新人魔導士と過保護な先輩

トキどき

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28.美味しい回復薬の作り方

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「おはようございます」

 登庁する人々に声をかけつつ部屋へと向かう。
 ユールは既に適当な机に座って書類作業をしていた。

「ユール先輩、おはようございます」
「おはよう、リント」

 リントの声に顔を上げた彼は、ほんの一瞬だが眉根を寄せた。

「今日なんだけど、『壁』の作業午後からでもいいかな?」
「構いませんけど、何かありました?」

 緊急の予定が入ったのかと不安になったが、そうではないらしい。

「材料もそろったし、回復薬を作ろうと思って」
「!私もご一緒していいですか!?」
「もちろんそのつもりだよ」
「ありがとうございます!」

 嬉しそうに笑うリントを、ユールは優しく見つめた。

 回復薬を作るべく、リントとユールは研究棟へ向かう。
 専門の研究をしている研究員や魔導士にはそれぞれ個別の研究室が与えられているそうだが、それとは別に共用で使用している広い研究室があるのだ。

 研究棟へと到着したユールは階段を降り始めた。
 そのまま研究室へ向かうと思いきや、通り過ぎて庭へと続く扉を開ける。

「どこへ行くんですか?」
「必要な材料を取りに」

 にっこり笑うユールの後を大人しくついていくと、薬草畑に到着した。

「専科で習った時は乾燥した薬草を使用したと思うんだけど、ものによっては新鮮な状態で使った方が効果が高いものもあるんだ」

 そう言って、ユールはいくつかの薬草を摘み始めた。

「ここの管理はどなたがされているんですか?」
「研究員が持ち回りで。彼らが一番使うからね。この区画は俺たちが回復薬に使える分。向こうにある薬草は許可をもらわないとダメ。研究室にある乾燥したものはどれでも自由に使って構わないよ」

 在庫管理も研究員がしているそうで、補充もしてくれるそうだ。
 摘んだ薬草を持って、今度は別の扉から入る。
 二重扉をくぐった先は研究室だった。
 研究員が出入りしやすいように直通の扉を作ったらしい。

 服が汚れない様に支給されている長衣を上からかぶる。
 素材は違うが、ローブと同じ濃藍だった。
 魔導士庁の基本色なのだろうか。
 ユールが器具や薬草の場所を教えてくれ、リントは確認しつつ、必要なものを机の上に並べていく。

「さて、回復薬だけど、入れる薬草によって効能が変わることは知ってるよね?」
「はい」

 回復薬は大きく分けて3つある。
 外傷・体力・魔力回復だ。
 一般に売られている基本的な調合と作成方法は専科の授業で習得済みだった。

「この前リントに渡したのは体力と魔力回復の混合薬。今日作るのもこれ。単独の物より効果は落ちるけど、『壁』の補充をするには十分だから」

 リントは時々相槌を打ちながら、真剣にユールの話を聞いている。

「これが成分表ね。基本の薬草の他、5種類加えてある。あと、甘い味の秘密だけど…」

『わかる?』とユールが取り出してきたのは、草というより根のように見えた。

「初めて見ます」
「リコリスの根だよ。医薬品ではそれなりに使われてる薬草だね。ちょっと効果が強めだから、量はちゃんと守って」

『ちょっとなめてみる?』と、すでに粉末状にされたものをほんのわずかだけ掌に乗せられる。
 口に含むと、とても甘い。
 ほわりと勝手に口が緩んだ。

「ハーブティーやお菓子に入れる人もいるらしいよ。ただ、さっきも言ったけど、摂取のし過ぎは良くないから気を付けて」
「はい」
「じゃぁ、始めようか」

 摘んだばかりの薬草をすり潰す作業は増えたが、他は習った通りの手順だった。
 増えた5種類の中に、オレンジの皮を乾燥したものが入っていたのを見つけ、香りづけかと思ったら、ちゃんと疲労回復の意味があるのだそうだ。
 家に残してきた皮の半分は、実験用にしようと決めた。

 よく混ぜ合わせた後、魔力を込める。
 色が変われば原液の出来上がりだ。
 これを蒸留水で一定の割合に薄めて使用する。

「できました」

 ユールがひとさじ掬って試飲する。

「うん、問題ないね。上手にできてる」

 量り間違いでもない限り失敗はしないが、久しぶりの作業だったので、リントは無事にできあがったことにほっとしたのだった。
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