。
正面からミコトが槍を放った理由。 それは、攻撃をあてるためではなく、ナイト=サンを魔法の射程内に入れ
るため。
確かにスリップダメージを一定時間受け続けることは危険である。
しかし、スリップダメ―ジも【沈黙】も、一定時間を過ぎれば自然回復をしてしまう状態異常だ。
重ねがけされたスリップダメージは確かに大ダメージではあるが、せいぜい同時にかけられたとしてもナイト=
サンの体力の半分も削り取ることは出来ないだろう。
PVPという戦いは識っていても、ルール無用の【殺し合い】に対しての経験のなさが、ナイト=サンを窮地へと陥れる。
【定着と侵食】
放たれた魔法は、ゼロ距離射程でのみ放つことができる、状態異常に対する補助魔法。
その効果はシンプルで、本来数十秒で立ち消えてしまう状態異常を、【永続】させることと、【治癒】をさせない
という効果の二つである。
もっとも、永続という言葉はバトルフィールドのみでの話であり、ゲームシステム内での【戦闘状態が解除】さ
れるかもしくは【安全エリアへの侵入】が果たされればゲームシステムにより強制的に状態異常も【定着と侵食】
も解除されるのだが。
「ちっ……そういうことか」
「ええ、貴方ならわかるでしょう? この世界はゲームじゃない。私があなたを敵だと認識している限り戦闘状態
は解除されることはないし、この世界に安全エリアなんて場所は存在しない」
ナイト=サンにかけられた呪いは、消えることのない永遠の呪い。
ゲーム内では、魔法使いにとって最も苦手な分野である接近戦を強要される挙句、敵に一定の距離を離されてしまうと効果が消えてしまうこの魔法は効果だけは強力に見えるが実際は役に立たない魔法だ。
だが、もともと槍使いの頂点である彼女の近接戦の力と、この世界の仕組みが合わさったとき、もっとも恐ろし
い呪いとして変貌を遂げた。
そして何よりもナイト=サンにとって恐ろしい点は。
「スリップダメージは割合性だって言ったわよね。 私はそんなあなたにわざわざ戦ってあげる必要もない……こ
のまま転移魔法で世界の反対側くらいまで逃げてしまえば、貴方に勝利はなくなるわ……皮肉よね、貴方が編み出
した作戦で死ぬなんて」
騎士の職業は、転移の魔法を習得できないという点である。
「うぐっ……なるほどな。これは確かに、はぁ……どうしようも……なさそうだ」
転移魔法に対処する術をナイト=サンは持たず、切りかかろうともミコトの転移魔法の発動のほうが先に終了す
る現状はまさに詰み状態のまま、ナイト=サンは膝をつく。
「勝負ありといったところね。町の方も、そろそろかたがついてるころじゃないかしら?」
ミコトの言葉に、ナイト=サンは疑問符を浮かべる。
キングフェンリルはすでに倒された、レイドボスの再召喚はいまだに行われていない。
だというのに、彼女の言い草はまるでいまだに町への襲撃が続いているかのようだ。
想定外の言葉に、ナイト=サンは声にならない声でミコトを見つめる。
その様子にミコトは悪辣な笑みを浮かべ。
「私がいつ、一人であの町を襲うなんて言ったのかしら?」
「まさか!」
悲鳴が上がる。
それは人のではなく、龍のいななき。
キングフェンリルにさえも傷つけることは叶わず、先代勇者でさえも殺しきることのできなかった災厄の龍。
初めてナイト=サンは振り返る。
そこには、巨大な一本の槍。
光り輝くその槍は、魔法で編まれたものだろう、特段驚くほどの物でもない。
驚くべきは、その槍はやすやすと、メタルドラゴンを貫いていたという点だ。
この世界に、そのような真似ができる人間はまだいない。
ゆえに、いるとしたらそれは転生者に他ならない。
「まだよ、まだ終わっていない」
ネットリとした黒い影がナイト=サンを包み込む。
ナイト=サンはその言葉に、ただただうつむくことしかできなかった。
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