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「それは…」
「50エランくらいでどうでしょう」
ぱっと顔を上げたクレメントは嬉しそうにうなずいた。
「それなら何も問題はない」
アリアナはにっこり頷く。
「それでは成立でよろしいですか」
「ああ」
「ベス、契約書をお願い」
「はい」
ベスにしては珍しく書類の作成に手間取っているようで、声をかけてしばらくしてからクレメントの手元に契約書を置いた。クレメントは書類をよく見もせずにサインをして上機嫌のままアリアナに語りかけた。
「本当にありがとう。あなたが来てくれたおかげで助かったよ」
「いいえ。これからですわ」
にっこり微笑むとクレメントは不思議そうに首を傾げたが、アリアナがそのまま黙っていると甘いほほえみを浮かべた。
「クレメント様、私はもう少し考えたいことがありますので…」
暗に部屋から出ていけ、と告げるとクレメントは少し驚いたように、しかしこれ幸いといった様子で部屋を後にした。
「あんな奴に毎月50エランだなんて。どぶに大金捨てるようなものですよ」
「どぶなら勝手に借金しないけど、彼はやりかねないからね。どぶ以下かも…」
アリアナが答えると、クレメントに向いていたはずの怒りがアリアナにぶつけられた。
「なら、なぜお渡しになるのです!お嬢様のお金をあんな最低な奴に」
怒りの内側にアリアナを侮られていることへの悔しさが感じられて温かい気持ちになる。
「まあまあ。月50エランなんて私にしたら大した額じゃないわよ。でもある程度自由にできるお金与えておかないと本当に借金しかねないでしょう。あ、しまった…」
「どうされました?」
「爵位手に入れるの忘れてた…」
「と言いますと」
「領地は私名義になったんだけれど、爵位が私名義になってない。うーん3,500エランの借金完済の見返りにそれもつけておけばよかった」
「ああ、そのことですか」
平然とした様子のベスをアリアナが不思議そうに見つめると、ベスは先ほどクレメントがサインした書類をアリアナに手渡した。
項目には貴族銀行へアリアナの資金からの一括返済を行う旨、それに対して公爵家領地のアリアナへの名義変更及び爵位を含む財産権および財産管理権をアリアナへ移譲する旨が記されている。
「あれ?爵位を含む財産権ってこんな言葉私ベスに伝えたかしら?」
アリアナがきょとんとしてベスを見ると、ベスは今まで見たこともないような黒い笑顔を見せた。
「いえ、お嬢様がお忘れかと思いまして…僭越ながら付け加えさせていただきました。」
「あなたね…」
「勝手に作成したことのお叱りはいかようにもお受けいたします。ですが、爵位で貴族銀行から借財できると仰っていたにもかかわらず、爵位の移譲なくしての財産管理権など実質機能しないかと思いまして。お嬢様に確認したかったのですが、気付いたのがお渡しする直前だったので、慌てて作成しなおした次第でございます。まさかクレメント様のまえで確認もできなかったですから」
「ああ、だからあの時…ありがとう。助かったわ。」
苦笑いしながらお礼を言うしかないアリアナだったが、一つ心に誓った。
―ベスだけは敵に回すまい。―
「50エランくらいでどうでしょう」
ぱっと顔を上げたクレメントは嬉しそうにうなずいた。
「それなら何も問題はない」
アリアナはにっこり頷く。
「それでは成立でよろしいですか」
「ああ」
「ベス、契約書をお願い」
「はい」
ベスにしては珍しく書類の作成に手間取っているようで、声をかけてしばらくしてからクレメントの手元に契約書を置いた。クレメントは書類をよく見もせずにサインをして上機嫌のままアリアナに語りかけた。
「本当にありがとう。あなたが来てくれたおかげで助かったよ」
「いいえ。これからですわ」
にっこり微笑むとクレメントは不思議そうに首を傾げたが、アリアナがそのまま黙っていると甘いほほえみを浮かべた。
「クレメント様、私はもう少し考えたいことがありますので…」
暗に部屋から出ていけ、と告げるとクレメントは少し驚いたように、しかしこれ幸いといった様子で部屋を後にした。
「あんな奴に毎月50エランだなんて。どぶに大金捨てるようなものですよ」
「どぶなら勝手に借金しないけど、彼はやりかねないからね。どぶ以下かも…」
アリアナが答えると、クレメントに向いていたはずの怒りがアリアナにぶつけられた。
「なら、なぜお渡しになるのです!お嬢様のお金をあんな最低な奴に」
怒りの内側にアリアナを侮られていることへの悔しさが感じられて温かい気持ちになる。
「まあまあ。月50エランなんて私にしたら大した額じゃないわよ。でもある程度自由にできるお金与えておかないと本当に借金しかねないでしょう。あ、しまった…」
「どうされました?」
「爵位手に入れるの忘れてた…」
「と言いますと」
「領地は私名義になったんだけれど、爵位が私名義になってない。うーん3,500エランの借金完済の見返りにそれもつけておけばよかった」
「ああ、そのことですか」
平然とした様子のベスをアリアナが不思議そうに見つめると、ベスは先ほどクレメントがサインした書類をアリアナに手渡した。
項目には貴族銀行へアリアナの資金からの一括返済を行う旨、それに対して公爵家領地のアリアナへの名義変更及び爵位を含む財産権および財産管理権をアリアナへ移譲する旨が記されている。
「あれ?爵位を含む財産権ってこんな言葉私ベスに伝えたかしら?」
アリアナがきょとんとしてベスを見ると、ベスは今まで見たこともないような黒い笑顔を見せた。
「いえ、お嬢様がお忘れかと思いまして…僭越ながら付け加えさせていただきました。」
「あなたね…」
「勝手に作成したことのお叱りはいかようにもお受けいたします。ですが、爵位で貴族銀行から借財できると仰っていたにもかかわらず、爵位の移譲なくしての財産管理権など実質機能しないかと思いまして。お嬢様に確認したかったのですが、気付いたのがお渡しする直前だったので、慌てて作成しなおした次第でございます。まさかクレメント様のまえで確認もできなかったですから」
「ああ、だからあの時…ありがとう。助かったわ。」
苦笑いしながらお礼を言うしかないアリアナだったが、一つ心に誓った。
―ベスだけは敵に回すまい。―
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