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20 侍医女官の話③
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なるほど。確かに胎動を感じないと言うのは、母親にとってはすごく不安なことなのだろう。だが、それだけでお腹の子に何かある、とすぐに結論づけるのも無理があるわけか。
考え込む蔡怜に州芳は続けた。
「本格的に陣痛が始まり、奏輝達側付きの侍女と入れ替わる形で私達侍医女官と侍医が前皇后様のお側につかせて頂きました。前皇后様は段々強くなる痛みにも落ち着いて耐えておられました。
本来ご出産の際は、痛みで取り乱してしまわれる可能性もございますので、かんざしのようなものはお側には置かないようにお願いしてございます。ただ、前皇后様は皇帝陛下よりご婚約の際に贈られました真珠と珊瑚のかんざしを常よりお使いになっておられました。それだけはどうしても見える位置に置いておきたいとおっしゃられましたので、お側に置かせていただきました。
苦しい陣痛の波が来るたびにちらっとかんざしをご覧になっては痛みに耐えられておりました。ご額に汗を浮かべながらも、かんざしをご覧になっては陛下に見守られているようだ、と笑っておられました。」
蔡怜に聞かせるというよりは、当時の様子を独白するかのように、州芳は話続ける。
「美しい笑顔でした。ああ、これから母になる方はこういう顔をされるのだな、と思ったものです。
もとより、美しく優しい女人として評判の方ではございましたが、その時は本当に天女が舞い降りたようでございました。」
図抜けて美しい州芳にそこまで言わせる前皇后を一度見てみたかったものだな、と蔡怜は関係のないことを考える。
「一際強い陣痛とともに、御子の頭が出てきました。その時に私も侍医も臍の緒が巻き付いていることに気がつきました。そして、次の陣痛で御子はお生まれになりました。御子を取り上げた我々はすでにお亡くなりであることがすぐに分かりました。
前皇后様は肩で息をなさりながら、男の子か女の子かを嬉しそうにお聞きになられました。
我々が答えられずにいると、不安そうに産声が聞こえないわ、とおっしゃいました。
侍医が努めて冷静な声で、御子がお亡くなりの状態でお生まれになった旨を伝えました。
その瞬間です。御子を侍医の手から奪い取ると同時に腕に抱き、そのままの勢いにかんざしを手に取られ、一切の躊躇いも見せず、喉をお突きになられたのです。」
想像していたより、凄絶な最期だ。十月十日お腹で育てた命を失うということは、母親にとって耐えがたい苦しみだったのだろう。でも、残酷な言い方だが、子は再び授かることもできるはず…。
尋ねようとした蔡怜を制するかのように州芳は、とどめの一言を放った。
「前皇后様は元来お体が弱く、二度は御子を望めないことをご承知だったのです。」
考え込む蔡怜に州芳は続けた。
「本格的に陣痛が始まり、奏輝達側付きの侍女と入れ替わる形で私達侍医女官と侍医が前皇后様のお側につかせて頂きました。前皇后様は段々強くなる痛みにも落ち着いて耐えておられました。
本来ご出産の際は、痛みで取り乱してしまわれる可能性もございますので、かんざしのようなものはお側には置かないようにお願いしてございます。ただ、前皇后様は皇帝陛下よりご婚約の際に贈られました真珠と珊瑚のかんざしを常よりお使いになっておられました。それだけはどうしても見える位置に置いておきたいとおっしゃられましたので、お側に置かせていただきました。
苦しい陣痛の波が来るたびにちらっとかんざしをご覧になっては痛みに耐えられておりました。ご額に汗を浮かべながらも、かんざしをご覧になっては陛下に見守られているようだ、と笑っておられました。」
蔡怜に聞かせるというよりは、当時の様子を独白するかのように、州芳は話続ける。
「美しい笑顔でした。ああ、これから母になる方はこういう顔をされるのだな、と思ったものです。
もとより、美しく優しい女人として評判の方ではございましたが、その時は本当に天女が舞い降りたようでございました。」
図抜けて美しい州芳にそこまで言わせる前皇后を一度見てみたかったものだな、と蔡怜は関係のないことを考える。
「一際強い陣痛とともに、御子の頭が出てきました。その時に私も侍医も臍の緒が巻き付いていることに気がつきました。そして、次の陣痛で御子はお生まれになりました。御子を取り上げた我々はすでにお亡くなりであることがすぐに分かりました。
前皇后様は肩で息をなさりながら、男の子か女の子かを嬉しそうにお聞きになられました。
我々が答えられずにいると、不安そうに産声が聞こえないわ、とおっしゃいました。
侍医が努めて冷静な声で、御子がお亡くなりの状態でお生まれになった旨を伝えました。
その瞬間です。御子を侍医の手から奪い取ると同時に腕に抱き、そのままの勢いにかんざしを手に取られ、一切の躊躇いも見せず、喉をお突きになられたのです。」
想像していたより、凄絶な最期だ。十月十日お腹で育てた命を失うということは、母親にとって耐えがたい苦しみだったのだろう。でも、残酷な言い方だが、子は再び授かることもできるはず…。
尋ねようとした蔡怜を制するかのように州芳は、とどめの一言を放った。
「前皇后様は元来お体が弱く、二度は御子を望めないことをご承知だったのです。」
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