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第二章
その月から賜る願いと褒美 3
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最初に感じた嫌な予感の先にあるものとは、全く違う答えが出た気もするものの。
そう、これはお礼なのだ。そのことに改めて気づいた。
いくらお花畑思考の両親であっても。
九条グループからの申し出とはいえ、娘と結婚して一生華屋の面倒まで見る気がある鷹羽一王と手を切る気になるとは思えない。
勿論お礼は喜んで受け取るだろうが、すぐに鷹羽氏と相談するはずだ。
九条グループからのお礼を、どのようにすべきかと。
そう思えば、瑞華は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
「何か問題でもおありですか?」
「いえ」
瑞華は首を振った。
今でも現状、華屋の経営は危うい。
例え結婚話がなくならなくとも、頂けるお礼は受け取るべきだろうと瑞華は判断した。
それをこの場で言うつもりにもならず、婚約者になられる方の件は引き受けてから、後の話は適当に話を濁そう。
そう思っていると。
「何か問題がおありなのでしょう?」
月人のどこか愉しそうな声に、瑞華は思わず目線を合わせた。
その深い眼差しに捕らわれると、心を透かし見らるような錯覚を覚える。
「お聞かせ、下さいますね?」
「…」
思わず息を飲んだ。
その眼は、瑞華に打ち明けることを示唆している。
そして、それに抗えない程、瑞華はその存在に傾倒していた。
「次期様のお願いは御請けしたいと思っています。私を認めた下さった上でのお願いですもの。光栄に思います。私でお役に立てることは何なりとお申し付け下さって構いません」
そう言ってから、少し躊躇って、それでも促されるままに続けた。
「援助のお話は本当にありがたいお話だと思っております。そうして頂けるなら両親も喜ぶことでしょう。ですが私の結婚について言えば、次期様が思う様には動くことはおそらくありません。その件の配慮は不要としてくださると助かるのですが」
「ほう」
特に驚きもなく、続きを促される。
「両親にとって、既に鷹羽氏は身内同然です。援助いただける話も、鷹羽氏と相談の上で経営に活かしていくことになると思います」
「なるほど」
もしかしたら予想されていた話なのかと思うほどに、月人は艶やかな表情を崩さない。
思考に耽るように、ふと目を瞑るが、それさえもポーズなのではないかと疑ってしまう。
「私がお礼したいのは貴女自身。となればその結果は本意ではない」
クスリ、と笑って。
再度その目が開けられれば、艶やかな視線で瑞華は捕らえられた。
美しく深い、至上の宝石のような眼でそれをされては、息をするのも忘れそうになった。
だが紡がれた言葉の方が、より瑞華の思考を奪うことになる。
「では、こういった提案は如何か。私の弟の風人が、貴女に懸想していることにするというのは」
「…え?」
「花宮のご両親に、風人が華の姫君を所望している。そのために華屋の経営に力を貸すので、成功の暁には鷹羽氏との縁を切ってもらうように、と申し上げる。…もちろん事が上手くいった後に、無理に弟との縁談を進めたりしないともお約束しよう」
思いもよらない言葉は、しかし迷いなく語られた。
そう、これはお礼なのだ。そのことに改めて気づいた。
いくらお花畑思考の両親であっても。
九条グループからの申し出とはいえ、娘と結婚して一生華屋の面倒まで見る気がある鷹羽一王と手を切る気になるとは思えない。
勿論お礼は喜んで受け取るだろうが、すぐに鷹羽氏と相談するはずだ。
九条グループからのお礼を、どのようにすべきかと。
そう思えば、瑞華は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
「何か問題でもおありですか?」
「いえ」
瑞華は首を振った。
今でも現状、華屋の経営は危うい。
例え結婚話がなくならなくとも、頂けるお礼は受け取るべきだろうと瑞華は判断した。
それをこの場で言うつもりにもならず、婚約者になられる方の件は引き受けてから、後の話は適当に話を濁そう。
そう思っていると。
「何か問題がおありなのでしょう?」
月人のどこか愉しそうな声に、瑞華は思わず目線を合わせた。
その深い眼差しに捕らわれると、心を透かし見らるような錯覚を覚える。
「お聞かせ、下さいますね?」
「…」
思わず息を飲んだ。
その眼は、瑞華に打ち明けることを示唆している。
そして、それに抗えない程、瑞華はその存在に傾倒していた。
「次期様のお願いは御請けしたいと思っています。私を認めた下さった上でのお願いですもの。光栄に思います。私でお役に立てることは何なりとお申し付け下さって構いません」
そう言ってから、少し躊躇って、それでも促されるままに続けた。
「援助のお話は本当にありがたいお話だと思っております。そうして頂けるなら両親も喜ぶことでしょう。ですが私の結婚について言えば、次期様が思う様には動くことはおそらくありません。その件の配慮は不要としてくださると助かるのですが」
「ほう」
特に驚きもなく、続きを促される。
「両親にとって、既に鷹羽氏は身内同然です。援助いただける話も、鷹羽氏と相談の上で経営に活かしていくことになると思います」
「なるほど」
もしかしたら予想されていた話なのかと思うほどに、月人は艶やかな表情を崩さない。
思考に耽るように、ふと目を瞑るが、それさえもポーズなのではないかと疑ってしまう。
「私がお礼したいのは貴女自身。となればその結果は本意ではない」
クスリ、と笑って。
再度その目が開けられれば、艶やかな視線で瑞華は捕らえられた。
美しく深い、至上の宝石のような眼でそれをされては、息をするのも忘れそうになった。
だが紡がれた言葉の方が、より瑞華の思考を奪うことになる。
「では、こういった提案は如何か。私の弟の風人が、貴女に懸想していることにするというのは」
「…え?」
「花宮のご両親に、風人が華の姫君を所望している。そのために華屋の経営に力を貸すので、成功の暁には鷹羽氏との縁を切ってもらうように、と申し上げる。…もちろん事が上手くいった後に、無理に弟との縁談を進めたりしないともお約束しよう」
思いもよらない言葉は、しかし迷いなく語られた。
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