後宮にて、あなたを想う

じじ

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116 黄怜

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皇帝とともに蔡怜の部屋を出た黄貴妃は、署名がなされた紙をぱたぱたとはためかせながら、皇帝に話しかけた。

「良かったですわね」
「ああ」
「この紙、後ほど黄島に送ります」
「ああ」
「みっともなく泣いて縋らずにすんで何よりでした」
「ああ」
「私の話、聞いていますか?」
「ああ」

皇帝が完全に惚けているのを確認して黄貴妃は溜め息をついた。

「陛下、私はこれで失礼いたします」

ようやく黄貴妃の方に向き直った皇帝はへらっと笑う。その様子をげんなりした表情で見つめながら、黄貴妃は頭を下げて自室に戻った。



皇帝と黄貴妃が部屋を去った後、蔡怜は戻ってきた奏輝にことのあらましを告げた。

「まあ、それでは今後は黄怜様とお呼びすればよろしいでしょうか」
「ええ」
「いつ皆様にお伝えされるのでしょう」
「陛下が主たる高官には今日中にお伝えになる、と」
「左様でございますか。側妃様方には」
「それはもう少し後でも構わないと思う」
「しかし、ずいぶんと性急でございますね」
「やっぱりあなたもそう思う?」
「はい。手続き自体は複雑ではありませんが、たいていこのようなことは互いの親族のすり合わせなどが必要となるため時間がかかるものですし」
「そうよね。」
「まあ、陛下も貴妃様も黄怜様をお守りするための最善の策と判断された以上、お任せするしかありません」
「ええ」
「それより、我々は明日に備えておきましょう。」
「そうね。」
「律佳様にお話をお聞きになることで、解決に近づくかもしれませんね」
「ええ、そうだといいのだけれど…ただ今更後宮の話をお聞きして、要らぬ負担をかけることにならないかしら」
「弦陽様が承諾されたことですし、律佳様もご承知の上でのことです。そこまで黄怜様が心配されずとも大丈夫でしょう。それより私は黄怜様の方が心配です。」
「私?」

きょとんとした顔で尋ねる黄怜に奏輝は困ったように微笑んだ。

「後宮に来られてご心労もある中で、ご実家のことのみならず、黄家の養女となられるなど、黄怜様を取り巻く環境が大きく変化しているのです。今は色々なことにお気持ちが張り詰めておいでかもしれませんが、どうかご自身のことも労わってくださいませ。」
「…ありがとう。あなたに心配をかけていたのね。」

少し照れたように黄怜が答えると奏輝は微笑んで頷いた。

「大切な主人ですから。それでは今日は早めにお休みくださいませ。ご用があればお呼びつけください。すぐに参りますので」

普段は黄怜の側から離れたがらない奏輝が珍しくそう言い置いて部屋を出ていく。
よほど、一人になりたいと言う表情をしていたのだろうか、と黄怜は少し申し訳なく思った。


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