散華へのモラトリアム

一華

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第二章

その月から賜る願いと褒美 2

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「…え?」
驚く瑞華にされた説明はこうだ。

月人氏のお相手は、家柄としては一般家庭の出自らしい。
そのため旧宮家である月人さんとは身分違いという思い不満や文句を口にする人たちも少なくないとのこと。 
親戚にも不快な陰口をされたとかで月人さんは随分、ご立腹の様子だった。

相手にするつもりもなかったようだが、お相手の方から今後のことも考えて、九条家に入るに相応しいと思われる教養の勉強を多少出来れば嬉しいという希望があったのだという。
勿論、今からではどうしたって付け焼刃にもなる。  
ならば誰かプロを雇うよりも、お披露目の場所に共に参加し、フォローしつつ色々教えてくれる相手なら理想的ではないかということになった。

というわけで、だ。
その恋人と年齢が近く、且つ教育係としても『友人役』としても相応しい女性を探していたという。

「花宮のお嬢さんと言えば、誰に聞いても評判の才媛。貴女ならばと思いまして」 

そう艶やかに囁かれれば(イメージです。距離は遠かった) 
調子に乗りそうな自分をどうにか抑えた。
その見返りとして、『華屋への援助』を考えているということらしい。

「今、華屋のスポンサーをされている鷹羽氏の方は、貴女との結婚も交換条件だと耳にしました。乗り換えるとしても悪い話ではないでしょう」
そう言葉を足されて、九条風人から聞いたのだろうかと思いながら。


鷹羽一王の名前が出たことで、急に冷静な思考が顔を出した。
あの狡猾な空気。
獲物を見るかのような、瑞華を見る目線。
思い出すだけで、ぞっとする。


確かに、経済界でも名の知れた九条グループから援助が受けれると言うのは、力強いことだ。
それだけ聞けば、なんとなく全てが上手く行きそうな気がする。
だが。
だが、だ。

理由は明確に言えないけれど、あの鷹羽氏の何とも言えない鋭い視線を思い出せば、どうも容易く考えてはならない気がする。
ざわりと、背中に嫌な予感めいたものを感じて。

何故、そう感じるのだろう。
瑞華はなるべく冷静に考え始めた。

もう一年程前から、鷹羽氏は『華屋』に関わっている。
元々、鷹羽氏はアウトレットとオリジナル雑貨が中心のチェーン店を経営している。
店内は店舗事でコンセプトを変え、生活雑貨や食材まで取り扱っている。オシャレな雑貨屋を思わせる入口から、中に入ってからの品ぞろえも見やすい。女性客にターゲットをあて、盛況である。
先日も激戦区である都内に新店を出したところだ。
全国展開も着実に進む新進企業。
つまり『販売』と言う点に関しては『華屋』とも同業種。
スポンサーの立場でありながら、今では華屋の経営にも随分深く関わるようになり、企業戦略から卸し業者の選別まで鷹羽氏の息がかかっているのではないだろうか。

一方で九条グループは自動車産業を中心とした生産業がメイン。
もちろん販売店も抱えているが、その企業ハウツーは華屋とは大きな隔たりがある。

…もし鷹羽氏から乗り換える形で、九条グループから援助が貰えたとしても、上手くいく可能性というのは高くない気がする。
例え資金援助に専念してもらったとしても、それを活かせる経営体制が華屋にはない。
下手なことをすれば、鷹羽氏の援助を失った挙句、華屋は急速に傾くだろう。
そうなった時、『婚約者がお世話になったお礼』でどこまで加担してくれるかなどと、期待すべくもない。
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