後宮にて、あなたを想う

じじ

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32 蔡怜と黄昭

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「黄貴妃様がいらっしゃいました。」

椅子に座りお茶を飲んで待っていた蔡怜に、奏輝そうきが告げた。

「ようこそおいでくださいました、黄昭様。」
「お忙しいところ、連日のようにお邪魔してしまい申し訳ございません。」
「頼み事をして黄昭様のお手を煩わせているのは、私の方でございます。どうぞお気になさらず。」
「お心遣い感謝いたします。本題に入らせていただく前に一つよろしいでしょうか。」
「ええ。」
管修媛かんしゅうえん様を後ほど同席させていただきたい理由を先にお伝えしておこうと思いまして。
蔡怜様にお願いされました件について、前皇后様及び側妃様方のことをお調べしているうちに、一つ面白い事実を発見しました。」
「まあ、どのようなことでしょう。」
「どうやら、湖月様と水月様のご実家であられる陳家は管修媛様のご実家とお取引があったようでございます。」
「それは、今回管修媛様のご実家が貴族位を賜られたことと関係があるのでしょうか。」
「いえ、おそらく直接の関係はないかと思います。管家の貴族取り立ては、純粋にご実家の国への貢献と入宮への要件を満たすためだと思われます。なので、管修媛様自体を特別警戒なさる必要はないかと。」

よかった、と思わず蔡怜は息をついた。

ただでさえ皇帝からの頼み事で手一杯なのに、湖月水月姉妹と管家の姫に暗い繋がりでもあろうものなら、目も当てられない…というか、万が一あったとしても絶対関わりたくない。

「そのように心配なさらずとも、管修媛様は利発で明るいお人柄、万が一管家と陳家に関わりがあったとしても、修媛様ご自身は無関係でいらっしゃいましょう。」
「そうでございますね。」

考え事をしながら黄貴妃の話を聞いていたため、うっかり同意してしまった蔡怜はふと我に帰った。

え。私自分の考え、もしかして独り言で口にだしてた?

「失礼ながら表情に出ておられます。蔡怜様は、意外に分かりやすいお方でいらっしゃいますね。」

続けて言い当てられた蔡怜は、観念するように頭を一つ振って、困った顔で黄貴妃に答えた。

「悩み事があまりなさそう、とは周りからよく言われたのですが、黄昭様には悩みの有無のみならず、内容までお見通しのようです。」
「ご冗談を。黄島におりました時分より蔡怜様のご聡明さは漏れ聞こえておいででした。ご多忙のご両親に変わって領地の運営の一旦を担っておられたとか。悩みがないなどとご謙遜を。」
「いえ、そんな。」

ここまでくると苦笑いするしかない蔡怜だった。




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