後宮にて、あなたを想う

じじ

文字の大きさ
134 / 159

133 庇う心

しおりを挟む
「…先ほど申し上げた通りでございます。」

表情を変えることなく答えた州芳に、皇帝は重ねて問うた。

「事実を話せ。」

冷たく言い放たれた言葉に、しかし怯むことなく州芳は答えた。

「事実にございます。」

その様子を見て皇帝は不敵な笑みを浮かべた。

「そなたのその心遣いを相手が喜ぶと思うのか」

その言葉に州芳は一瞬、顔色を変えた。その変化を皇帝は見逃さなかった。

「やはりな。」

皇帝がそう呟いた瞬間、二人の間に枯れた老人の声が割って入った。

「州芳、もうよしなさい」
「先生…」

ぎょっとした様子で州芳が入り口を振り返ると、侍医が落ち着いた様子で部屋に入ってきた。

「陛下、お話中申し訳ございませぬ」
「いや…久しいな」
「本当に。陛下は頑健な身体をお持ちゆえ、私は久しく仕事がありませんでしたぞ。」

柔らかな声音で場に似つかわない軽口を言われた皇帝は柔らかに微笑んだ。その表情を崩さないまま、侍医に尋ねる。

「私の妃と子ども達が亡くなった理由はそなたか?」

問われた侍医は表情を変えることなく穏やかな声で答えた。

「仰る通りでございます」
「先生…違います!私が…」
「州芳、黙りなさい」

厳しい声で州芳を叱りつけた侍医は、すぐに元の穏やかな声で皇帝に答えた。

「陛下、言い訳も弁明もする気はございません。ただ先に事実はお伝えさせてください」
「いいだろう」
「まず、前皇后様と御子、律佳様と御子に関しては不幸な事故としか言いようがございませんでした。手を尽くしましたが、それでも救えなかった咎は私にあります」

頷くことなく侍医を見つめる皇帝の視線に臆することなく侍医は続けた。

「陳家のご姉妹とその御子方は私が殺しました。州芳は私の指示に従ったにすぎません」
「違います、私が…」
「黙れと言っておる。今、陛下は私に問われているのだ。口を開くな。陛下申し訳ございませぬ」

先ほどより遥かに厳しい叱責に、州芳は青ざめた表情のまま、ぽろぽろと涙を流した。その背中を黄怜は優しくさする。その様子をちらりと見た皇帝は、視線を侍医に戻して尋ねた。

「なぜだ」
「なぜ陳家のご姉妹と御子方を殺めたか、ということでしょうか」
「ああ。」
「彼女達に私の…最愛の娘を殺されたからです」
「…そなたに子はおらぬと思っていたが」
「はい。血の繋がりはございません」
「初めて聞いたが」
「ええ。知っている者はほとんどおりませんので。」
「その者とは?」
「紅霞と申す者です」

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

処理中です...