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「それで、クレメントさまへのはアリアナ様のポケットマネーからお渡しになったとして、収支はなんとかなりそうですか?」

ベスは微笑みながら尋ねた。

「微妙なあたりね」
「ざっと割って収入は月100エランですよね。クレメント様はご自身の私的なものにどれくらい使われてたのですか?」
「そうね。被服費、交際費で7割くらいかしら。」
「は?」
「残りで食費、屋敷の維持費、領地の運営費、使用人達の給金を払ってるのだけれど…」 
「すでに破綻していますよね」
「ね。でも帳簿上は辻褄があってるのが恐ろしいところよ」
「まさか、本当にそのあたりにお金を全くかけていないのでしょうか。」
「それにしては妙なのよね。」
「なぜです」
「公爵家の使用人の数なら残り30エラン全て給金にあてたとしても、一人当たりの給金は相場よりかなり低いわよね。それにしては使用人達にギスギスした空気がないわ」
「そういえば、フラーも気持ちよく働いていましたね」
「ええ。よほど自分の望んだ仕事か、さもなくば敬愛する主人でもない限り、満足な給金なくして人間は仕事に高い意欲を向け続けることはできないわ。」
「つまり、ここの使用人達がどうしてもこの公爵家で働きたいと言う奇特な人か、クレメント様を敬愛している珍妙な人でもない限り、しっかり給金は支払われていると言うことですよね」
「ええ。それとね。気になるのがもう一点。この支出の費目には恐ろしい物が抜けている」

半ば溜め息を吐きながら答えるアリアナを気の毒そうに見つめながら、ベスは尋ねた。

「なんでしょうか」
「納税。」
「まさか」
「理由はいくつか考えられるけれど、有力なのは2つね。1つ目は昨年の支払いを猶予してもらった。でも、そうなると借財しているのと同じだから今年からは上乗せになるでしょうね。で、もう1つは誰かが代わりに払ってくれた。おそらくこっちね」
「なぜですか。」
「ざっと書類を見た中で税の支払い通知書がなかったからよ」
「支払い関係の書類、たくさんありましたよね。そんなすぐに分かるものですか?」
「ふふ。見落としがないようにね、税の支払い通知書はね、赤い封筒と決まってるのよ。」
「なるほど。ですがどなたが払われたのでしょう」
「そんなの、あの方しかいらっしゃらないわ。」
「あの方?まさか」
「ええ。ケイビス様よ。彼が使用人たちへの給金の大部分の支払いと納税をしてくれてるのでしょうね。」
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