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第二章
その月から賜る願いと褒美 4
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言われてる言葉に意味を理解するのに時間がかかってしまったことを誰が責めることが出来るだろうか。
間を置いてから絶句してしまい、思わず九条風人の方に視線を向けるが、既に明後日の方を向いている。
なんで自分の話なのにその態度なの!?と心の中だけで突っこんだ。
「よろしければ、瑞華さんの方にも悪しからず思う気持ちがあるということにしていただければ、より結構。兄である私の婚約者と出歩くのも不自然ではありません」
…足された言葉も確かにごもっともな話だった。
そして花宮の両親の性格を考えても。
優秀で家柄も良い九条家の次男である風人さんが、自分の娘に想いを寄せているなんて聞いたら、諸手を上げて喜びそうなものである。
鷹羽氏への気兼ねは多少あるかもしれないが、下手に出た申し出には自尊心さえくすぐられるだろう。
別にすぐに乗り替えるわけでもないから、まあいいか、位だろうか。
もし鷹羽氏にばれて縁を切られて会社がダメになっても九条家の身内となれば安泰だとくらい軽く考えそうである。
いや、あくまで作り話なのだから、安泰になることはないんだけど。
「そ、それは。お礼だとしても、あまりにもご迷惑になるのではないでしょうか?」
「迷惑など。却ってこれの手腕を見る良い機会だ」
「と、言うと…?」
月人さんは、眼鏡の位置を正すように指で軽く押すと、目を細めた。
「弟も来年からは九条グループの一翼を担う立場。ご了承頂けるなら華屋の経営再建の企画、実行は風人に一任するつもりです」
「一任ですか…?!」
「鷹羽氏とある程度付き合いを続けていくおつもりなら、そこに九条の人間が頻繁に立ち入って経営に口を出せば問題にもなりやすい。そこはまだ学生の風人ならば目にも付きにくく、角が立ちにくいということもある。そういった話を花宮のご両親は不快に思われますか?」
「両親は…」
両親はきっと。大喜びで受けそう、デス。
瑞華は心の中で大きなため息をついた。
鷹羽氏に内緒で、九条家の優秀なご子息を娘の相手として両天秤にかける。
そういったことに悪びれるような人達ではない。
『より幸せになれる相手を選べるなんて幸せで幸運な娘だ』と本気で思うだろう。
それはもう実に楽しそうに、会社の内部までこっそり九条風人を招き入れて、どうぞどうぞしそうだ。
私の両親って、本当に経営者なんだろうか。守るべき正当性とか信念とか、どうしたんだろうと悲しくなった。
「…大丈夫だと思います」
瑞華が言うと、月人は頷いてから弟の方を見た。
「風人、何か意見はあるか?」
「意見も何も、どうせ決定事項でしょうが」
そっぽを向いたまま答える弟に、美しい微笑みが返った。
風人にとっては禍々しいほどに美しい笑みだ。
「無論。その程度はなし得てもらわなければ困る。情けない結果など出して、九条の末席にもいれると思うな」
「了解」
やれやれとようやく風人が正面を向くと、改めて九条家の次期様と呼ばれる人は瑞華を見つめた。
「では、決まりということで」
「え」
「申し訳ないが、仕事が残っておりますので、私はこれで会社に戻らせて頂きます」
てっきり最後は瑞華に確認をされると思っていたが、話は済んだと言った様子で月人が立ち上がった。
懸想云々の件まで承諾したつもりはなかったのでどうしようと慌てた所に。
「何か困ったことがあれば、ここに」
鮮やかな笑顔で書類が入っているような封筒とプライベートナンバーが記載された名刺を手渡されて、思わず瑞華は言葉を飲み込んだ。
小さな紙なのに、九条月人さんのプライベートナンバーなんて、手にするなんて思ってもいなかったのだから威力が半端ない。
「あとはお前に任せる。期待に応えるように」
そう弟へと言葉を掛けて。
瑞華の憧れである九条月人氏は、その部屋から去っていった
間を置いてから絶句してしまい、思わず九条風人の方に視線を向けるが、既に明後日の方を向いている。
なんで自分の話なのにその態度なの!?と心の中だけで突っこんだ。
「よろしければ、瑞華さんの方にも悪しからず思う気持ちがあるということにしていただければ、より結構。兄である私の婚約者と出歩くのも不自然ではありません」
…足された言葉も確かにごもっともな話だった。
そして花宮の両親の性格を考えても。
優秀で家柄も良い九条家の次男である風人さんが、自分の娘に想いを寄せているなんて聞いたら、諸手を上げて喜びそうなものである。
鷹羽氏への気兼ねは多少あるかもしれないが、下手に出た申し出には自尊心さえくすぐられるだろう。
別にすぐに乗り替えるわけでもないから、まあいいか、位だろうか。
もし鷹羽氏にばれて縁を切られて会社がダメになっても九条家の身内となれば安泰だとくらい軽く考えそうである。
いや、あくまで作り話なのだから、安泰になることはないんだけど。
「そ、それは。お礼だとしても、あまりにもご迷惑になるのではないでしょうか?」
「迷惑など。却ってこれの手腕を見る良い機会だ」
「と、言うと…?」
月人さんは、眼鏡の位置を正すように指で軽く押すと、目を細めた。
「弟も来年からは九条グループの一翼を担う立場。ご了承頂けるなら華屋の経営再建の企画、実行は風人に一任するつもりです」
「一任ですか…?!」
「鷹羽氏とある程度付き合いを続けていくおつもりなら、そこに九条の人間が頻繁に立ち入って経営に口を出せば問題にもなりやすい。そこはまだ学生の風人ならば目にも付きにくく、角が立ちにくいということもある。そういった話を花宮のご両親は不快に思われますか?」
「両親は…」
両親はきっと。大喜びで受けそう、デス。
瑞華は心の中で大きなため息をついた。
鷹羽氏に内緒で、九条家の優秀なご子息を娘の相手として両天秤にかける。
そういったことに悪びれるような人達ではない。
『より幸せになれる相手を選べるなんて幸せで幸運な娘だ』と本気で思うだろう。
それはもう実に楽しそうに、会社の内部までこっそり九条風人を招き入れて、どうぞどうぞしそうだ。
私の両親って、本当に経営者なんだろうか。守るべき正当性とか信念とか、どうしたんだろうと悲しくなった。
「…大丈夫だと思います」
瑞華が言うと、月人は頷いてから弟の方を見た。
「風人、何か意見はあるか?」
「意見も何も、どうせ決定事項でしょうが」
そっぽを向いたまま答える弟に、美しい微笑みが返った。
風人にとっては禍々しいほどに美しい笑みだ。
「無論。その程度はなし得てもらわなければ困る。情けない結果など出して、九条の末席にもいれると思うな」
「了解」
やれやれとようやく風人が正面を向くと、改めて九条家の次期様と呼ばれる人は瑞華を見つめた。
「では、決まりということで」
「え」
「申し訳ないが、仕事が残っておりますので、私はこれで会社に戻らせて頂きます」
てっきり最後は瑞華に確認をされると思っていたが、話は済んだと言った様子で月人が立ち上がった。
懸想云々の件まで承諾したつもりはなかったのでどうしようと慌てた所に。
「何か困ったことがあれば、ここに」
鮮やかな笑顔で書類が入っているような封筒とプライベートナンバーが記載された名刺を手渡されて、思わず瑞華は言葉を飲み込んだ。
小さな紙なのに、九条月人さんのプライベートナンバーなんて、手にするなんて思ってもいなかったのだから威力が半端ない。
「あとはお前に任せる。期待に応えるように」
そう弟へと言葉を掛けて。
瑞華の憧れである九条月人氏は、その部屋から去っていった
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