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「それで、今日精算していただくことに決めました」
「精算?」
「ええ。」
「どう言う意味だ?」
「あら、こんな言葉もご存じないのですか?よく今まで会話が成り立っておりましたね」

くすりと笑いながら馬鹿にしたようにアリアナが言うと、クレメントはカッとして答えた。

「違う!どう言う意図で使っているのか聞いてるんだ!」
「どう言う意図もなにも…言葉通りの意味です。まあ含むところは色々ありますが…端的に言えば私のあなたへの恋心を傷つけた精算でしょうか」
「はっ…そんなくだらないことで何を大層に離縁などと」

その言葉を聞いたアリアナは可笑しそうに尋ねた。

「私に離縁されては困りますか」

その言葉にクレメントは、馬鹿にしたように笑った。先ほどまで見せていた狼狽が嘘のような変わり身の早さにアリアナは一種の感動すら覚える。

「困るとしたらあなたの方だろう。公爵家に捨てられた成金貴族の赤毛娘に再び嫁ぎ先なんてあるはずない」
「あら、私は別に再び嫁ぐ必要なんてないですよ?」
「なら一生実家の穀潰しか。親孝行な娘を持ったゾーイの両親に同情するよ」
「何か勘違いされているようですが…離縁してこの屋敷を身一つで出て行かなければいけないのは、あなたの方ですよ?」

一瞬唖然としたクレメントだが、次の瞬間に笑い始めた。

「髪色だけでなく頭の中までおかしくなったか?主の私を追い出すなどできるはずがないだろう」

あまりの堂々とした言い草に、アリアナは不思議そうに尋ねた。

「クレメント様って本当に愚かなのでしょうか?それとも愚かなふりをなさっていらっしゃるのですか?」
「なんだと」
「この公爵家の爵位、領地を含む財産は全て私の名義ですよ。借金返済の肩代わりに、そう契約書を交わしたのをお忘れですか」
「だが、あれは形だけのもののはずだ!あんなもの無効だ」
「形だけのものではありませんし、無効だとかあなたがおっしゃらないように、わざわざ法的に拘束力のある書面で締結したのです。だいたい不思議に思わないあなたもあなたです。本当に私があなたを愛しているなら、名義を寄越せなんて言うはずないじゃないですか。ましてや書類に残してまで…その時点で何の疑問もお持ちにならなかったので、本当に驚きました。」
 
淡々と説明するアリアナの様子に、ようやく自分の立場が分かったクレメントは顔面蒼白のまま絶句する。

「…」
「ああ、この人本当に馬鹿なんだな、と。まあ、そのおかげで私は目的を簡単に達成することができたのです」
「な、なんで、そこまで…」

絞り出すように尋ねた言葉にアリアナは軽快に微笑んで答えた。

「だって、借りは返さなくては失礼でしょう?」
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