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「手厳しいな…正直庇ってもらえるかと思ったよ」

甘えたように泣き言を言うクレメントにアリアナはふっと笑って答えた。

「それは失礼いたしました。数字が絡んだ話になりますと、クレメント様相手でも容赦ができなくなるようです。商人の血かもしれません」

後半、いたずらっぽくアリアナが付け加えたのを見てクレメントは爽やかに笑った。

「そうか。頼もしい限りだよ。では、昼頃書類は届くから、頼んだよ」

席を立とうとしたクレメントにアリアナはにっこり微笑んだ。

「ええ。分かりました。では、クレメント様も書類が届いたら、この部屋に来てください」

その言葉にギョッとしたようにクレメントが答える。

「午後からは予定があるんだ」
「あら、新婚の妻をほっておいてですか?」

甘えたようにアリアナが言うと言葉を詰まらせる。

「それに、ハンゼ公爵家を建て直すにあたって、どの支出項目を削るかご相談したかったのですが」
「私の私費の部分さえそのままにしておいてくれるなら、あとは自由にしてくれて構わないよ」
「ふふ。お約束できかねますよ」
「ははは。それなら君に任せるよ。」

いたずらっぽく笑うと、クレメントは許されたと思ったのか適当なことを言ってそそくさと立ち去った。



「まさか本当に来ない気ではありませんよね」

低い声でベスがアリアナに聞くと、アリアナはにっこり笑った。

「来ないと思うわよ。彼にとっては自分の私費さえ手をつけないでもらえるなら、後は興味なんてないんじゃないかしら」
「そんな馬鹿な」
「本当にね。ねぇ、ベス。来るか来ないか賭けない?」
「ご冗談を。それより私費の部分はどうされるのですか」
「もちろん、真っ先に削るわよ。というかそれ以外見直す箇所なんてないんじゃないかしら。」
「それはどういうことでしょう」
「屋敷の中、見た?客が使う部屋と自分の部屋は立派だけれど、目につかないところなんてひどいものよ。おそらく使用人に払ってる賃金も最低限ね。だから見直すところは彼が自由に使ってる部分くらいしかないと思うのよ。」
「そう言うことでしたか。ですが納得されるでしょうか」
「してもらわないと困るわよ。まぁ、今日塩の売り上げも渡すつもりだったから、それに合わせて、クレメント様も商売を始めるようにけしかけてみようかしら。」

ふふふ、と黒い笑みを浮かべながらアリアナは呟いた。

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