実験体として勇者にされた僕 最強賢者の姉ちゃんに助けられて溺愛されたけど 過保護すぎるせいで全然強くなれません

nagamiyuuichi

文字の大きさ
37 / 46

アンネの嘘

しおりを挟む
   マオ視点

 客間に用意されたベッドにて、アンネは横になったサイモンに回復魔法をかけ続ける。

「意外じゃな。てっきりお主はユウ以外の人間にさほど興味はないと思っておったのじゃが」

 そんなアンネを眺めながら、マオはつぶやく様にアンネに声をかける。

 聞きようによっては悪口とも捉えられるような台詞であったが、アンネは優しく微笑んだ。

「確かに世界で一番大切なのはユウ君だけど、困ってる人や傷ついた人を助けるのは当たり前のことでしょ?」

「ふうん? それは勇者の姉として、振る舞いを気をつけていると言うことか?」

 今度は少しばかり皮肉をこめてマオはアンネにそう言うが、アンネは気にする様子もなくクスリと笑うと首を横に振る。

「ううん。ただのお姉ちゃんとして、自分が正しいと思ったことをやってるだけだよ。年長者として、ユウ君やみんなに人としての正しさを教えるのはお姉ちゃんの義務だもの!」

 嬉しそうに笑うアンネの表情には嘘偽りはなく、回復魔法をサイモンにかけるアンネの姿は、聖女と見間違えてもおかしくはないほど美しく神々しい。

 そんな姿にマオは少しだけ口元を緩める。

「成程のぉ、ユウのお人好しは姉譲りと言うことか」

「血は繋がってないけどね・・・・・・」

「関係あるまい。子は親の背を見て育つもの。親のいないユウにとって、ソナタは親も同然だ。血など繋がっておらずとも、ソナタは間違いなくあやつの姉じゃ」

「マオちゃん」

 マオの言葉にアンネは嬉しそうに声を弾ませる。
 だが。

「しかし、だからこそ聞かねばならぬ」

 マオの声色が変わり、今まで和やかだった部屋の空気が一瞬でピンと張り詰める。

「? どうしたのマオちゃん、急に畏まっ……」

「アンネ、なぜユウに嘘をついておる?」

 アンネの言葉を遮るようにマオは凛とアンネに問いかける。

  
  その言葉に、サイモンにかけられていた回復魔法が中断された。


「嘘? 何のことかな、私がユウ君に嘘なんてつくわけないじゃない。やだなぁマオちゃん」

 アンネはあからさまに動揺をしていた。

 集中力が途切れ魔法が中断されたこともそうだが。
 口元は引き攣り、マオへの返答はあからさまに震えている。

   そしてそんな状態で無理していつも通り振る舞おうとするのだ。

   アンネの異様さはより浮き彫りとなる。

   それこそ、誰が見ても嘘をついていると分かるぐらいに。

「どうした、随分と狼狽えてる様じゃが」

「そ、そんな事ないってば、それで聞かなきゃ行けないことってなぁに? マオちゃん」

   ひきつった笑みを見せるアンネに、マオは確信めいたものを得ると「そうか」と息を一つ吐いて話を続ける。

「昔の話じゃ……妾の部下にヴォルフェウスと言う男がおった。忠義に厚い人狼族の男でな。やめろと言うておるのに、いつも妾を守るため体を張ってボロボロになっておる奴じゃった。ずっと側にいた大切な部下でなぁよく命を助けられたわ……故に、妾を守るためにできた傷の数や形、その全てを今でも手にとるように覚えておる……」

 びくり、とアンネの指が跳ねる。

「きゅ、急に何の話? あはは、もしかしてまた魔王ごっこを……」


「のぉアンネ……なぜユウから我が忠臣の腕が生えるのじゃ?」

   瞬間、アンネは杖から刃を抜き放ちマオの首元に突きつける。

   その瞳は狂気に染まったように血走り、何かを押し殺すように呼吸も荒い。

「マオちゃん……貴方、何者?」

「その反応、やはり知っていてユウに混ぜ合わせたか」

「質問に答えなさい!」

 絶叫に近いアンネの怒声に、マオはひとつため息を漏らすと。

「……妾はマオリーシャ・シン・ウロボロス。力こそ失ったが、かつては魔王と呼ばれていたものじゃ」

 どこか怒りを内包させながら、マオはアンネに自らの正体を明かす。

「魔王?」

「いかにも。お主がユウに繋ぎ合わせた魔物の、元主人じゃ」

  刃を首元に突きつけられながらも、マオは堂々とアンネを睨め付ける。

   力も遥かに上であり、刃を突きつけられているのはマオの方……しかし、狼狽し追い詰められているのはアンネの方であるのは誰がみても明白であった。

「……………………………封印から目覚めたのね」

「ほう?その口振りからして、すでにお主は気づいておったようじゃな。今世界を滅ぼそうと暗躍をしているのは、三百年前に封印された魔王ではないと」

「…………」

   マオの言葉にアンネは押し黙る。
   それは紛れもなく肯定であり、マオは表情を歪めて話を戻す。

「まぁ、今はそんなことはどうでも良い。今重要なのはお主が……ユウに魔物の力を宿して何をしようとしておるかじゃ」

「た、単純な話だよ……私はただユウ君を立派な勇者にするために……」

「魔物を継ぎ合わせた怪物が、勇者などであるはずがなかろう……ましてやその力はかつての魔王軍のものだ……お主は一体何を企んでいる」

   ぴんと張り詰めたような空気があたり一体を包み。
   アンネは目を見開きながら、唇を震わせる。

「これは、私とユウ君……兄弟の問題だからマオちゃんには関係ないわ」

   静寂の最中にようやく絞り出した反論。
 
   アンネらしくない、拒絶を隠す事なく放たれたそのセリフは……間違いなくアンネが追い詰められていると言うことを示している。

   だからこそマオは、毅然とした態度でアンネに反論を返した。

「関係はある。妾はユウの友達じゃ……それに我が忠臣の骸が愚弄されておるのだ。貴様には説明をする義務があるはずじゃ……もしそれでも話さないと言うなら、妾とて相応の手段を使わなければならぬ」

「っ‼︎何をするつもり?」

「簡単じゃ、ユウに今の話をするしかあるまい」

「‼︎」

   瞬間部屋の中に何かが切れるような音が響き……。

   同時に先ほどまで狼狽をしていたアンネは杖から巨大な召喚陣を瞬時に作り出し。
  
   召喚した巨大な剣をマオへと向かって投げつけた。



「──────ッ私達のッ邪魔をしないでっ‼︎」

 
   轟音を響かせながら、魔法陣より放たれた巨大な剣は家の壁を破壊し、庭へと突き刺さる。

 元来のアンネであれば魔王であるマオをその刃で切り殺していた。

 だが、ユウの友達という言葉がマオの殺害を踏みとどまらせたのである。

「邪魔をするつもりはない。訳があるなら話せというておるだけよ。我が同胞が何故あの様になっているのか妾には知る権利があろう?」

「っ!!!」

 マオの言葉は正論であり、アンネは言い返すことが出来ずに殺意だけが膨れ上がる。

「言えぬか。ならば」

 マオは一つため息をついて部屋を後にしようとする。

「させない!!!」

「っ!?」

 だが、アンネは実力行使とばかりにマオの体を組み伏せ、その首元に刃を突きつける。
 
「お願いだから見なかったことにしてマオちゃん。いつか必ず説明するから。今は目を瞑って!」

「手前勝手な話よな」

「手前勝手でもなんでも聞いて! じゃないと私は、あなたを殺さなければ行けなくなる」

「なら殺せばよい。力なき妾ではあるが、死してなおも妾は彼奴の主、引くわけにはいかん!!」

 突きつけられた刃に、マオは自らの首を押し当てて叫ぶ。

 そんなマオの形相に、アンネも脅しは無意味だと気づいたようにため息を漏らすと。
 
「そう、だったら死んでもらうしかないわ」

 覚悟を決めたように刃を握る手に力を込める。

 が。

「だが、妾を殺してどうする?ここに転がる死体を見て、ユウにはなんと説明をするつもりよ」

「っ!?」

「お主は、ユウに嘘はつかないのであろう?」


 挑発する様なマオの言葉に、アンネはようやく自分が置かれている状況を理解した。

 この状況に持ち込まれた時点で詰んでいた。
 
 アンネにはこの状況を打破する方法はなく。
 
 刃を握る手に力がこもる。

 だが。

「何、してるんだよ姉ちゃん」

「あ……」

 白刃がマオの首を裂く刹那、部屋にユウの声が響いたのであった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...