【完結】悪女のなみだ

じじ

文字の大きさ
57 / 91
本編【第二章】

2-30 アン視点

しおりを挟む
旦那様と奥様の部屋へ向かう間、カレン様は一言も発しなかった。私も黙ったまま付き従う。部屋の前で何度か逡巡した後、意を決したように扉を叩いた。

「カレンです。父様、母様入ってもよろしいでしょうか」

一拍置いて旦那様の声が出て聞こえてくる。

「ああ。」
「失礼します。」
「カリーナから怪我をしたと聞いた。大丈夫なのか」

いつもと違い淡々とした様子で聞かれた旦那様だが、カレン様は気にするそぶりも見せなかった。

「はい。ご心配いただきありがとうございます…怪我のことも含めてお話したいことがございます。よろしいでしょうか」
「ああ。クレア、君も聞けるか」

穏やかな口調で奥様にも声をかけられた。奥様は涙で濡れた頬をそのままに頷かれる。

「まず、首の怪我の件ですが、私が姉様の顔を切りつけようとしたのが事の発端です。」

淡々と、しかし言葉の端々に後悔を滲ませながらカレン様は告げた。

「なに?」

旦那様は驚かれたようだ。

「姉様の美しさは幼い頃より私の憧れでした。でも、姉様はその美しさを煩わしく思っておられるようでした。それを私が許せなくて…こんなに私は姉様の容姿に焦がれているのに、と。悔しくて顔に傷をつけようとしたのです。でも、フォーゼム様が私から姉様を守られて。自棄になった私が自分の首を切ったのです。」
「カレン…」

奥様も旦那様も二の句がつなげないようだ。その様子を見てカレン様は自嘲気味に笑って続けた。

「私は本当に愚かです。姉様と一緒にいると自分の方がどうしても劣って見えて…いつか父様や母様の愛が姉様に向いてしまうのではないかと思うと怖くて。姉様が父様や母様から嫌われるようにしてしまった…私の言った姉様の悪口は全てありもしないことばかりでした。いえ、それどころか実際は、私がしたことを姉様に擦りつけていたのです。」
「そんな…カレン。あなたは私達を責めているの?」

取り乱したように奥様が叫ばれた。それを不思議そうにカレン様は眺めた。

「責めるとは?」
「だってそうでしょう?私たちに好かれるために、愛されるためにカリーナを貶めていたと言うことでしょう?そうしなければ自分に私達の愛が向かないと思って…」

奥様の言葉を途中で遮って、カレン様は静かに続けた。

「始まりは…たしかにそうだったのかもしれません。姉様と並んで自分がになれる自信がなかった。」
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

婚約破棄令嬢、不敵に笑いながら敬愛する伯爵の元へ

あめり
恋愛
 侯爵令嬢のアイリーンは国外追放の罰を受けた。しかしそれは、周到な準備をしていた彼女の計画だった。乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった、早乙女 千里は自らの破滅を回避する為に、自分の育った親元を離れる必要があったのだ。 「よし、これで準備は万端ね。敬愛する伯爵様の元へ行きましょ」  彼女は隣国の慈悲深い伯爵、アルガスの元へと意気揚々と向かった。自らの幸せを手にする為に。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...