散華へのモラトリアム

一華

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第一章 

その華は風にさらされて 3

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悲しい気持ちになってしまい首を振った。
駄目だ駄目!
こんな気持ちでは、何も出来ない。
気分転換が必要だと思い立ち、頬をパンパンと叩いた。

この時間から、良い子モード捨てます!

そう思い切ると、くるりと一度家の方に体を反転させた。
ごめんなさいと頭を下げて、中には入らない。

目指すは玄関にそびえる門の内側を超えた先。

出発前に敷地内の木の陰に隠していた旅行バックを取り上げた。 
歴史あるお屋敷らしく、身長を遥かに超える門の柱と、樹齢と共に歴史を語れるような木々の間は、いくらでも隠せる死角がある。

中には、ジーンズ、Tシャツ、鍔付き帽子。そして安物の白のリュック。靴だけは食事のために履いていたミュールをそのまま使うことにする。
門の内側で、素早く着替えて。

これを思いついた時は、誰かに見つからないか不安もあったが、もはやお手の物だ。
変装とまではいかないが、いつものよそ行きの格好に比べれば、街中を歩いていてもおかしくない程度にはなる。
瑞華の元々の雰囲気とは合わないので、浮いてしまって悪目立ちしそうな感はあるけれど、本人にとっては街中に溶け込むための精一杯の姿だ。
着ていた洋服はシワにならないようにキレイに畳み込み、旅行バッグに入れ込むと、リュックから伊達眼鏡を取り出して、かけた。

誰が見ても地味すぎて、少し怪しい。
しかしそれで良いのだ。


さて、飲みに行くか。 

渋く心で呟き、瑞華は仕事帰りの疲れ果てたサラリーマンの気持ちでふらりと街に繰り出した。 



お酒は弱くはない。どちらかと言えば飲める方だ。
本性で本心を話せる唯一とも言える、昔からの女友達と一緒に、二十歳になってすぐにお酒の飲み方は覚えた。
その親友は一般家庭で育ったごく普通のお嬢さんで、今回の結婚については教えていないので、ここ最近は会っていない。
会うのはきっと窮地を脱出した時か、もしくは結婚の報告の時。

後者の残念な考えはともかくとして。

好きなアルコールは親友同士で気兼ねなく飲めれば、お互い可愛いカクテルなんてほとんど頼まなかった。
もっぱらは焼酎をボトルで。
しかも場所は居酒屋。


親友以外の相手の前では、今まで作ったイメージに、好きなお酒は焼酎お湯割梅干し入りなんて、有り得なさすぎる。 
流石に女子一人でも入れそうな、少しは洒落た和食居酒屋で四杯目の濃いお湯割を作れば(当然、ボトルはキープ出来るのを確認済みで)勢い良く飲み干した。 

一応恥じらいがあるので帽子は被ったままだが。それがより、開放感に拍車をかける。 

アルコールがどっしりお腹に溜まるのが心地好い。ほろ酔いで気分が良くなり、頬がほんのり赤くなるのがわかる。
これ以上飲むと、家に帰ってから家族に疑われそうだ。
ウーロン茶を一杯頼んでから、ボトルのキープを手慣れた様子で頼んでから
お皿に残ったツ焼き鳥を串から外して、小さく口を開けて食べる。幼い頃からの癖で、流石に串からかぶりつきは出来ないので、それは無意識だ。
再度大きなため息をついた。 


結婚するしか、ないのかな。 

しょぼくれて切なくなる頭を振って、更にアルコールが回るがどうでもいい。 

店員が持ってきたウーロン茶を受け取って。

一口口に含んでから、ふと顔を上げて固まった。 
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