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本編【第二章】
2-30 アン視点
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旦那様と奥様の部屋へ向かう間、カレン様は一言も発しなかった。私も黙ったまま付き従う。部屋の前で何度か逡巡した後、意を決したように扉を叩いた。
「カレンです。父様、母様入ってもよろしいでしょうか」
一拍置いて旦那様の声が出て聞こえてくる。
「ああ。」
「失礼します。」
「カリーナから怪我をしたと聞いた。大丈夫なのか」
いつもと違い淡々とした様子で聞かれた旦那様だが、カレン様は気にするそぶりも見せなかった。
「はい。ご心配いただきありがとうございます…怪我のことも含めてお話したいことがございます。よろしいでしょうか」
「ああ。クレア、君も聞けるか」
穏やかな口調で奥様にも声をかけられた。奥様は涙で濡れた頬をそのままに頷かれる。
「まず、首の怪我の件ですが、私が姉様の顔を切りつけようとしたのが事の発端です。」
淡々と、しかし言葉の端々に後悔を滲ませながらカレン様は告げた。
「なに?」
旦那様は驚かれたようだ。
「姉様の美しさは幼い頃より私の憧れでした。でも、姉様はその美しさを煩わしく思っておられるようでした。それを私が許せなくて…こんなに私は姉様の容姿に焦がれているのに、と。悔しくて顔に傷をつけようとしたのです。でも、フォーゼム様が私から姉様を守られて。自棄になった私が自分の首を切ったのです。」
「カレン…」
奥様も旦那様も二の句がつなげないようだ。その様子を見てカレン様は自嘲気味に笑って続けた。
「私は本当に愚かです。姉様と一緒にいると自分の方がどうしても劣って見えて…いつか父様や母様の愛が姉様に向いてしまうのではないかと思うと怖くて。姉様が父様や母様から嫌われるようにしてしまった…私の言った姉様の悪口は全てありもしないことばかりでした。いえ、それどころか実際は、私がしたことを姉様に擦りつけていたのです。」
「そんな…カレン。あなたは私達を責めているの?」
取り乱したように奥様が叫ばれた。それを不思議そうにカレン様は眺めた。
「責めるとは?」
「だってそうでしょう?私たちに好かれるために、愛されるためにカリーナを貶めていたと言うことでしょう?そうしなければ自分に私達の愛が向かないと思って…」
奥様の言葉を途中で遮って、カレン様は静かに続けた。
「始まりは…たしかにそうだったのかもしれません。姉様と並んで自分が愛される方になれる自信がなかった。」
「カレンです。父様、母様入ってもよろしいでしょうか」
一拍置いて旦那様の声が出て聞こえてくる。
「ああ。」
「失礼します。」
「カリーナから怪我をしたと聞いた。大丈夫なのか」
いつもと違い淡々とした様子で聞かれた旦那様だが、カレン様は気にするそぶりも見せなかった。
「はい。ご心配いただきありがとうございます…怪我のことも含めてお話したいことがございます。よろしいでしょうか」
「ああ。クレア、君も聞けるか」
穏やかな口調で奥様にも声をかけられた。奥様は涙で濡れた頬をそのままに頷かれる。
「まず、首の怪我の件ですが、私が姉様の顔を切りつけようとしたのが事の発端です。」
淡々と、しかし言葉の端々に後悔を滲ませながらカレン様は告げた。
「なに?」
旦那様は驚かれたようだ。
「姉様の美しさは幼い頃より私の憧れでした。でも、姉様はその美しさを煩わしく思っておられるようでした。それを私が許せなくて…こんなに私は姉様の容姿に焦がれているのに、と。悔しくて顔に傷をつけようとしたのです。でも、フォーゼム様が私から姉様を守られて。自棄になった私が自分の首を切ったのです。」
「カレン…」
奥様も旦那様も二の句がつなげないようだ。その様子を見てカレン様は自嘲気味に笑って続けた。
「私は本当に愚かです。姉様と一緒にいると自分の方がどうしても劣って見えて…いつか父様や母様の愛が姉様に向いてしまうのではないかと思うと怖くて。姉様が父様や母様から嫌われるようにしてしまった…私の言った姉様の悪口は全てありもしないことばかりでした。いえ、それどころか実際は、私がしたことを姉様に擦りつけていたのです。」
「そんな…カレン。あなたは私達を責めているの?」
取り乱したように奥様が叫ばれた。それを不思議そうにカレン様は眺めた。
「責めるとは?」
「だってそうでしょう?私たちに好かれるために、愛されるためにカリーナを貶めていたと言うことでしょう?そうしなければ自分に私達の愛が向かないと思って…」
奥様の言葉を途中で遮って、カレン様は静かに続けた。
「始まりは…たしかにそうだったのかもしれません。姉様と並んで自分が愛される方になれる自信がなかった。」
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