新人魔導士と過保護な先輩

トキどき

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27.代償

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 ノエルと会った翌朝、瞼の裏に光を感じてゆっくりと目を開けたリントを待っていたのは、ひどい顔をした自分と重い頭痛だった。

 髪は寝癖がひどいし、化粧も落とさず寝てしまったので、ぺたぺたして気持ちが悪い。
 とにかくシャワーを浴びて、ぼんやりしている頭をなんとか起こす。

 石鹸を手で軽く泡立て、肌の上を滑らせていくと、腕輪が目に入り、外れていないことに安堵した。
 泡を流して、タオルで水気を取っていく。

 ふわふわとそれぞれが勝手な方向を向いていた髪は、ようやく真っ直ぐ下へと流れてくれた。
 鏡の前に立って、改めて自分の顔を確認する。

「これ、お化粧で隠せるかな…」

 昨夜落として寝なかったせいだと思うが、肌が少し荒れている。
 一番気になったのは目の下の隈だった。

 時間を確認して、出るまでの準備を逆算する。
 いつも朝食はしっかり採る派のリントだが、果物だけにすれば多少のお手入れの時間は確保できそうだった。

 完全に抜かないのは、昔、散々リリーに注意されたからだ。
 規則正しい生活とごはんは、美容の基本らしい。

 ペティナイフを取り出し、オレンジをくるくると剥いていく。
 手ごろな大きさに切り分けて、そのまま口へと放り込んだ。

 皮は捨てずに取っておく。
 帰ってきたら、砂糖漬けにするつもりだ。
 ちょっとした時につまめるし、お菓子に入れても美味しい。

 タオルをお湯で濡らし、ぎゅっと絞った。
 そのまま顔にあて、しばらくごろんとベットに横になる。
 じんわりと染みるあたたかな感覚に頭痛もすこし和らいだ気がする。
 
 3日、いやもう2日後か。
 どうしたらノエルから魔法を教えてもらえるのか、リントは考えていた。
 何か、彼に益のある提案ができればいいのだが、それが思いつかない。

 本人について、羊飼いという以外何も知らないのだ。
 当然と言えば当然だった。
 
「いっそのこと、本人に聞いてみるとか…?」

 タオルを外しながらつい独り言が出てしまった。
 先ほどとは違い、丁寧に石鹸を泡立て、顔に乗せる。
 ぬるま湯で洗い流すと、今度は蛇口をひねり、水でばしゃばしゃと顔を冷やした。

 本当は氷があればいいのだけれど、残念ながら今この家にはない。
 今ある冷蔵庫は冷凍機能がないものだった。
 まだ使えるからと、家にあった中古を持たされたのだ。
 1人暮らしだし、冷凍まで必要ないかと思っていたのだが、やっぱりあった方が何かと便利だ。

 最初のお給料は、仕送りと冷凍冷蔵庫に消えるかもしれない。
 まだ入ってもいない給料の使い道を考えながら、最後にハーブの蒸留水をいつもよりたっぷりとつけると、リントは下準備を終えた。
 
 あとは、いつも通りの手順で化粧をしていく。
 気になっていた目の下だけ、橙色を加えてからおしろいを重ねた。

 ちなみに、先ほどのお手入れはリリー仕込みだ。
 毎回『最新の』と言って色々教えてくれるのだが、以前は冷水で洗えと言っていたのに、今はぬるま湯だったり、教えてくれるたびに方法や順番が変わるので、効果のほどは定かではない。
 やらないよりはましだと思って実践している。
 
「行ってきまーす」

 誰もいないのはわかっていても、言わずにいられないのは実家で暮らしていた時のくせだ。
 扉を閉め、鍵をかけると、リントは庁舎へと向かった。
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