至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

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あと一歩

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「へへっ! やらせていただいたぜ!」

 転生者の武器を見かけで判断するべきではないかもしれないが、細い槍と大剣。
 正面からぶつかり合ったときにどちらが有利かは一目瞭然であり、その常識の通り受け止めた槍は音を立てて槍の柄にヒビがはいる。

「なるほど、それがブレイブか!」

 叫ぶ転生者。

「一体何が……」

 その言葉の意味を私は理解しあぐねていると。

「あ、足もと! 足もとだサクヤ君」

 局長が声をあげる。

「足もと? あっ」

 言われた通り、足もとを見るとそこには蜻蛉切の足に絡みつく無数の草の根。

 その数は一本や二本ではなく、一本一本が編み上げられており、草とはいえちょっとやそっとじゃ切れそうにない。

「魔力反応は見られなかった、アッガス君のブレイブで操ったんだ!」

「卑怯とでも何とでもいいっていいぜ!! こちとら力の差は歴然だ、みっともなくあがかせてもらうぜ!」

 アッガスさんはその言葉と同時に刃に力を籠める。。

「いいや見事!」

 しかし、歓喜するように蜻蛉切はひび割れた槍を振るいアッガスさんを押しのける。

「ぬっ!」

 不意打ち、そして足もとを固定されていたがゆえに、初撃こそはアッガスさんが押し勝った。

  しかし、体勢を立て直されてしまえばその形成は逆転する。

  押しのけられたアッガスさんは舌打ち交じりに体勢を立て直し、大剣を構えなおす。

「ちぃっ、うまくいったと思ったが、そう簡単にはとらせてくれねえか」

「武器がもろいとお前のところの騎士殿に言われた故な、少しばかり強化をしておいた」

「ナイトの野郎……余計なことを」

「だが、強化をした槍に、ただの一撃でひびを入れるとはな。お前、本当にこの世界の人間か? 十分この世界で
は逸脱した人間だろうな……いうなれば、英雄という奴か」

「うるせえ! 舌噛むぞこらぁ!」

 余裕を見せる蜻蛉切に対し、アッガスさんは再度飛び掛かる様に大剣を振り下ろす。

 槍のヒビは浅くはない、おそらくはあと一撃はいれば砕けるだろう。

 武器破壊による勝負を決めるのであれば、頑丈な大剣を持つアッガスさんは長期戦を挑むのが定石と言える。

 だが膂力も、何もかもが劣っていることは先の打ち合いではっきりとした。

 ヒビは小さくも勝利への希望であり、勝利するためにはこの小さな希望を大火へと発展させる必要がある。 


 地力で勝る転生者に対抗するためには、この好機を生かせなければ敗北しかない。

 敵は攻撃を防げない現状は、こちらにとってはこれ以上ない幸運でもある。

 しかし、攻撃の鋭さや力、技術はすべてあちらが一枚も二枚も上手。

 攻撃を防がなくともアッガスさんと私を殺害する方法などいくらでもあるだろう。

 ならば、攻撃を防がせるように徹底的に攻め立てる。

 それが、アッガスさんが導き出した勝利への道筋だった。

「ふん……確かに、私の槍にはその剣を受け止めるだけの耐久はない……だが」

「おっらあぁあ!」

 振り下ろされる斬撃。

 しかしその刃を、蜻蛉切は槍でいなす。

「もとより槍とは、攻撃をいなすものであろう?」

 流れるような体さばきにより、すり抜けるように転生者は大剣を逸らす。

 「だったら当たるまでぶん回すまでよ!」

 しかし、振り下ろした刃をアッガスさんは再度横薙ぎに無理やりに振るう。

 地面にめり込んだ大剣は、大地をめくりあげながらさらに転生者を追撃するが。

「甘い甘い! 我が動き空を舞う蜻蛉がごとし! その風強ければ強きほど身を任せ受け流す」

 まるで、風に揺蕩う蜻蛉のように機敏にしかし確実にアッガスさんの攻撃は槍によりいなされる。

 撃ち落とすのではなく、槍の穂先にてほんの少し軌道を逸らす。

 槍への負担はなく、それでいて体の動きは最小限。 

 
 その目は虎視眈々と一撃を放つ機会をうかがっており。

 攻め立てているアッガスさんの攻撃が少しでも緩めば、即座に槍がアッガスさんの命を刈り取ることを物語って
いる。

「せ、攻め立てているのはアッガス君のはずなのに、彼の方がまるで薄氷の上を歩いているかのような戦いだ」


 局長の言葉に私は返す言葉がない

 なぜならその通りだからだ。

 攻めているのはアッガスさんであり、防戦一方となっていて形成も不利なのは蜻蛉切で変わらない。

 だが刃を振るえば振るうほどアッガスさんの表情は険しく苦しそうになるのに対し。

 蜻蛉切は防ぐたびにその表情に余裕が表れてくる。

 少しでも攻撃の手を緩められた瞬間に、その槍はアッガスさんを貫き穿つ。

 それがわかっているからこそ、アッガスさんは近接戦にて敵を追い立てる。

 十、二十……やがて三十。

 大地はめくれ上がり、アッガスさんは全身から滝のような汗を流して剣を振るい続ける。

 ショートソードやロングソードなどとはわけが違う。

 自分の大きさ程の鉄の塊を休みなく振るい続けるのだ。

 いかに決死の覚悟と言えど限界は訪れる。

「ぐっぬぁあ!」

 苦しそうな声と同時に放たれた一撃。

 まるで消えかけの蝋燭の火が一瞬だけ大きなきらめきを見せるような。

 荒々しくも鋭い一閃。

「おしい……あと少し」

 しかし、その一撃は蜻蛉切のこめかみをわずかに切るが、そのまま同じようにいなされ大地を割る。

 まさしく会心の一撃。

「ぶっはああぁ! 畜生!」

 だが、その一撃も届かなければ意味はなく、アッガスさんは大きく息を吐きだし、攻撃の手が止まる。

「頑張ったが、これで終わりだ」

 反撃とばかりに、蜻蛉切は槍を放つ。

 その一撃はアッガスさんの大剣ほどの苛烈さはないが、それでも的確に心臓を狙い穿たれる。

「ちいっ!」

 即座に、放たれた槍に対し左腕につけられたバックラーにて、即座に槍を防ごうとするアッガスさんだが。

鎧通しスティンガー

 蜻蛉切に与えられたゴッズスキル、鎧通しにより盾は無効化され、アッガスさんの腕を貫き、同時に左肩を貫いた。

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