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第2章 箱入りママの話

天使がくれた仲直りのきっかけ( カトリーヌ視点)

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 エリカには私以上の魔力があるようです。赤ちゃんでは、まだ制御する術がありません。一応、私の魔法でエリカの魔力を貨幣魔法に変換したのですが、もしもエリカの魔力が暴走したら、私一人では止められません。
 そこで私は、エリカのことを相談するためにクルセイラ様に手紙を出すことにしました。クルセイラ様はお忙しい御方です。返事はいつ来るのか分かりません。不安でいっぱいになりながら待ち続けました。
 幸いなことに、あれ以来エリカの魔力が暴走することはありませんでした。エリカはぐずることなく、お腹が空いた時などは私の服の裾を掴んで知らせてくれます。赤ちゃんとは思えないほど手が かかりません。
 エリカは伝承に出てくる転生者なのでしょうか。でも、その割には私の言葉が理解出来ていないようです。やはり、エリカが普通の子供よりもいい子なだけなのでしょう。可愛くて素直ないい子だなんて、さすが私の天使です。
 親馬鹿が過ぎますね。他人が聞いたら、きっと呆れ果てるに違いありません。
 いいんです。エリカは私の天使として、可愛がり続けていきますよ。

 クルセイラ様からの返事は、意外と早く届きました。彼女にもエリカと同い年の一人娘がいるから、私の不安を理解してくれて、迅速に対応して下さったのでしょう。今は平民にすぎない私のことを気にかけて下さったってくれて、とてもありがたいことです。涙が出るほど嬉しいですね。
 エリカが心配するといけないから、本当には泣いたりしませんけどね。クルセイラ様にはいつか、お礼をしないといけません。

 手紙によると、クルセイラ様のお兄様ーー フェルディナンド 国王陛下にも 詳細を伝えた方が良いとの 判断のようで、 なんと明日にはお城で集まるようだから、 馬車の迎えをよこしてくるようです。
 普通は国王陛下とお目通りするためには複雑な手続きが必要で、 一週間以上は待たされるはずですが、クルセイラ様が 強引に予定を入れたのでしょう 。クルセイラ様は 国王陛下の妹君で、サルヴァトーレ 公爵の ラハール様と ご結婚する前までは わがまま姫として有名でした。 フェルディナンド様もクルセイラ様の わがままについては諦めているので、 遠い目をしながら聞き入れたのでしょう。
 お二人のやり取りが目に浮かぶようです。
 お城に向かうとなるとドレスが必要ですね。クワトロと 結婚した後に 全てのドレスを処分していたから、 着ていけるものがありません。
 色々と気まずいのですが、 仕方がありませんね。 実家を頼ることにしましょうか。
 私はクワトロと一緒になるために平民の身分を選んだのですが、元々は エスポワール 伯爵 令嬢でした。
 クワトロが勇者とならなければ結婚は認められませんでした。逆に勇者となったクワトロが 伯爵の地位を望めば、 ラシックお兄様を蹴落とすことに なっていました。クワトロが平民の 身分を選んだことで、 ラシックお兄様は エスポワール伯爵家を継ぐことができました。 そのせいで私は平民の身分となってしまいましたが、 後悔はしていません。
 
 実家から持たされた魔水晶があります。これで ラシックお兄様に連絡を取ることができます。 私が平民の身分となったことで表向きは縁を切っているので、クワトロと 結婚して以来の久しぶりの会話となります。 なんだかドキドキしますね。

「 ラシック様にご相談したいことがあります」
「 公の場ではないのだから、 以前のように お兄様と呼んでくれないか」

 ラシックお兄様は私のことを怒っていたはずですけど、 許してくれたようです。 私は嬉しくなって、 ラシックお兄様が望むように呼んであげることにしました。

「 ラシックお兄様」
「 何でも相談してくれていいよ。 私の可愛いカトリーヌ」
「 突然のことですけど、 私は明日お城に行かなければいけません。 そのためのドレスを用意してもらえますか?」
「 カトリーヌが可愛らしくおねだりしてくれたのだから、 喜んで聞いてあげるよ」

 私は別に 媚を売るような真似はしていないのですが、 きっと身内びいきの フィルターがかかっているのでしょうね。
 私だって、エリカは天使にしか見えませんからね!
 しかし、 あまりにも猫可愛いがりされすぎると引いてしまうものです。私は ラシック お兄様 を反面教師として、エリカへの 態度は自重することにしましょう。
 どうせなら、エリカも着飾ってほしいですね。

「娘のエリカの分もお願いしますね」
「娘・・・・・・!? そ、そうか。やつとの子供が出来たのか・・・・・・」

 ラシックお兄様は喜ぶどころか、 なぜか 落ち込んだような声をしています。

「エリカのことを 祝福してくださらないのですか?」
「い、いや、 カトリーヌの娘が生まれたことはめでたいことだ。 お前によく似て可愛らしいのだろう?」
「もちろんです! エリカは 世界一の天使です!」
「やつのことは 複雑だが・・・・・・エリカのことは 喜んで祝福するぞ」
「 ありがとう存じます。 ラシックお兄様」

 気まずかった ラシック お兄様とすっかり仲直りすることができました。 きっかけを作ってくれた、クルセイラ様とエリカに 感謝しなければいけませんね。


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