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「本気なのか」

縋るように言われてアリアナはきょとんとした表情をした。

「本気以外の場合があると思うのですか?冗談でこんな邪魔くさいことするほど、私は酔狂ではありません」
「だが…あなたにこの公爵領を治めることができるのか。それに夫から爵位や領地を簒奪するような女が民に慕われるはずないだろう!」

クレメントの言葉を聞いたアリアナの瞳には、面白そうなからかうような色が浮かんだ。

「確かに私は領地を経営したことはありません。ですが、幸いどのような領主であろうと領民達には必ず好かれるかと思います。」

訝しげにアリアナを見たクレメントの瞳を覗き込むように見つめてアリアナは告げる。

「だって、あなたほど愚かな領主にはどうやってもなれそうにありませんもの。」
「なっ…」
「まさか、ご自身が民から慕われる人間であったなどと恥ずかしい勘違い、なさっていませんよね?あなたから領主が変わったとして、喜ばれることはあっても惜しまれることはありませんよ」
「そんなはず…」
「ない、と言い切れるほど領民の暮らしに貢献したのですか」

冷静に問われ、クレメントは言葉に詰まる。それでも何とか反論を試みようとした結果、発せられた言葉にアリアナは驚きを通り越して呆れた。

「だが、屋敷の使用人達は私の下で働きたがるはずだ!公爵家は給金も悪くない。だが、あなたに変わればそれが保証されるとも限らない…皆嫌がるだろうな」

その言葉を聞いて、アリアナは悲しそうな顔をした。それを見て勝ったとばかりにクレメントは笑みを浮かべる。

「分かったなら馬鹿なことを言わずに今まで通り…」
「本当に何もご存じないのですね。無知もそこまでいけば罪ですよ。」
「何のことだ」
「使用人達の給金の大部分はケイビスがご自身のポケットマネーから支払われているのですよ。それは知っておられるはずですが?」
「ああ、あいつが屋敷の人間に気に入られるために必要以上に支払ってるのはな。だが、そんなもので上乗せされている部分などたかが知れているはずだ。」

全く悪びれる様子のないクレメントの物言いに、アリアナは自分の中に湧き上がる残忍な感情を抑えきれなかった。

「本当に、ケイビス様はあなたのような方を兄に持って苦労されたことでしょうね」

溜め息を吐きながら、クレメントの最も嫌がる言葉を放つ。
途端に顔色がさっと変わり、クレメントはアリアナを怒鳴りつけた。

「うるさい!あいつの話をそれ以上するな!」
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