後宮にて、あなたを想う

じじ

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117 道中

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 翌朝、黄怜は奏輝とともに身支度を整えると、皇帝の用意した馬車へと乗り込んだ。常より口数の少ない黄怜を気遣うように奏輝はにこやかに話しかけた。

「後宮から外出する機会はなかなかありませんので、少し楽しみですね」
「そうね…王宮や庭には出ることがあっても、敷地から外に出るのは本当に久しぶりだわ。毎日黒鈴で野山を駆け回ってたのが遠い昔のことみたい。」
「黄怜様が常よりお静かなのは、黒鈴殿に乗れなかったからでしょうか」

 優しく問われ、黄怜は苦笑しながら首を横に振る。

「もちろん、黒鈴に乗れなかったのは残念だけど…そうではなくて律佳様のことを考えていたの。」
「それは…」
「後宮を去られた方に、後宮でのお辛い話しをお聞きするのは…やはり気が重いわ」
「ええ。」
「律佳様だって同じお気持ちのはず。でもそのお気持ちを押し殺して私と会ってくださることに感謝している…はずなのだけれど…本音では私は会いたくないのかもしれない。昔のこととはいえ、陛下との間に子をもうけられた女人と。」

 困ったように話す黄怜に、奏輝は優しげな笑みを浮かべた。

「あら、黄怜様。そのお言葉は全て片がついたら陛下に仰ることです。陛下はその辺り鈍くてらっしゃるから、お言葉にしなければ全く気づかれませんよ。」
「でも、律佳様とお会いしたいと望んだのは私だもの。文句は言えないわ」
「そもそも、そのようなことになる可能性があることを、新しいお妃様に頼むこと自体が問題あると思います。まあ、陛下はこれほど黄怜様のことをご自身の中で大切な存在になると分かっていらっしゃらなかったから、なのでしょうが」
「程の良い小間使いみたいなものだったのね、きっと」
「流石にそれはないでしょうけれど…ですがお気持ちの変化で言えば黄怜様の方が大きいのではありませんか。まさか陛下にこれほど深い愛をお抱きになるなど、お仕えした当初は想像もしませんでした」
「私、そんなに態度に出ていたのかしら」
「控えめに申し上げて、やる気がなかった、でしょうか」

控えめな表現ですら相当な言い草なのに、と黄怜は戦々恐々として尋ねた。

「ちなみに控えめじゃなかったら?」
「それはもう…迷惑なことこの上ない、といった感じでしょうか」
「私、陛下に謝ろうかしら」

真面目に呟く黄怜を見て、奏輝は曖昧に答えた。

「まあ、蒸し返されたら返って陛下も落ち込まれるかもしれませんし、そっとしておいては」

その言葉を聞いて、黄怜は静かに反省した。
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