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第二章
その月から賜る願いと褒美 5
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入れ替わるように、お茶を運んできたのは先ほど会った雪乃だった。
長兄のいる間に間に合わなかったことを詫びながら、紅茶を瑞華と風人の前に出してくれる。
部屋に入って来た瞬間、なんとも言えず柔らかな空気が浸透して、思わず息を潜めた。
どこか艶のある雰囲気は月人さんと面影が重なり、さらりと長い髪が静かに揺れる。
このタイミングで来てくれたことに、思わず感謝した。
所作や仕種に人柄が浮き出るというが、まさにこのこと。
先日の居酒屋で、私を褒めた男子学生も、この子を知らないからだ。
人が憧れる女性、ってこういう子じゃないだろうか。
そう思いながら、心が穏やかになっていくのを感じた。
月人さんから渡された茶封筒には、婚約者の方の連絡先や経歴などが記載された紙が入っている。
確認してから、名刺と共に大切にしまう。
未来への希望になるかは分からないけれど、それが自分を認めてもらって与えられた仕事であることに違いない。
少しばかり、誇らしい。
雪乃はお茶を置くとふんわり笑って
「どうぞ、ごゆっくりされていって下さいませ」
「どうも、ありがとう」
つられて微笑みが浮かんでしまった。
静かに雪乃が立ち去り姿まで見送れば…
瑞華はなんともご満悦ご満足の気分になる。
とりあえず目の前に九条風人がいることを除けば。
端麗な妹がいる間はなんとも優しげな表情だったこの男も、瑞華の心のオアシスになった少女が去ると容赦も遠慮もなかった。
「アンタってうちの兄貴の事、好きだったんだね」
くすり、笑われれば
とうとうこの時が来たとばかりに瑞華は緊張した。
昨日の今日で、優しい対応など期待できるものではないということは分かっていた。
「言っておきますけど、恋なんて身の程知らずな欲なんてありませんから。憧れの人なんです。悪いですか?素敵な人だもの」
ふん、と強気に言えば、目を丸くしてから、くすりと笑われた。
そのまま立ち上がったかと思うと横に座られる。急接近されて体を強張らせると、耳元に優しく囁かれた。
「瑞華は健気だね。だけど妬かせるなよ。アンタがどっち向いてるか、こっちは気が気じゃないんだから」
はぁ!?
かあっと赤くなる耳を押さえて飛びのき、ソファーの反対側まで走ってから睨みつけた。
「何するんですか!?それに呼び捨て!!」
恐らく真っ赤になっているはずの顔で叫べば、ますます楽しそうに表情を綻ばせる。
「嫌だな。話、理解してなかったの?アンタは俺が懸想してる相手で、そっちは俺を悪しからず思ってる、つまりは恋人未満の設定だろ?呼び方くらい普段から変えとかないと、ボロが出たら困るでしょ。それに懸想されるならされてるらしく、多少の甘い言葉にくらい慣れてもらわなきゃ、それらしくならないぜ?」
馬鹿にするような黒い笑みは、絶対にわざとだと確信させるのには充分だった。
これは確実に遊ばれてる。
長兄のいる間に間に合わなかったことを詫びながら、紅茶を瑞華と風人の前に出してくれる。
部屋に入って来た瞬間、なんとも言えず柔らかな空気が浸透して、思わず息を潜めた。
どこか艶のある雰囲気は月人さんと面影が重なり、さらりと長い髪が静かに揺れる。
このタイミングで来てくれたことに、思わず感謝した。
所作や仕種に人柄が浮き出るというが、まさにこのこと。
先日の居酒屋で、私を褒めた男子学生も、この子を知らないからだ。
人が憧れる女性、ってこういう子じゃないだろうか。
そう思いながら、心が穏やかになっていくのを感じた。
月人さんから渡された茶封筒には、婚約者の方の連絡先や経歴などが記載された紙が入っている。
確認してから、名刺と共に大切にしまう。
未来への希望になるかは分からないけれど、それが自分を認めてもらって与えられた仕事であることに違いない。
少しばかり、誇らしい。
雪乃はお茶を置くとふんわり笑って
「どうぞ、ごゆっくりされていって下さいませ」
「どうも、ありがとう」
つられて微笑みが浮かんでしまった。
静かに雪乃が立ち去り姿まで見送れば…
瑞華はなんともご満悦ご満足の気分になる。
とりあえず目の前に九条風人がいることを除けば。
端麗な妹がいる間はなんとも優しげな表情だったこの男も、瑞華の心のオアシスになった少女が去ると容赦も遠慮もなかった。
「アンタってうちの兄貴の事、好きだったんだね」
くすり、笑われれば
とうとうこの時が来たとばかりに瑞華は緊張した。
昨日の今日で、優しい対応など期待できるものではないということは分かっていた。
「言っておきますけど、恋なんて身の程知らずな欲なんてありませんから。憧れの人なんです。悪いですか?素敵な人だもの」
ふん、と強気に言えば、目を丸くしてから、くすりと笑われた。
そのまま立ち上がったかと思うと横に座られる。急接近されて体を強張らせると、耳元に優しく囁かれた。
「瑞華は健気だね。だけど妬かせるなよ。アンタがどっち向いてるか、こっちは気が気じゃないんだから」
はぁ!?
かあっと赤くなる耳を押さえて飛びのき、ソファーの反対側まで走ってから睨みつけた。
「何するんですか!?それに呼び捨て!!」
恐らく真っ赤になっているはずの顔で叫べば、ますます楽しそうに表情を綻ばせる。
「嫌だな。話、理解してなかったの?アンタは俺が懸想してる相手で、そっちは俺を悪しからず思ってる、つまりは恋人未満の設定だろ?呼び方くらい普段から変えとかないと、ボロが出たら困るでしょ。それに懸想されるならされてるらしく、多少の甘い言葉にくらい慣れてもらわなきゃ、それらしくならないぜ?」
馬鹿にするような黒い笑みは、絶対にわざとだと確信させるのには充分だった。
これは確実に遊ばれてる。
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