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3人でその後ろ姿を見送ったあと、ケイビスはアリアナを覗き込むように見つめた。
「兄はいつもあの調子なのですか」
心配するような声音にアリアナはふるふると首を振る。
「いいえ。あのように怒鳴られたのは初めてです」
「なぜ…」
「クレメント様が賭場へ出入りできないようにしたものですから」
そう答えた瞬間、ケイビスは快活な笑い声を上げた。
「あの悪癖、私も両親も治そうとしましたが治らず…確かに入れないようにするのが手っ取り早いですね。」
「それよりケイビス様、先ほどと雰囲気が」
疑問に思っていたことを尋ねると、ケイビスは苦笑しながら答えた。
「素はこちらが近いのですが、この話し方だと兄は私と口をきこうとすらしませんので…」
「それは困りますね」
「はい。なので仕方なく、です。」
「ふふふ」
「アリアナ殿は大丈夫でしたか」
「え」
「いきなり一方的に怒鳴られたのです。さぞ怖い思いをなさったでしょう」
「確かに驚きましたが、大丈夫ですよ」
「そうですか。私では力不足かもしれませんが、経営のことだけでなくお力になれることがあればいつでもおっしゃってください。」
力強い瞳で言われてアリアナはにっこり微笑んだ。
「はい、頼りにしています」
「それでは、夜分に失礼しました。」
そう告げるとケイビスも部屋から出て行った。
ベスがそっと扉を閉めて、呟く。
「やっぱりケイビス様、いいですね」
反論する気も起きずに、そうね、と呟いたアリアナを見てベスは微苦笑した。
翌朝、再びクレメントがアリアナの部屋に訪れた。
「アリアナ、昨晩はすまなかった。酔ってあまり覚えていないのだが、ケイビスに暴言を吐いていた、と言われてな。謝罪にきたのだ。」
「覚えておられないことなら謝罪もけっこうですよ」
「そう言わないでくれ。」
「いえ、私は気にしておりませんし。それより賭場への出入りが出来ない件だけご承知いただければ」
「それなのだが、なんとかならないか」
「は?」
「…」
「つまり、借金を作っただけでは飽き足らない、と」
「いや、だが」
「ご承知のとおり、この家の財産管理権は私です。その上で申し上げますが、現在公爵家には酔狂で使えるようなお金は全くありません。」
「でも…」
「まあ、ご自身の体をおかけになるのであればお止めしませんが。」
「え」
「場末の賭場へのであればご自身の体を賭け金にできるところもあるのでは?詳しくは知りませんが」
冷たくアリアナが言い放つと、流石に分が悪いと感じたクレメントはすごすごと部屋から出て行った。
「兄はいつもあの調子なのですか」
心配するような声音にアリアナはふるふると首を振る。
「いいえ。あのように怒鳴られたのは初めてです」
「なぜ…」
「クレメント様が賭場へ出入りできないようにしたものですから」
そう答えた瞬間、ケイビスは快活な笑い声を上げた。
「あの悪癖、私も両親も治そうとしましたが治らず…確かに入れないようにするのが手っ取り早いですね。」
「それよりケイビス様、先ほどと雰囲気が」
疑問に思っていたことを尋ねると、ケイビスは苦笑しながら答えた。
「素はこちらが近いのですが、この話し方だと兄は私と口をきこうとすらしませんので…」
「それは困りますね」
「はい。なので仕方なく、です。」
「ふふふ」
「アリアナ殿は大丈夫でしたか」
「え」
「いきなり一方的に怒鳴られたのです。さぞ怖い思いをなさったでしょう」
「確かに驚きましたが、大丈夫ですよ」
「そうですか。私では力不足かもしれませんが、経営のことだけでなくお力になれることがあればいつでもおっしゃってください。」
力強い瞳で言われてアリアナはにっこり微笑んだ。
「はい、頼りにしています」
「それでは、夜分に失礼しました。」
そう告げるとケイビスも部屋から出て行った。
ベスがそっと扉を閉めて、呟く。
「やっぱりケイビス様、いいですね」
反論する気も起きずに、そうね、と呟いたアリアナを見てベスは微苦笑した。
翌朝、再びクレメントがアリアナの部屋に訪れた。
「アリアナ、昨晩はすまなかった。酔ってあまり覚えていないのだが、ケイビスに暴言を吐いていた、と言われてな。謝罪にきたのだ。」
「覚えておられないことなら謝罪もけっこうですよ」
「そう言わないでくれ。」
「いえ、私は気にしておりませんし。それより賭場への出入りが出来ない件だけご承知いただければ」
「それなのだが、なんとかならないか」
「は?」
「…」
「つまり、借金を作っただけでは飽き足らない、と」
「いや、だが」
「ご承知のとおり、この家の財産管理権は私です。その上で申し上げますが、現在公爵家には酔狂で使えるようなお金は全くありません。」
「でも…」
「まあ、ご自身の体をおかけになるのであればお止めしませんが。」
「え」
「場末の賭場へのであればご自身の体を賭け金にできるところもあるのでは?詳しくは知りませんが」
冷たくアリアナが言い放つと、流石に分が悪いと感じたクレメントはすごすごと部屋から出て行った。
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