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「なんか…哀れですわね」

悄然と肩を落として出ていったクレメントを見ながらベスが呟く。

「私、言い方きつかったかしら」
「いえ、言い方よりも内容かもしれません」
「でも、」

反論しようとした瞬間ベスはニヤリと笑った。

「哀れですが、全く同情はできませんね。さて、私は一言慰めに行ってまいります。」

同情しない、と言い切った次の瞬間クレメントを籠絡するために慰めの言葉を用意できるベスの切り替えの早さをアリアナは尊敬した。

「ごめんね、ベス」
「いいえ。私もクレメント様がアリアナ様から奪ったもの以上奪わないと気が済まないのです」

さらりと物騒なことを言い残して、ベスはクレメントの後を追いかけた。


その日の午後、ユージンがアリアナを訪ねてきた。

「姉さん、遊びに来たよ」

隣の部屋を訪れる気軽さで現れた弟に驚く。

「あら、急にどうしたの?」
「そろそろ俺に会いたくなるころかなって」
「まあ!でもちょうどよかったわ。ちょうどお礼を言わなくちゃと思ってたの」
「ああ、ベス?彼女も姉さんのこと好きだよね。どうすれば一番アリアナ様のためになりますか、って生真面目な顔で聞かれたよ」
「ありがとう」
「いいえ。お役に立てたなら何より。どう?この家は上手く行ってる?」
「実はけっこうガタガタなの。ケイビス様がいらっしゃったからギリギリのところで持ち堪えていたようなものよ」
「ああ、クレメント様にそっくりの?有能だって噂、本当だったの?」
「ええ」
「相手がケイビス様なら良かったのにね」

揃いも揃って同じことを言わないで欲しい。アリアナが憮然とした表情をするとユージンは楽しげに笑った。

「さてはベスにも言われたんだね」
「ええ。」

そして、アリアナはユージンに大切な話があったことを思い出した。

「あのね、領地経営を改善するため小麦と農機具が欲しいの。大量に仕入れるから取引先紹介してもらえないかしら」

キラリとユージンの目が光る。

「いいね。具体的な数とそっちで見積もってる金額を教えて。」

かくしてアリアナはケイビスとのやりとりを余すことなくユージンに伝えた。

「ふーん。ケイビス様、姉さんに気があるんじゃない?」

全てを聞き終えたユージンの第一声にアリアナは脱力しそうになる。

「何を聞いてそうなるのよ」
「いや、だって領民が貰って嬉しいのは、どう考えてもただで貰える小麦だよ?普通はそっちの方を領民の支持が得られるからってやりたがると思わない?それをあえて公爵家、いや姉さんに譲るのは好意があるから…いって」

すこんとアリアナに頭を叩かれたユージンは頭頂部を両手で押さえて蹲った。
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